凌霄花 《第一章 春の名残》
内蔵助の口から出た、『吉良上野介が首』という言葉。
間違いなく仇討を意味する。
しかし、このご時勢、仇討など無理に等しい。
途方もない計画が、果たして実現するのか。
そんな思いを胸に、早苗はぽつりとつぶやいた。
「…本当の仕事は、これから始まるのかもな」
彼女の眼に映る赤穂城は、助三郎が称した『優しくて強い』姫路城とは程遠い姿だった。
悲しみ、不安、愁いを帯びた寂しげな姿。
ぼんやり、見ていると一足先に行っていた助三郎とクロが、離れたところで声を上げた。
「おい! 置いてくぞ!」
「ワンワン!」
二人に追いつくため、彼女は急いで歩き出した。
「今行く!」
こうして二人と一匹は赤穂を後にした。
一章 春の名残…
完
作品名:凌霄花 《第一章 春の名残》 作家名:喜世