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雪割草

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「うん。」


連れだって歩いていたが、ほとんど口を聞かない助三郎に早苗は不安になった。
自分では絶対しないような濃い目の化粧を二人にされた。
派手で似合わないのかな…。
変なのかな?

勇気を出して、感想を聞いてみた。
からかわれるかな?

「…ねぇ、やっぱり、変?この格好?」

「そんなことない!…可愛い。」

蚊の鳴くような声でポツリとつぶやいた。
顔が真っ赤だった。
初めて可愛いって言ってくれた。
ふざけたこと言わなかった。
うれしい。

やっと、話かけてきた。
「…なぁ、何したい?」

「じゃあ、甘い物食べたいな。」

「甘いものな。わかった。」

町の茶店に入ると、二人で座った。
品書きを早苗に手渡し、
「なんでも好きなのいいからな。」

さっと見て、決めた。
「じゃあ、お汁粉。」

助三郎は、早苗が食べているのを眺めながら、出された茶をすすっていた。

「美味いか?」

「うん。甘くておいしい。…ごちそうさま。」

「もういいのか?おかわりは?」

「いらない。」

「…誰かさんと違って少食だな。」

「それって、茜さん?」

あの時はわたし水飲んでた。
今、この人お茶ばっか飲んでる。

「あの子、何杯葛切り食った?よくあんなに入るよ。」

「女の子は、甘いのは別腹なの。」

「じゃあ、早苗も何か頼めばいいだろ?」

「だって、貴方お金ないでしょ?」

お汁粉は一番安かった。
無理に高いの驕らせられない。

「…情けないな。もっと高い美味いもの食わせてやりたかった…。」

「…ごめん。わたしに櫛買ってくれたからだもんね。」


お金をこれ以上使わないように、店を出た。

「じゃあ、帰る?」

「いや、まだ時間がある。でも、キツかったら、言ってくれ。」

どうやら、格之進の時、傷が痛んで道中何度か休憩を取ったのを心配していたようだ。

「大丈夫。今はどこも悪くない。この姿は何ともない。」

「そうか?」


開けた場所に来たので、二人で座った。
景色を黙って眺めていたが、先に口を開いたのは助三郎だった。

「まさか、早苗が格さんに化けてたなんて思いもしなかったな。」

「…ごめんなさい。」

「気にするな。怒ってなんかない。嬉しいんだ、早苗のこと二倍好きになれて。」

「どういうこと?」

「早苗は俺の一番好きな女の子だ。格さんは俺の大切な友達だ。」

普段より、水戸にいた頃より、思ってることはっきり言ってくれる。
周りに誰もいないからかな?
武士の生活じゃなくて、縛られるものがないからかな?


「…ありがとう。助三郎さま。」

そう言うと、彼の顔がぱっと明るくなった。

「いいなぁ。早苗にそうやって呼んでもらうと俺は生きてる!て思える。」

「助三郎さまって?」

「あぁ。俺の本当の名前だからな。」

格之進の姿で、低い声で「助三郎」っていうよりも、ずっといい。
この人が喜んでくれる。

「…でも、二人きりの時だけね。貴方は越後のちりめん問屋の手代さんなんだから。」

「算盤苦手で帳簿つけられない変な手代だけどな。…そういえば、早苗は何になるんだ?」

道中では早苗もいない存在。
本当なら水戸にいるはず。
格之進の方で通行手形を作り、早苗の方の女手形は持っていなかった。
女のままでは旅ができない。不便な時代…。

「そうね、由紀と一緒で、ご隠居さまの孫娘で良いんじゃない?手代の助さんをお婿さんにするの。」

「じゃあ俺は格さんより上手の手代だな。将来はちりめん問屋の主人だからな。」

「よっ、若旦那!」

「なんですか?早苗お嬢様。」

「ハハハハハ!」

「フフッ。」


それから、今までのこと、水戸のこといろいろ二人で話した。
格之進だと言えなかったことも言われなかったこともいっぱいあった。
ずっとそうしていたかったが、だんだん日が暮れてきた。

「きれいな夕日…。」

「そうだな。あぁ…時間が止まればいいのに。」

「なんで?」

「日没までしか早苗と過ごせない…。暗くなる前に帰って来いって釘刺された。」

「心配しなくても、また会えるわ。」

「二人きりは当分無理だ。…顔を良く見せてくれないか?。」

「こう?」

冗談交じりに、顔を差し出した。
そうすると、恐る恐る助三郎が手を差し出した。

「…早苗。」

そうつぶやくと、そっと頬に触れられた。
壊れ物に触るように、本当にそっとしか触れてくれなかった。
ぬくもりをもっと感じたかったので、早苗は離れようとしていた彼の手の上にそっと自分の手を添えた。

「大きい手。あったかい。」

少し驚いた様子だったが、手を顔から離すことはしなかった。
代りにじっと見つめられた。

「…俺の、好きな目だ。」

「ありがとう。」

しばらく見つめあっていたが日が大分影ってきた。

「…もう日が沈むわ。帰らないと。」

「そうだな…。」



帰路について少し経つと、助三郎は思いつき、勇気を振り絞ってつぶやいた。
薄暗くなってきた、人にも見られない。ちょっと恥ずかしいが…。

「…手、繋いでいいか?」

「…うん。」

良い返事が返ってきた。

差し出された彼女の手をそっと握った。
柔らかい小さな手。
これがあんなに大きな強い手に変わって敵を倒すなんて信じがたい。
本当ならそんなことさせたくはない。
優しい女の子で居させてあげたい。俺が危険から守ってやりたい。
でも、格さんはいなくならないで欲しい。大切な友達だから…。

複雑だな。




早苗は嬉しかった、助三郎が初めて手を握ってくれた。
手をつないで歩いてくれた。
水戸でやったら、『武家がはしたない!』と誰かさんに怒られそうだが、心の底からうれしかった。

「あぁ…。もう着いちまった。」

宿の前に来て、がっかりしている助三郎が目に入った。

「残念?」

「あぁ。」

晩は絶対に男女で過ごせない。格之進に変わらないといけない。
祝言まで我慢。名残惜しいけど、仕事だから仕方がない。


「…じゃあ、先に入ってるね。…え?」

手を離してくれなかった。
離す代わりに引き寄せられギュッと抱きしめられた。

「早苗。また会おうな。」

「うん。助三郎さま。じゃあね。」

「あぁ。」




助三郎に見られないところで男に変わった。
目の前で変わって、彼ががっかりする表情は見たくない。


「よう、格さん、腕相撲しよう!」

そう声をかけてきた彼は『助三郎さま』ではなく『助さん』の顔をしていた。

「なんで腕?」

「お前脇腹が危ないから、取っ組みあいは出来んだろ?腕だけならできるんじゃないかなって。」

「そうか。なら、やる。」

新助に行司を頼み、由紀と光圀は二人の試合をおもしろそうに見ていた。
二人の手がピタッと止まった。

「すごい!お二人とも、さすがですね!」

「早く決着付けて!どっちが強い?」

早苗は助三郎に力が入っていないのを見破っていた。

「…助さん、力入れろよ。手加減無用だ。」

「なら、本気入れるぞ?いいのか?」

「あぁ。真剣勝負だ。行くぞ!」

「おう!」

ぐっと、今出せる精一杯の力を入れた。

ドンという鈍い音とともに、早苗が勝っていた。
作品名:雪割草 作家名:喜世