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雪割草

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今までの経験からわかっていた。
若い女が自分を見て、どうなるのか。

助三郎はそんなことおかまいなく、普通に紹介し始めた。

「私の友の渥美格之進です。一緒に御老公の供で旅をしていました。」

言うや否や、女の子二人は大いに驚いた。

「え!?じゃあ、あの噂の!?」

なに?噂って。

「そうですよね?最近見つかった早苗の弟の!」

「とても、お強いと。それに、真面目で頭が良いと。」

「仕事もバリバリこなすそうで。」

「はぁ…。」

誰が広めたか知らない噂は相当広まっているようだった。
いつも仲良く話していた女友達二人は、目を輝かせ、見上げてきた。

うっ。そんな眼で、見ないで…。
わたしは、男じゃない!

「あの、渥美さま、お相手は?」

「あの…その…。」

わたしは早苗で、あなたの友達!というのもイヤ。
わたしの好い人は助三郎さまというのもダメ。 
八方ふさがりになった。

「可愛い!赤くなった!」

友達に男としてかわいいなどと言われるとは思わなかった。

可愛いって言うなら、女の時に言ってよ!

「こいつは俺と違ってまだ空いてますよ。」

「おい、助さん!」

「いいだろ?早苗、お前女の方は俺と結婚するが、そっちの時は一人身じゃないか。」

クソ真面目に言う彼は、何も考えていなかった。

「助三郎!言うなって言ったろ!」

「あっ…ごめん。」

やっと気がついたらしく、気不味そうな顔になった。
運悪く女の子二人組は聞いていた。

「え?いま早苗って…。」

「いえ、早苗の弟の格之進。…私たちは仕事が残っているのでこれにて。いくぞ、早苗!」

「失礼します。待て!助三郎!誰が早苗だ!?おい、そっちは西山荘じゃないぞ!」

ごまかしも失敗した上に、さらに逃げようとする助三郎を早苗は追いかけて行った。


後に残された春恵と奈美はぼやいていた。

「仲良いわね、あの方たち。」

「良いわね早苗。旦那さま格好良くて、弟も格好良くて。」





さすがに追いかけっこをしすぎた二人は息が上がった。
傍から見ても、二本差しの男二人が追いかけあっててもおもしろい光景ではない。
早苗はとっさにいいことを思いついた。
助三郎の最大の弱み。





助三郎は、ほっとしていた。
あまりに足が速い友達との追いかけっこは体力を消耗させる。
やめて良かった。

息を整えると、彼はおもむろに話しかけてきた。

「…助三郎、ちょっと話がある。」

「…なんだ?」

「…もう仕事しろなんて、不粋な事言わない。」

この言葉を助三郎は待っていた。

「やった!じゃあ遊びに行こう。な?」

「…遊びなんかより、もっと良いことしよう。」

「…え?」

助三郎は猛烈にイヤな予感がした。

そういえば、早苗が仕事ほかるなんてあり得ない。
何かある!

案の定手をとり、嬉しそうに、触り始めた。

「…さっきの言葉、うれしかったぞ。」

「…は?」

声音がおかしいことに気がついた。

「…やっと姉上から離れてくれたんだな。…やっと俺だけの助三郎になってくれた。」

これは、ヤバい格さんか?格之進その二か?

「俺は、うれしい。一生俺はお前の物だ。ふふっ。」

こういうことか!
俺の仕置きの為にこいつが現れた!
こんな昼間の屋外で押し倒されたらたまったもんじゃない。

怖い彼の魔の手から逃れるため、必死になった。

「…仕事やるから。な?真面目にやるから。」

「ダメだ!一緒に帰って良いことするんだ!」

いったい、なんなんだ?

「…あのさ、なんだ?いいことって?」

耳元でそっと囁かれた。

「…イチャイチャに決まってるだろ?風呂か布団の中で…。どっちがいい?」

「……。」

なんで格さんその二はこんなにヤバい性格なんだ?
男色なのか?それとも女だから当たり前なのか?

呆然としているうちに両手を手拭いで縛られていた。
恐怖が助三郎を襲った。

「…格之進?なにする気だ、お前そういう趣味か!?」

こんなことして、さっき言った事を考慮に入れると…。
動けなくして手籠めにする気か!?

「だって、助三郎か逃げたら俺が悲しむだろ?俺はお前の物、お前は俺の物だ。」

「ははは…。そうか…。はははは…。」

とんでもない趣味の格之進その二に助三郎はもう笑うしかなかった。



「よし、できた。行くぞ。こうでもしないとお前、仕事しないからな。」

そう言った男は、すでにいつもどおりの格之進だった。

はめられた!

「イヤだ!逃げる!」

必死に逃げようとしたが、怒った早苗にはかなわなかった。

「無駄な抵抗はやめるんだ!」

そう言うと、助三郎の鳩尾に拳が食いこんでいた。

「ぐぅ…。」

さすがの助三郎も両手を縛られ、反撃することは不可能だった。

「手間かけさせやがって…。ったく…。」

仕方なく早苗は気絶させた助三郎を担いで持ち帰った。


西山荘で待っていた光圀の目の前に、仕留めた許嫁を転がした。

「御老公、佐々木を連れ戻して参りました。」

「おや?なぜ寝ておる?」

「抵抗したので鳩尾に一発入れておとなしくさせました。じきに起きますのでご心配なく。」

言われたとおりの任務を遂行した。
後は寝ている許嫁に仕事をさせるだけ。

「どうじゃ?いい人材じゃろ?」

光圀は早苗を前に、ホクホク顔で隣に座っていた年配の家来に話しかけた。

「はい。仕事は正確で速い。文章は上手い。柔術は言うこと無し。」

「そうじゃろそうじゃろ?」

「ただ、毎日出仕が出来ないのが残念。まぁ、佐々木を家で支える役目もある。無理しないように出仕してくれ。」

さもすべてを知っていると言った口ぶりの男に早苗は疑問を感じた。
この方は誰なのか、何者なのか。

「あの…。」

「お前さんの職場を管理する者じゃ。そのうち正式に紹介いたす。…この者だけにはお前さんの正体を言ってある。」

一瞬、怖くなったが、目の前に座る初老の男は満面の笑みをたたえていた。

「橋野の娘御とは驚いた。立派な若侍。又兵衛の息子では到底ないな!はっはっは。」

「はぁ。恐れ入ります。」

やはり父はいい加減な男で知れ渡っている事実を知ってしまい、少しがっかりした早苗だった。





その日の午後、目が覚めた助三郎はこっぴどく光圀に叱られ、反省したのか、猛烈な勢いで仕事に取り掛かった。
さすがに能力がある男だった。
てきぱきと仕事をこなし、夕方にはすべて仕事は終わっていた。

周囲の片付けも終わらせ、一息ついた。

「ふぅ…やっと終わった。」

「助さん、まじめにやればできるんじゃないか。」

「早苗に会いたい一心でやったんだ。もういいだろ?戻ってくれよ。」

「どんな口説き文句だそれ…家に帰ってからだ。」

「ちぇっ。」

「…代わりと言ったら何だが、飲むか?ご老公もどうぞ。」


その晩、三人で酒盛りとなった。
飲酒恐怖症が治った助三郎は楽しげに酒を酌み交していた。
早苗は光圀から、御褒めのお言葉を頂戴した。

「ご苦労だったな、早苗。並の男でもキツい仕事をよくこなした。誉めてとらすぞ。」

「ありがたきお言葉。」

「また違う事で忙しくなりそうだな。」
作品名:雪割草 作家名:喜世