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スピカ@黒桜
スピカ@黒桜
novelistID. 28069
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この10cmには愛がつまってる!

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暖かな春の風が頬をゆるりと撫でて過ぎ去っていく
何処かの二国が心待ちにしている『春』だ
今日はいつにもまして暖かい日だから花見客は多い。
――――――多い、というよりか寧ろ人を見に来た感じだ。
「菊、大丈夫か?」
「ええ、私の家ではよくあることですから・・・」
折角アーサーさんが来られるのだから名所の桜を見ようと思ったのが間違いだった
仕方ないからココを出て近所の川べりの桜でも見に行こう
「菊の家って桜が咲いたらお祭り騒ぎになるよな」
「みなさん楽しみにしていらっしゃいますから・・・」
そう言う自分も蕾が膨らみ始めたころからソワソワしはじめて、その内の幾つかが花弁を開くともう居ても立ってもいられなくなって『そうだ、花見に行こう!!』となるわけである
遺伝子に組み込まれてるとしか思えない本能的な行為だ。
本当に『日本人にしか無い“桜遺伝子”』とか存在するかもしれない。

「それにしても酷い人ごみだったな。お前を見失わなくてよかった」
「耀さんの所の民族大移動みたいな物ですから。ああ疲れた」
「お前、運動不足だぞソレ」
「失礼な。キーボードの早打ちは立派な運動ですよ」
これだけは主張しよう
エロゲは瞳の娯楽と腕の運動を兼ね備えた崇高なスポーツであると!!
「何言ってんだお前。エロいことしたいなら今から家d」
「アーサーさんは私の紳士ですからこんな良い天気の日に花見に行かないで家で活動することを私に強要するような人ではないんですよね?」
「『私の』紳士・・・!!もちろんだ菊!綺麗な桜を見に行こう!!」
「それでこそアーサーさんです」
なんてチョロい
「お、菊!あこに桜あるぞ!」
そう言ってアーサーさんの細い指が差したソコには一本の大きな桜の木があった
「あら、綺麗ですねぇ・・・」
「だろ!あこで花見しよう!」
獲物を得た猫のような得意げな顔
「隠れた名所みたいな感じですねぇ」
ゆるやかな丘の上にずっしりと生えるソレはなかなかの大木で立派だ
枝は空へ向かってしっかりと伸び、対照的に花は繊細で桜独特の雰囲気がある
「今度からここでお花見しましょうか」
「前の川べりもキレイだったけどな」
花弁が川の流れに乗って行く姿は美しい
「何しろ人がいないのは助かります。皆さんあまり人ごみは好かないでしょう?」
「まぁ人にのまれるのは好きじゃねぇよな」
人ごみの多い私の家は周囲には奇異なものに移るらしい
・・・そりゃこんなに小さい島に一億三千人もいますもの!!半分は山だから人住めませんもの!!

そうこうしながらも桜の下に茣蓙を広げて朝作った弁当と水筒を並べる
勿論、すべて私が作った物だ。
爺の特性である早起きはこういう時に役に立つ。
「さて、お昼にしましょうか」
朝の早い時刻に作った弁当はすっかり冷めてしまっているけどなかなか美味しい
「ん、美味い」
「それはよかったです」
強い風が吹いて淡い薄紅の花弁を散らしていく
思わず立ち上がってピョンと飛び跳ねて花弁をつかもうとする
「おい、危ないぞ」
「あ、あと少しで花弁が、」
「ほら貸してみろ」
そう言って立ち上がると一番手元にあった花の枝をポキリと折った
「あー!!」
「うぇっ!?ちょ、ダメだったのか?」
「うう、取りたかったのに・・・」
「いや、お前届かないだろ」
「アーサーさんが高いんです!」
自分より10cm高い所にある金髪を睨む
「私があと10cm身長が高ければアーサーさんと同じ世界が見れたのに・・・」
「何拗ねてんだよ」
「貴方には分からないでしょう!この身長差という名のコンプレックスを!!」
骨格のつくりからして違うのだ。同じ人間なのに、
「お前って本当に可愛いな」
「・・・私が貴方と同じ身長でしたら『可愛い』なんて言わせませんのに」
「いや、身長とかの問題じゃなくて普通にかw」
「言わないで下さい!!」
背伸びをして手を伸ばし彼の口をふさぐ
が、すぐに逃れられる
「ヘッまだまだだな」
「ああー」
「口塞ぎたいんならこうしろよ」
当然、唇を重ねられる
屈んだ彼の髪が頬にさらりとあたる
異常に長く感じる時間が過ぎ去り私たちは唇を離した
「卑怯ですアーサーさん!!」
「な、何が卑怯なんだよ!?」
「私は背伸びしないと貴方にキスできないのに!!アーサーさんは何時でも私を襲えるんですね!?」
「襲うとか言うな!人聞きの悪ぃだろ!!」大体、お前は小さいままでいいんだよ!!」
「やっぱり襲う気ですね!さすが元祖変態紳士のアーサーさんです!」
「違ぇよ!!お前の恋人に対する意識は何なんだ!」
いちいち頭をグシャグシャにしてくるのがうざったい
「お前が小さくないとこうできねぇだろ!!」
「な、ななななぁ」
ぐるりと腕が体にまわって抱き込まれる
ぽすりと頭の上に彼の顎が当たる
「おい!おとなしくしろ」
「何するんですかぁ!ちょっ、きつ、」
「あ、悪ぃ」
少し腕の力が緩む
「菊ってやっぱ冷たいんだな」
「冷え性なんです。仕方ないでしょう」
「体が冷たいやつは心が温かいんだろ?あながち間違いじゃねぇかもな」
「貴方は少し高いですよね、体温」
「ばっ、これは菊と一緒だからに決まってんだろ!!」
ボワッと腕までほんのり赤に染まる
「あ、赤くなった」
「うるせぇ!言うなよ・・・」
「いやぁアーサーさんは可愛いですね」
「お前の方が」
「こんな爺が可愛いだなんて本当にアーサーさんは冗談好きですよねぇ」
「俺みたいなのが可愛いなんて菊は目がそうとう悪くなったんだな」
お互いに言い合って、目があって笑い出す


10cmの差のおかげで生まれた幸せはとても温かかった