第2Q 照れ隠しだよ、バカ神くん
今日も、いつものバーガー店。
来た順は、ホクロくん、バカ神くん、私の順だったようだ。
二人の顔を見れば分かる。
「……なんでまたいんだよ」
「いつも、僕が先に座っています。バニラシェイク飲みながら、人間観察してたんです」
「店を変えるか、あきらめるしかないよ、バカ神くん」
「…………あきらめるわ」
「ところで二人とも」
ホクロくんがシェイクをすすりながら言う。
「いきなり、約束が果たせなくなったかもしれません」
「屋上が閉鎖されたから?私は明日先輩に相談に行くよ」
「そいや、黒子はともかく、なんでお前は前に行かなかったんだよ、紺野」
「全校生徒に私のパンチラなんか拝ませる気はないの。手すりの上じゃ、あなたたちにも見える危険性あるし」
「……なるほどな」
バカ神くんはモグモグとバーガーを頬張る。そして、思い出したように口を開いた。
「そいや、お前ら、なんで帝光を抜けた後、ほかの有名な強豪に行かなかったんだ?お前らがバスケやるのは、なにか理由があるんじゃね―の?」
バカ神くんは、珍しく核心を突いた言葉を言った。
私が黙っていると、ホクロくんは先に口を開いた。
「バスケが好きだからです」
「知ってるよ!いや、そうじゃなくて!!」
「……僕のいた中学は強かったんですけど、」
「だからそうじゃねぇだろ?!!」
「ホクロくん、おちょくるの、止めてあげて」
「はい。で、そこには、唯一無二の基本理論がありました。それは、『勝つことがすべて』。そのために必要だったのは、チームワークなどより、キセキの世代たちの個人技での圧倒。それが最強だった。でも、そこには、もはやチームプレーなど存在しなかったんです」
バカ神くんは、そのあたりで、一度バーガーを食べる手を止めた。
「他の5人は肯定したけど、僕は、何か大切なことが足りない、と思ったんです」
「で、なんだよ、そうじゃねぇお前のバスケで、キセキの奴らを倒すとか?」
「そう思ってたんですけど、」
「マジかよ……」
「僕は、火神くんや、先輩たちの言葉にしびれた。今、僕がバスケをやりたい一番の理由は、誠凛のみんなを日本一にすることです」
バカ神くんは、少し恥ずかしそうに、
「よくそんな恥ずかしいこと言えんなぁ、黒子。なんか、バーガー食う気なくしたわ。お前らにやるよ」
「食べきれません」
「太らせる気、バカ神くん?」
「うるせぇ。……で、お前はどうなんだよ?紺野」
私は、ポテトを飲み込み、メロンジュースを一口すすった。そして、言った。
「私は、誰が勝つとか、私にとってはどうでもいい。正直、ホクロ君の言うことも、キセキのあいつらが言うことも、どっちも理解できるし、どっちも尊重すべき意見だと思う。だけど、私は肯定も否定もしないわ。私がやってるのは、君たちと理由が重なる奴なんか、いないだろうし」
「楽しいからじゃねぇのかよ」
「楽しいよ。でも、それだけじゃない。むしろ、第一の理由は、それじゃない」
私はバーガーの一つに手をかけた。一つくらいは食べたげる。
ホクロくんは、黙って静かにシェイクをすする。
「私ねぇ、いじめられてたの。小6からずーっと。特に女子にね」
信じられない、と言いたげなバカ神くん。私は続ける。
「で、中1の時、九州からこっちに来たの。中1の時は、クラスに関わりたくなくて、昼休みは図書館によくいたわ。もう、昼ご飯も食べないで」
そして、とホクロくんを見る。
「ホクロくんに出会った。彼とは、中1の時同じクラスでね、いつも体育の時間見学していたのを見ていたの。で、病気の話とかして、バスケ部のマネージャーにならないか、って誘われたの。当時無所属だったし、女子もほとんどいなかったから、ちょうどいいや、って事で入った。まぁ、中2から、突然マネージャー志望増えて、私以降は2人入ったけど」
「マネージャーになったのは分かったけどよ、いったいなんで選手になったんだ?」
「赤司っていう、うちの主将です。彼は、僕の才能をも見抜きました。それほどの人に目をつけられたんです」
「そっ、赤神様。彼に誘われてね。中1の半ばから言われてたけど、中2になってから、入ったわ。だって、技術はまだまだだし、体力なんて言わずともがな。でも、とある奴のせいで女子が頻繁に来るようになったから、いっそ、赤神様の言ってたように、選手となって、プレーであいつらを、私をいじめる奴を見返そう、ってね。……それが、私がバスケをやる第一の理由」
バカ神くんは黙る。私は黙って立ち上がり、言った。
「情けとか、同情とかはいらないわよ。私、いじめに関してそういうの、大っ嫌いなの」
「そう……か」
「じゃあ、私行くね」
私はまた音も無く去った。
引かれたかもなぁ。嫌われたかもなぁ。もう、話してくれないかもなぁ。もしそうなったら、そこまでだ。
何度も経験した。だからこそ、もう辛くはない。
それに、直にあれも始まるだろう。明日が怖い。
4-相田リコ
屋上騒動の日、私は紺野さんとメールをした。宣誓についてだ。
『わかった。まぁ、全校生徒にも示せるって意味では、うまいわね。なんとか掛け合ってみるわ』
『よろしくお願いします』
そして朝、とある委員会の委員長と話していた。
「ってわけなの。少し時間くれたら、後の段取りは私と、この娘でやるわ」
紺野さんを見せつけ、委員長の男子は「了解。副会長」と軽い会釈をし、去った。
「ありがとうございます、相田先輩。先輩が副会長で助かりました」
「まぁ、友達いないから、私に頼むってのは道理ね。私からも頼んでっていったし」
紺野さんはクスクスと笑い、そういえば、と思い出したように言った。
「運動場のあれ、先輩は見ました?」
「あれ?」
ほらっと、近くの窓から運動場を見下ろした。紺野さんの指さす方を見る。
教室に行ったとき、たしかにクラスが外を見てざわついていたが、紺野さんの件で見ていなかったのだ。
運動場には大きく、
『日本一にします』
とあった。内容から、誰のものか分かった。
「ホクロくんですね、きっと」
「そうね」
これもこれであり、ね。
黒子くんに、後で言いに行かねば。
さて、昼休み。私と紺野さんはある部屋にいた。そこで、私はマイク越しに言ったのだった。
『全校生徒の皆さん、昨日の屋上でお騒がせしました、バスケ部マネージャー兼カントク、生徒会副会長の相田リコです。今日は、一人、宣誓のため、この放送を使わせていただきます!じゃあ、どうぞ』
『1年B組、紺野舞!嫌いな奴らを見返すため、自分も強くなり、うちのチームが日本一になるまで頑張ります!!』
『はい、ということでした。貴重な時間、ありがと。じゃあ、続きはどうぞ、放送委員会』
『はい、では、続いてのお知らせは……』
誠凛バスケ部は、ほかの1年の宣誓を部の声出しとしてやり、火神くん、黒子くん、紺野さん、そして他に3人の男子を獲得したのだった。
5-紺野舞
バカ神くんたちと話した次の日の朝、運動場を見てほほえみ、私は少し怖々としながら、教室へ入った。
すぐにバカ神くんが近づく。
「よお、紺野」
「なに?」
私は意に反して、つっけんどんに返事をする。バカ神くんは意にも介さずに言った。
作品名:第2Q 照れ隠しだよ、バカ神くん 作家名:氷雲しょういち