第2Q 照れ隠しだよ、バカ神くん
1-紺野舞
「ねぇ、昨日のあれ見た?」
「見た見た!あの俳優ちょーかっこいい!!」
「ねぇ、あたしも、ああいう人と付き合いたいなぁ」
「あんたや無理無理」
「なんだとー」
ここは、一年B組。騒がしい教室の中、私が居座っているのは、教壇から見て右二番目一番後ろの席。
「火神くん、教室でボールを扱ってはいけませんよ」
私の左、一番端の席にはホクロくんだ。彼の前の席、すなわち私の左前にはバカ神くんだ。
「いいじゃねぇか。ドリブルもしてねぇし。指の上で回してるだけだぜ」
バカ神くんは、バカみたいに右手の人差し指にボールを乗せ、左手で回転させている。
「まぁ、結構危ないし、そろそろ止めな、バカ神くん」
「てめーがあだ名やめたらなぁ」
のほほーんと言ったバカ神くんに私はなんとなくいらっと来て、
「んだと、バカ神……やめろっつうたら、やめろ、ガキャァ」
私の低い声にバカ神はビクッと肩をふるわせ、スーッと私を向く。
「す、すまねぇ」
と言って慌ててボールを下ろした。
「紺野さん、これでマネージャーとして『キセキ』を引っ張る一人だったんです」
「な、なんか納得できたわ」
「私、正しいと思うこと以外、よほどのことがないと口出さないけど、言うことは、聞け」
「は、はい」
私は、分かればよい、というように頷き、バカ神くんは机に突っ伏した。
「そういってもよぉ、うずうずすんだよ。とっとと試合してぇ。練習試合でも、なんでもいいからよぉ」
バカ神くんはボソッとそう言いながら、私たちのほうを向いた。
私は一度固まり、「ブッ、ハハハッ」と吹き出した。
「な、なんだよ、紺野、なに笑ってんだ?!」
「火神くん、知らないんですか?」
「なにをだよ。紺野やおめぇのことなら、全然知らねぇぞ」
「そうでなく……そうですか、知りませんか」
「なんのことだよ」
「いい、いい、ホクロくん。はぁ、おもしろかった。ねぇ、じゃあ、主将にでも聞きに行こうよ、バカ神くん」
「お、おう」
ということで、昼休み。
バカ神くんがどでかいパンを食べ終え、私とバカ神くんは二年の教室へ、ホクロくんはいつものようにどこかへ消えた。
そして、すぐに主将を見つけ、声をかけた。そして、事を話すと、
「いや、お前ら、まだ試合なんて出れねぇよ」
そう言われたバカ神くんの顔は、予想通り歪んだ。
「へ、な、なんでだよ……ですか?俺に何が足りないっつうんですか?!」
慌てるバカ神くんと、敬語使えてないことを不思議がる先輩である。
「いや、お前ら、まだ本入部届けだしてないだろ。正式な部員じゃないと、ダメだよ」
と言い終わるか否か、のところで、バカ神くんは「あざっす」といって、早足で別の場所へと向かった。
私も、先輩に礼をしてついて行く。
「ね、こういうこと」
「さっさと言えばいいじゃねぇか」
「なんとなくね。こっちの方が楽しいもんっ」
「お前、案外性格腹黒いな」
「でしょー」
否定はしない。
さて、2年C組、相田先輩のいる教室だ。
バカ神くんが率先してドアを開け、相田先輩の席へ向かった。
とたん、なぜか相田先輩は牛乳を吹いた。どうやら、ゲームをしている途中だったらしく、いきなり現れたバカ神くんに驚いたようだ。
「なぁ、本入部届け、くれ!」
「なに、火神くんも」
「私もいます」
「うおぅ、やっぱり来たか、紺野さんも。って、音無いと、黒子くんほどじゃないけど気づけないわね」
「黒子も、来たの……ですか?」
「うん、朝にね。急に現れたから、もはや怪奇現象よ。うちのクラス、ほかに目撃者できなかったし」
「そういえば、ホクロくん、朝教室に来るの遅かったなぁ」
