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雪割草

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恥ずかしかったが聞いた。経験値はどれくらいか。
わたしは、一回男のまま遊女に襲われそうになったのと、スケベ奉行に手籠め寸前になった程度。
この人は、島原では遊ばなかったみたいだけど、江戸の吉原行ったことあるらしいし、
大阪の新地も行ったって言ってた。
だから二回や三回普通かな。

「……。」

ぼそぼそっとつぶやいたが、聞きとれなかった。

「え?なんて?」

「…一回もない。」

その言葉に驚いた。

「やったこと無いの!?ウソでしょ?」

「やるって言うな…。ほんとなんだ!」

顔が更にあかくなっていた。

「だって男の人って好きなんでしょ?」

「…嫌いじゃないが、快楽のためにしたくないから、そういうこと。」

「え?」

「それにな、女は不義密通だ、貞操まもれだうるさいくせに男はなにしてもいいって考え大嫌いなんだ。」

「まぁ…。そうかも。」

「…早苗が俺を待っててくれてるなら、俺だって…。」

「じゃあ、なんで遊郭好きな振りしてたの?」

「仲間にわらわれるから。先輩にもな。だから付き合いで行った。買うには買ったが、手は出さなかった。しつこい女は薬で眠らせた。だから、今日、早苗が初めてだ…。」


この衝撃の告白に早苗は驚いた。
母上に、男は経験済みだから任せておけばいいって言われた。
なのにこの人未経験。だから緊張し過ぎておかしくなってる。

「笑うか?意気地の無い男だって…。」

「嬉しい!祇園で言ってたこと本当だった。」

誠実な夫に思いっきり抱きついたが、助三郎は固まったままだった。
抱きとめてはくれなかった。

ダメか。今夜は無理。

「…今夜は隣でもうひとつ布団ひいて寝るね。いつか大丈夫になった日に一緒に寝ましょ。」

しかし、彼に手を捕まれた。

「…一緒がいい。」

「そう?じゃあ、落ち着くまで、おしゃべりしましょ。」

「あぁ。」



しばらく話をして過ごした。
会えない間のこと、今までの事、これらのこと。
話しているうち、互いに落ち着き助三郎は冗談まで言えるようになった。
笑って話しているうちに、夜が更けていった。
燭台の蝋が尽きかけて部屋の明かりが薄暗くなってきたころ、早苗は助三郎にじっと見つめられた。

「落ち着いた?」

「あぁ、もう平気だ。」

そう言うと、膝の上に置いていた早苗の手に大きな手を重ねてきた。

「…寝よう。」

「うん。」


フッと火を吹き消すと、部屋は真っ暗になった。
何も見えない漆黒の闇が二人を包んでいた。

「…怖くない?」

「…早苗がいるから平気だ。」

しばらくすると目が慣れて互いの顔が見えるようになった。
助三郎は早苗の顔を見つけていた。

「早苗…。」

そう言うと、そっと腕の中に抱えこまれた。
やっと抱き締めてくれた。
優しくて、逞しくて、温かい。

そのまま二人は身体を横たえた。
押し倒されるのとは違い、優しく寝かせられた。

助三郎は身体の下の早苗の顔を覗き込み頬に触れ、そっと囁いた。

「愛してる…。傍で俺を守ってくれるか?」

早苗は微笑み返事を返した。

「はい。ずっと貴方のお傍に…。」


「早苗…。」

「助三郎さま…。」


助三郎と長い長い口付けを交わした後、彼に身を預けた。

誰からも見張られていない、邪魔されない、本当に二人だけの長い夜がふけていった。





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ここまでお付き合い下さりありがとうございました。


花言葉

『待雪草(スノードロップ)』…開運、希望、初恋のため息 など

『雪割草』…内緒、忍耐、あなたを信じます など
作品名:雪割草 作家名:喜世