花に想いを
「……で、コレ誰にもらったの? アンディ」
その問い詰めるような調子に、アンディはムッとして……なんでそんなこと訊かれなきゃいけない? ……いったん結んだ口をゆっくりと開いて低めた声を出す。
「……別に、誰だっていいでしょ?」
不機嫌なのだ。
バジルに待ち伏せされて花を押し付けられてそれがこんなつまらない理由だとか。
ペースを乱されるのは大嫌いで、付き合わされたこと自体に腹を立てている。
この上こんなことでなんだかんだ言われるとか。
っていうかお腹が空いた。
そういうことがウォルターにはまるで伝わらない。
「『誰でもいい』っておまえさ……」
呆れ返ったように言う。
「こんなめずらしい花わざわざ花屋で買ってきて、コレ『おまえを手に入れる』ってことだろ? いったいどんなヤツ? コレ渡してきたのって」
「なんで花屋で買ったってわかるのさ」
「だってコレ袋が花屋のじゃん」
「花屋で買えるならそうめずらしくもないでしょ。花言葉だって選んで買ったとは限らないんだし……」
「それはそうだけど、おまえにくれたんだろ、コレ」
「いや、たまたまかもしれないし。深い意味はないんじゃない? もし花言葉で選んだとしても別の意味かもしれないんだし……」
「別の意味ってどんな?」
「……えー……」
「だいたい花を渡すってそういうことだろ」
「いや……えっと……」
ウォルターの目がだんだんと細く、声が低くなっていく。
(ああ……)
面倒でなんとか逃れようとしていた真実が追い詰められていく。
(親が嘘を吐くこどもを見る時の顔ってこういうのか……)
多分、きっと、そうだ。
見たこともないし、ウォルターも自分も親でも子でもないけど。
思いっきりの不審顔がずいっと近付いてくる。
「アンディ……なんか変だぞ、おまえ。なんで誰にもらったか言えねぇの? 俺には言えない? もしかして女の子とか?」
「いや……」
ぶんぶんと首を振る。両手をウォルターを押しとどめるように前に出して。
頼むからちょっと待ってほしい。
(どうしよう……)
ああもう、めんどくさい。
たじろいで、言おうかどうしようか迷っていたアンディは、不意にすべてを投げ出したくなった。
限界だ。
ウォルターにくるりと背を向け、タンスに着替えを取りに歩き出す。
着ていた制服を脱ぎながら。
ちらっと背後に視線を投げる。
「そんなことより、ボクはお腹空いたから、食堂に行く」
もう付き合いきれない。
「待てよ、俺も行くって」
アンディの勢いに驚いた様子で、大慌てでウォルターが出しっ放しのCDやら雑誌やらを片付けに行く。
片付けるというより、適当な場所に置くだけだが。
アンディは着替えながら声を投げる。
「ウォルターはその花でも食べてれば?」
「ヒド!! なんでそんなこと言うの、おまえ」
「気に入ったんでしょ、あげるよ」
「気に入ってねぇし、いらねぇよ。なんか怖い」
「気にしすぎだと思うな」
「『必ず手に入れる』って花言葉、なんかストーカーっぽくてヤバくねえ?」
目を三角にして怒鳴るような大声で返すウォルター。
アンディはハァとため息を吐き、やれやれと肩をすくめる。
……まぁ、言うことないや、と。
着替えをする必要のない分早く用意のできたウォルターが戸口でアンディを待っている。
着替えが終わって財布をポケットに入れてそちらに近付くと、不機嫌そうにジロッとにらまれ、脅すように低めた声で言われる。
「なんか危ない目に遭っても知らねぇぞ」
『俺は心配してんのに!!』という悔しさをにじませている。
「うん」
知らなくていい。自分でなんとかする。だって……。
「大丈夫だよ。どうせバジルなんだし。何してくるかなんてだいたい予想がつく……」
「あ」
ウォルターがぽかんと口を開けてアンディを見る。
「え? ……あ」
『しまった』と口を閉じるがもう遅い。
ふたりで顔を見合わせる。
「「…………」」
沈黙の後。
固まっていたウォルターが目をつり上げて怒鳴った。
「よく見知ったストーカーだった!!」