「いや、いても気づけるかわかんねぇぞ、あいつわ」
「そうねぇ。まぁ、あなたたちなら、即戦力になりそうだし、大歓迎よ」
とりあえず、私たち二人分の本入部届を受け取る。
そのとき、先輩が謎の言葉を発した。
「あ、ちなみに、これを受け取るのは、月曜の朝8時40分ね」
私たちは、昼休み残り少ないし、と教室に戻ることにした。
途中で、掲示板に貼られた『誠凛高校、決勝リーグ進出!』という記事を見つけた。
「なんだ、誠凛って、強ぇんだな」
「強いですよ」
そう言ったのは、私ではなく、バカ神くんの隣にいつの間にかいたホクロくんだった。
「てめぇ、もっとまともに現れろ!!!意表を突くなぁぁぁ!!!!!」
バカ神くんは叫び、目の前の図書館には、それが響いた。
ホクロくんは困り顔で「しー」と人差し指を口に当てた。
「おちょくってんのか、おちょくってんだよなぁ、てめぇ」
「さっきの叫びはともかく、反射以外で図書館前で騒ぐな、バカ神くん」
「……てめぇ、黒子がいることわかってたろ、紺野」
「いいや。でも、これくらいは日常茶飯事だったから。いい加減慣れた」
「…………そうかよ」
バカ神くんは頭を抱えてため息をつく。
「そういや、お前ら、なんで帝光をやめたんだ?」
そう聞いて、振り向いた。気がする。
私とホクロくんは、静かに談笑しながら去っていた。お互い、影を隠し、音を無くして。
バカ神くんの叫び声は聞こえない。たぶん、静かに切れただろう。彼は血圧高そうだから。
2-火神大我
土日をまたぎ、ようやく待ちに待った月曜日が来た!
のは、いいが……。
「フフフッ、待っていたぞ」
相田先輩の発言を聞いて俺は言った。
「アホなのか?」
と。
黒子たちも、
「決闘でしょうか?」
「絶対あのポーズをしたかっただけだろうね、ホクロくん」
とつぶやいている。
他の1年3人はもはや呆然としている。
――ところで、
「忘れてたけどよ、月曜って、あと5分で朝礼じゃね―か!!!」
俺は叫び声を上げた。
先輩は意にも介さずに、話を始めた。
「いい、あんたたち、もしうちのバスケ部やりたいなら、全国目指して、ガチでバスケをやりなさい。ここから全校生徒に目標を宣言して、その覚悟を見せなさい!!ただし、1回戦進出とか、がんばるとか、はやり直し!次頑張ろうとか、いつか、ばっかりだったら、いつまでも弱小よ。私がマネージャーに指名されたときから、主将たちと約束してる。だから、あなたたち1年も、本気を見せろ!!!」
まくし立てるように言った相田先輩に、俺は言ってやった。
「はっ、簡単じゃねぇか」
手すりに片足をかけ、バランスをとって手すりの上に立った。
「1-B、火神大我!!キセキの世代をぶっ倒して、日本一になってやる!!!!」
俺はそう叫び、階下のざわめきを無視し、黒子たちにどや顔を見せた。
二人とも小さく笑っていた。
「さぁ、次は?あ、ちなみに、できなかったら、全裸で好きな人に告白しなさい!!」
「はぁぁ?!!」
思いがけない情報に、一瞬びっくりしたが、
「火神くん、取り消す?」
「……任せろよ……です」
ということで、俺は終了。
「さぁ、次は誰ー?」
相田先輩が促すが、誰も前に出ない。
「紺野さんと黒子くんはー?」
「あの、」
突如相田先輩の隣に現れた黒子に、先輩は驚き、
「僕、声張るの苦手なんで、メガフォン使っていいですか?」
その言葉を承諾し、声を出そうとしたその瞬間、
「こらーっ、またか、バスケ部!!」
教師どもがやってきた。
俺たちはこってり絞られ、屋上はやはり閉鎖された。
3―紺野舞
