DRRR BLOOD!!
プロローグ壱
昼間の路地裏、一匹の黒い猫が一匹の三毛猫に追いかけられていた。
黒猫の方は大きな黒いリボンを付けられていた。
三毛猫の方は普段の猫とは違う声を発しながら黒猫を追いかける。
―――しつこい。
黒猫は歩調を速めて路地裏の中でも広い道の曲がり角を曲がる。
三毛猫はそれを追いかけたが、三毛猫が曲がったときには既に黒猫の姿はなかった。
野良猫の視界には一人の黒い大きなリボンを髪につけた、全身黒い衣装に包まれた人間の少女しか映らなかった。
三毛猫はしばらくきょろきょろと辺りを見回していたが、諦めたようにそこから去っていった。
―――これだから盛りの時期は困る。
「発情期の時期は大変だろうねえ、だったら猫の姿はやめればいいのに」
黒い少女―――レンは突如聞こえた男の声に驚いて思わず振り返った。
男は白衣を着ており、顔にはガスマスクを着用しているため、顔はよくわからなかった。
―――死徒?いや、違う。こんな昼間から動ける筈は・・・。
今のところは人間と考えるしかない。
「ああ、怪しまなくていいよ。
私は人間だ。それに狙いは君ではないし、武器など持ってない。
まあ、私が君のような夢魔に勝てるわけはないがね」
レンは警戒を続けた。
自分の周りの者が目当てで自分に接触を試みたのだろう。
最悪の場合、ここで殺すしかない。
「おっと、名前を名乗るのが遅れた。
私は岸谷森厳と言う者だ。森厳で構わない」
「・・・」
レンは警戒を続けた。
「何か喋ったらどうだね?」
「・・・」
「もしかして、喋れないのかね?」
「・・・」
レンは喋れないわけではない。喋らないのだ。
勿論、長く生きて語学の知識は自然に身についたため、日本語も理解できる。
「じゃあ一方的に喋るか。
私の目当ては、遠野志貴君の直死の魔眼なんだよ」
「―――――!!」
「大丈夫、心配しなくていい。
ちゃんとドナーは用意するし手術費用はこっちがぶほっ!!!!」
森厳の言葉はレンの攻撃によって遮られた。
レンはジャンプして掌の上に浮かべた蒼く光る球体で森厳のガスマスクを殴りつけた。
勿論、相手はただの人間らしいので加減はした。
ガスマスクは壊れると思ったが、相当頑丈なのかレンの加減のおかげか壊れてはいなかった。
レンは一言だけ森厳に忠告してから去った。
「今すぐ消えて」
レンは内心安心していた。
―――よかった、この程度では志貴は殺せない。逆に返り討ちに遭うだけだ。
♂♀
「どうしたレン、やけに帰り早いじゃないか?」
目の前の眼鏡の少年、遠野志貴はレンを覗き込む。
「きっと今日は志貴様とゆっくり過ごしたいんですよ~」
遠野家の使用人、琥珀はレンの前にケーキを置いた。
猫にケーキを出す家は遠野家が初めてだ。
レンは猫ではないではないので問題は無いが。
「じゃあ琥珀さん、レンがそれ食べ終わったら俺のベッドに寝かしてあげてくれる?」
「はい、わかりました。
今日はどちらに?」
「いや、ちょっとバイトに。
秋葉には内緒にしといてくれない?」
「承知いたしました。それでは行ってらっしゃいませ」
琥珀は志貴を笑顔で送り出した。
レンは志貴にあの森厳という男が近づかないか心配だった。
作品名:DRRR BLOOD!! 作家名:蔦野海夜