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雪割草

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「あっ、さては他に好きな男でもできたか、それとも由紀さんの方が良くなったか?」

「いや。そんなことは絶対にない!…由紀は友達だ。女の子は俺の相手じゃない。」

「そっ、そうか…。」


今だ、今ならこの人に言いたかった事言える。
言ってもっと楽になりたい。


「…助三郎、聞いてくれ。」

「なんだ?」

深呼吸し、思いの丈をぶちまけた。


「俺は、お前が、一番好きだ。お前以外の男は誰も考えたことない。」

「え?」

「昔から、子供のころからずっと大好きだ…。助三郎。」

顔が熱い。
ちょっと恥ずかしいけど、格之進の姿のままだけど、声と話し方が男だけど。
助三郎さまに想いをはっきり伝えられた。
スッキリした。

しかし、早苗の耳に入ってきたのは笑い声だった。

「ぶっ…ハッハハハハハ!」

腹を抱えて大笑いし始めた。

なんで笑うの?笑うところ?

「俺は真剣だぞ!」

そう言っても、彼は笑いつづけていた。

「ハハハハハ!すまん…でもその姿で、声で、そんなこと言われたら可笑しくてハハハハハ…。」

「はぁ?」

「だって、格さんに、男に告白されてるとしか思えないから…。すまん。ごめん。ハハハハ!」

そうか…。
男同士じゃものすごく変。
周りに人がいなくて良かった。
でも、ひどい。女の子が勇気出して自分から告白したのに、笑い飛ばすなんて!

「笑うな!」

怒鳴り付けたら、ぴたりとやめた。

「なぁ。本当に格さんは早苗なのか?」

「見たんだろしっかりと?」

「しかし…信じがたい。」

マジマジと頭のてっぺんから足の先まで見られた。
恥ずかしい…。

「おい、格さん、顔を赤くするなよ。こっちまで恥ずかしくなる…。」

「それは俺のセリフだ!女の子をじろじろ見るなんて!」

「ハハハハハ!女の子って…。ハッハッハ!」

「もういい。帰る。」

やっぱりこの人はこういう人だった。
言って損した。

一人で帰ろうときびすを返し、歩きはじめた。
すぐに、焦った様子の助三郎に止められた。

「ごめん、待ってくれ!もう笑わないから!」

「ほんとだな?」

「あぁ。本当だ。」

「で、何だ?もう用は終わったろ?」

「いや、あの…格さん。早苗に、戻れるか?」

そういう助三郎の顔が真っ赤になっていた。

「…戻って欲しいのか?」

「難しいなら別にいい、水戸まで我慢する…。」

残念そうに言う彼がかわいそうになった。

「出来る…簡単に。」

「…なら、戻ってくれるか?」

期待でいっぱいのまなざしだったが、ちょっとからかいたくなった。

「お前、本当に早苗に会いたいのか?別にいいって前言ってなかったか?」

「…それは。」

「別にいいんだろ?俺なんか。」

「そんなこと絶対ない!…早苗に、会えると思って、朝風呂にはいった。髪を洗って結い直した。
…髭もちゃんと剃った。…着物もきれいなやつに替えた。早苗に会いたかったから…。」

何ともみじめな声でそうつぶやく助三郎をよく見ると、昨日見た浪人姿が嘘のようにすごく綺麗な身形をしていた。

この人、わたしのためにここまでしてくれたの?
うれしくてたまらなくなった。

「わかった。戻る……これでいい?」

初めて助三郎の目の前で変わり身を解いた。

「…早苗か?」

久しぶりに見上げた助三郎の目は皿のようになっていた。

「なに、その顔?まだ疑ってるの?」

返事は帰ってこなかった。
気付くと、彼の腕の中だった。


「…助三郎さま!?」

パッと離された。
「ごめん、痛いよな?傷口開いてないか?」

「大丈夫。この姿の時は。」

「じゃあ…いいか?」

「うん。」

再びギュッと抱きしめられた。

「…よく頑張ったな、我慢したな。ずっと隣にいたのに気付かなくてすまなかった。」

「助三郎さま…鈍感だから。」

「あぁ。俺は鈍感だ。すまんな、俺が今まで何も言わなかったから不安だったんだろ?」

「うん…。」

「俺は、お前の事大好きだ。お前以外はあり得ない。」

格之進のままで漏らした愚痴を覚えていてくれていた。
やっと、『好き』って言ってくれた。
しかも『大好き』って。

「ありがとう…。」


やっと心配事から解き放たれた。
やっと本当の姿で、偽らずに、長い時間好きな人の側に居られる。
ギュッと抱きしめてもらえる。

なにも邪魔する物はない。時間が許す限りこのままでいたい。

「早苗だ…。まぎれもない俺の早苗だ…。」

「助三郎さま…。」











宿では遅い二人を待ちわびていた。

「…遅いですね。助さんも格さんも。もうお昼ですよ。おなか減った…。」

「助さんに嫌われたとか言ってどこかにいっちゃったとか、ないわよね?」

「助さんはそんなに酷い人じゃないひとですよ。大丈夫じゃないですかね?でも、由紀さん、本当に格さんって、早苗さんだったんですか?」

「そうよ。驚いた?」

大まかなことを新助には説明しておいたが、今だに半信半疑の様子だった。

「はい。…でも、格さんが大好きだったのは、やっぱり助さんだったんですね。」

「そうよ。男の格好だから、すごく我慢してたの。新助さんよく見抜いてたわね。」

「格さん、助さん見るとき一番優しい目をしてたから。」



二人のうわさばなしをしているうちに、部屋に助三郎が戻ってきた。

「ただいま戻りました。」

「助さん、早苗は!?」

「由紀。ここよ!」

助三郎の後ろから早苗が現れた。

「早苗!良かった!」

女二人で抱き合ってキャーキャー言ってる所へ、恐る恐る新助が声をかけた。

「あの…早苗さんですか?」

「あっ。この姿では初めてね。早苗です。これからもよろしくね新助さん。」

「…綺麗ですね。ほんとにあの美雪さんにそっくりだ。…助さん、うらやましいなぁ。」

「…だろ?新助?」

「鼻の下伸びてますよ。では…。」

そう言った途端新助は身の危険を感じて逃げた。

「なんだと!?おい、待て!」

それを助三郎が追いかけて行った。


新助を締め上げ、一息ついた助三郎は早苗を人に見られない所に呼んだ。

「早苗、渡したいものがある…。」

「領収書?お医者代高かった?」

中身はやっぱり格さんと一緒か…。
仕事に熱心だな。
しかし、今は仕事の用事じゃない。

「…味気ないな。それは格さんに渡すからいいだろ?」

「じゃあ、なに?」

「あのさ、これ。受け取ってくれるか?」

というと、懐から何かの塊をとり出した。

「なにこれ?」
油紙とふくさで丁寧にくるんであった。

「良いから、開けてみてくれ。」

「櫛?どうしたの、これ?」
中から出てきたのは、黒の漆塗りに|螺鈿《らでん》で白い花の装飾がほどこしてある櫛だった。

「京で、買った。…水戸に帰ってから、お前に渡そうと思ってたが、ここにいるから…。」

そう、つぶやく助三郎の顔は赤かった。


「じゃあ、あの時、これ買ってたの?」

なぜか恥ずかしがって買ったものを見せてくれなかった。
お金が足りないから金貸してくれとせがんできた。
これ買ったからか…。

「お前に、似合うと思って…。」

「ありがとう。うれしい…。」
作品名:雪割草 作家名:喜世