「ねぇ、昨日のあれ見た?」
「見た見た!あの俳優ちょーかっこいい!!」
「ねぇ、あたしも、ああいう人と付き合いたいなぁ」
「あんたや無理無理」
「なんだとー」
ここは、一年B組。騒がしい教室の中、私が居座っているのは、教壇から見て右二番目一番後ろの席。
「火神くん、教室でボールを扱ってはいけませんよ」
私の左、一番端の席にはホクロくんだ。彼の前の席、すなわち私の左前にはバカ神くんだ。
「いいじゃねぇか。ドリブルもしてねぇし。指の上で回してるだけだぜ」
バカ神くんは、バカみたいに右手の人差し指にボールを乗せ、左手で回転させている。
「まぁ、結構危ないし、そろそろ止めな、バカ神くん」
「てめーがあだ名やめたらなぁ」
のほほーんと言ったバカ神くんに私はなんとなくいらっと来て、
「んだと、バカ神……やめろっつうたら、やめろ、ガキャァ」
私の低い声にバカ神はビクッと肩をふるわせ、スーッと私を向く。
「す、すまねぇ」
と言って慌ててボールを下ろした。
「紺野さん、これでマネージャーとして『キセキ』を引っ張る一人だったんです」
「な、なんか納得できたわ」
「私、正しいと思うこと以外、よほどのことがないと口出さないけど、言うことは、聞け」
「は、はい」
私は、分かればよい、というように頷き、バカ神くんは机に突っ伏した。
「そういってもよぉ、うずうずすんだよ。とっとと試合してぇ。練習試合でも、なんでもいいからよぉ」
バカ神くんはボソッとそう言いながら、私たちのほうを向いた。
私は一度固まり、「ブッ、ハハハッ」と吹き出した。
「な、なんだよ、紺野、なに笑ってんだ?!」
「火神くん、知らないんですか?」
「なにをだよ。紺野やおめぇのことなら、全然知らねぇぞ」
「そうでなく……そうですか、知りませんか」
「なんのことだよ」
「いい、いい、ホクロくん。はぁ、おもしろかった。ねぇ、じゃあ、主将にでも聞きに行こうよ、バカ神くん」
「お、おう」
ということで、昼休み。
バカ神くんがどでかいパンを食べ終え、私とバカ神くんは二年の教室へ、ホクロくんはいつものようにどこかへ消えた。
そして、すぐに主将を見つけ、声をかけた。そして、事を話すと、
「いや、お前ら、まだ試合なんて出れねぇよ」
そう言われたバカ神くんの顔は、予想通り歪んだ。
「へ、な、なんでだよ……ですか?俺に何が足りないっつうんですか?!」
慌てるバカ神くんと、敬語使えてないことを不思議がる先輩である。
「いや、お前ら、まだ本入部届けだしてないだろ。正式な部員じゃないと、ダメだよ」
と言い終わるか否か、のところで、バカ神くんは「あざっす」といって、早足で別の場所へと向かった。
私も、先輩に礼をしてついて行く。
「ね、こういうこと」
「さっさと言えばいいじゃねぇか」
「なんとなくね。こっちの方が楽しいもんっ」
「お前、案外性格腹黒いな」
「でしょー」
否定はしない。
さて、2年C組、相田先輩のいる教室だ。
バカ神くんが率先してドアを開け、相田先輩の席へ向かった。
とたん、なぜか相田先輩は牛乳を吹いた。どうやら、ゲームをしている途中だったらしく、いきなり現れたバカ神くんに驚いたようだ。
「なぁ、本入部届け、くれ!」
「なに、火神くんも」
「私もいます」
「うおぅ、やっぱり来たか、紺野さんも。って、音無いと、黒子くんほどじゃないけど気づけないわね」
「黒子も、来たの……ですか?」
「うん、朝にね。急に現れたから、もはや怪奇現象よ。うちのクラス、ほかに目撃者できなかったし」
「そういえば、ホクロくん、朝教室に来るの遅かったなぁ」
「いや、いても気づけるかわかんねぇぞ、あいつわ」
