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雪割草

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「じゃあ、早苗ちゃん、また近くに寄ったら遊びに来てね」

「うん。文も書くね」

「楽しみにしてる」

 女同士の約束をした。





 早苗は男に変わった。
見上げて来る千代の眼をしっかり見つめ、彼女に別れを告げた。

「……千代ちゃん、ありがとう。これで行く。体に気をつけて」

「はい。早苗ちゃんも」

「じゃあ」

 早苗は名残を断ち切るように千代に背を向け、歩き出した。
そして一度も振り返らなかった。

「さようなら。格さん……」

 千代は姿が見えなくなるまで、見送った。





「いいな。兄弟…。」
 
 出立してしばらく後、早苗の横を歩く助三郎がそうつぶやいた。

「あぁ……」

 早苗はその言葉に、水戸の兄を少しだけ懐かしんだ。
しかし、言いだした彼は彼の妹を懐かしんだのではなかった。

「弟が欲しい……」

「そうか?」

 早苗はその気持ちがわからなかった。
姉や妹を望んだことはあったが、弟は無かったからだ。

 助三郎は、弟をどうやって手に入れるかの対策を一人練り始めた。

「一先ず、妹の旦那に期待だな。あ!」

 突然突拍子も無い声を上げた助三郎を、早苗はジロリと睨んだ。

「なんだ? いきなり変な声出すなよ……」

「俺の妹、極端に男嫌いなんだ。どうしよう!?」

 真剣に心配する彼の姿を早苗は笑った。

「気にするな。そのうち好きになる」

「そうか? 大丈夫かな?」

 先を歩く光圀も笑って言った。
 
「そうじゃ、男女のことは誰にも解らんもの。突然好きな男を連れてくるかもしれんぞ。ハッハッハッハ」

 助三郎の心配はどうやら消えたようだった。
しかし、彼の興味は他へ移っていた。

「そうだ格さん、千代さん置いていっていいのか?」

「へ? どういう意味だ?」

「だから、連れてこなくて良かったのかって言う意味だよ」

「だって、あの子には仕事があるし、俺にも仕事がある」

 途端に助三郎は肩を落としがっかりした表情を浮かべた。

「つまらないなぁ…… まぁ、格さんに女の気持ちなんかまだ解らないか」

 その言葉に早苗は苛立ちを覚えた。
女である自分が女の気持ちが解らない訳が無い。
 鈍感な助三郎の方がよっぽどだった。

「お前の方がわかってないだろ……」
 
 そう小さく吐き捨てると、鈍感男は首を傾げた。

「え? なんで?」

 再びイラッとした早苗は嫌味に言い放った。

「さぁな。よくかんがえてみろ!」
 


 しばらくすると、助三郎は早苗に小さな声で聞いた。

「……格さん、正直に言え。千代さんとどこまで済ませた?」

 早苗には意味不明な言葉だった。

「は? 何のことだ? 済ませるって、何を?」

「……わかってないのか?」

 呆れた表情の助三郎に早苗は聞き返した。

「教えてくれ。何のことだ?」

 しかし、彼は教えてはくれなかった。
代わりに、天を仰いだ。

「俺の勘違いか…… やっぱり格さん女はダメか……」

 女がダメも何もあったものではない。
早苗は適当に返した。

「ダメで何が悪い。死にはしないからいいだろ」

「いや、人生半分損する」

 ニヤニヤする彼に早苗はムッとして言い放った。

「それはない」

「そうか? 御隠居! 損ですよね?」
 
 助三郎は主に話を振った。
すると、光圀は笑って言った。

「あぁ、損じゃ損。美しい女子との触れ合いを知らんとは、可哀想にのぅ……」

「ですよね? ほらみろ」

 自信有り気にほくそ笑む助三郎に早苗はどん引きだった。

「あ、そう。女好きの助三郎殿の人生は順風満帆でなにより」

 早苗はこれ以上話について行けぬと一人歩みを速めた。

「待てよ! なんであんなに怒るんだ? あの男は」

 『渥美格之進』の正体を知らない助三郎は一人首を傾げた。


作品名:雪割草 作家名:喜世