「そうねぇ。まぁ、あなたたちなら、即戦力になりそうだし、大歓迎よ」
とりあえず、私たち二人分の本入部届を受け取る。
そのとき、先輩が謎の言葉を発した。
「あ、ちなみに、これを受け取るのは、月曜の朝8時40分ね」
私たちは、昼休み残り少ないし、と教室に戻ることにした。
途中で、掲示板に貼られた『誠凛高校、決勝リーグ進出!』という記事を見つけた。
「なんだ、誠凛って、強ぇんだな」
「強いですよ」
そう言ったのは、私ではなく、バカ神くんの隣にいつの間にかいたホクロくんだった。
「てめぇ、もっとまともに現れろ!!!意表を突くなぁぁぁ!!!!!」
バカ神くんは叫び、目の前の図書館には、それが響いた。
ホクロくんは困り顔で「しー」と人差し指を口に当てた。
「おちょくってんのか、おちょくってんだよなぁ、てめぇ」
「さっきの叫びはともかく、反射以外で図書館前で騒ぐな、バカ神くん」
「……てめぇ、黒子がいることわかってたろ、紺野」
「いいや。でも、これくらいは日常茶飯事だったから。いい加減慣れた」
「…………そうかよ」
バカ神くんは頭を抱えてため息をつく。
「そういや、お前ら、なんで帝光をやめたんだ?」
そう聞いて、振り向いた。気がする。
私とホクロくんは、静かに談笑しながら去っていた。お互い、影を隠し、音を無くして。
バカ神くんの叫び声は聞こえない。たぶん、静かに切れただろう。彼は血圧高そうだから。
2-火神大我
土日をまたぎ、ようやく待ちに待った月曜日が来た!
のは、いいが……。
「フフフッ、待っていたぞ」
相田先輩の発言を聞いて俺は言った。
「アホなのか?」
と。
黒子たちも、
「決闘でしょうか?」
「絶対あのポーズをしたかっただけだろうね、ホクロくん」
とつぶやいている。
他の1年3人はもはや呆然としている。
――ところで、
「忘れてたけどよ、月曜って、あと5分で朝礼じゃね―か!!!」
俺は叫び声を上げた。
先輩は意にも介さずに、話を始めた。
「いい、あんたたち、もしうちのバスケ部やりたいなら、全国目指して、ガチでバスケをやりなさい。ここから全校生徒に目標を宣言して、その覚悟を見せなさい!!ただし、1回戦進出とか、がんばるとか、はやり直し!次頑張ろうとか、いつか、ばっかりだったら、いつまでも弱小よ。私がマネージャーに指名されたときから、主将たちと約束してる。だから、あなたたち1年も、本気を見せろ!!!」
まくし立てるように言った相田先輩に、俺は言ってやった。
「はっ、簡単じゃねぇか」
手すりに片足をかけ、バランスをとって手すりの上に立った。
「1-B、火神大我!!キセキの世代をぶっ倒して、日本一になってやる!!!!」
俺はそう叫び、階下のざわめきを無視し、黒子たちにどや顔を見せた。
二人とも小さく笑っていた。
「さぁ、次は?あ、ちなみに、できなかったら、全裸で好きな人に告白しなさい!!」
「はぁぁ?!!」
思いがけない情報に、一瞬びっくりしたが、
「火神くん、取り消す?」
「……任せろよ……です」
ということで、俺は終了。
「さぁ、次は誰ー?」
相田先輩が促すが、誰も前に出ない。
「紺野さんと黒子くんはー?」
「あの、」
突如相田先輩の隣に現れた黒子に、先輩は驚き、
「僕、声張るの苦手なんで、メガフォン使っていいですか?」
その言葉を承諾し、声を出そうとしたその瞬間、
「こらーっ、またか、バスケ部!!」
教師どもがやってきた。
俺たちはこってり絞られ、屋上はやはり閉鎖された。
3―紺野舞
作品名:第2Q 照れ隠しだよ、バカ神くん 作家名:氷雲しょういち