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永遠の契り

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「父上。またここにいらしたのですか」
青華丸は殺生丸の肩にそっと手を置いた。殺生丸は無言のまま、青い花で飾られたりんの墓に向っていた。
「結衣姫が父上を探しておりましたよ。今日は山向こうの湖に結衣を連れて行くはずでは?」
「・・・すぐ戻る。ただ、あとしばらくここにいる。結衣にそう伝えよ」
「父上・・・」
青華丸は言葉を継ごうとしたが、父はとにかく一人に、いや、母と二人になりたいのだと思い、静かにその場から去った。


りんは40を半ば過ぎた年でこの世を去った。この時代の女としては特別短命だったわけではない。そう、人間としては。しかし、妖怪にとっては50年にも満たない人生は短すぎた。殺生丸がりんを娶ってから30年。たった30年で、りんは生を終えてしまった。30年など、妖怪にとってはあっという間である。一瞬の時間である。
40歳を過ぎてもりんは若々しかった。可愛らしい妻だった。天真爛漫な笑顔は、三人の子供を産んだ後でも変わらず、殺生丸は日々愛おしさを深めていった。そんなりんがだんだん寝付くようになり、やがて起き上がれなくなり、そして儚くなった。殺生丸はその夜のことを鮮明に覚えている。


春の満月の夜だった。月を見に連れていってほしいとりんが言い出し、殺生丸は体に障ると渋ったが、どうしてもというりんの願いを断りきれなかった。りんが寒くないよう何重にも衣に包み、やせたりんの体を抱いて、空へ舞い上がった。りんの体はまるで羽根のように軽かった。殺生丸はその軽さがむしょうに哀しかった。
「殺生丸さま・・・きれい。お月様、すごくきれい」
「ああ。りん。寒くないか?」
「全然。殺生丸さまと一緒だもの」
「そうか・・・」
「りんが殺生丸さまのところへお嫁に来た時も、月がきれいでした」
「そうだ。あの夜も見事な満月だったな」
「覚えているのですか?」
「忘れるわけがあるまい」
殺生丸はりんにそっと口付けた。
「お前を初めて抱いた日だ」
「殺生丸さま・・・」
二人は満月の空をふわふわと漂っていた。
「幸せでした・・・」
「りん?」
「殺生丸さま、りんはとても幸せでした。殺生丸さまはいつも優しかった。ずっとりんのこと愛してくれた。子供たちも産まれて・・。りんは、これ以上望むものはありません・・・」
「りん・・」
「ここ数ヶ月、体の調子が思わしくなく、殺生丸さまに迷惑をかけました。許してください」
「ばかなことを」
「殺生丸さまの愛を受け入れることもできなかった・・・」
「りん、何をいうか」


床についてから、殺生丸はりんの体を気遣い、その体を抱くことをしなくなった。自分がりんを抱けば、りんの体力が消耗し、病を重くしてしまうと思ったからだ。すっかり肉がそげたりんの体を、殺生丸は夜通しやさしくなでながら、その腕に抱いていた。りんから目を離せば、その瞬間にりんの魂がその体を離れていまうのではないかと、殺生丸は恐れていた。何物も、恐れることなどない自分が。これほど、恐れている、りんを失うことを。りんを娶ったときから、りんと共に生きると決めたときから、りんが自分を置いてこの世から去ってしまうことは、おそらくあっという間に去ってしまうことは、最初からわかっていた。覚悟していたことだ。しかし、現実にその時が迫っていることを否応なく思い知らされて、殺生丸の心は暗い夜の海のように揺らいでいた。


「殺生丸さま?」
「なんだ?」
「あの野原へ・・・あの青いお花が咲いている野原へつれていってくれませんか?」
「造作もない」
殺生丸はりんが二人が初夜を過ごした野原のことを言っているとすぐにわかった。

野原につくと、殺生丸はりんをやさしく腕の中から下ろして、その背を後ろから支えた。振り返って、りんが殺生丸の顔を見あげる。
「殺生丸さま、覚えていますか?昔、りんが死んでも忘れないでくれるかと聞きました」
「ああ。覚えている。私の答えを覚えているか?祝言後お前に答えた。りん、お前は永遠に私と一緒だと」
「殺生丸さま、ありがとうございます。覚えていますとも。でもね・・・」
りんは殺生丸の頬に手を添えて言った。
「もう、いいのです、りんがいなくなったら、りんのことは忘れて・・・」
「りん?」
「りんはもう十分幸せをもらいました。人の一生では受けきれないくらいの愛を殺生丸さまはりんにくれました。もう、十分です・・・。りんが死んだら、殺生丸さまは殺生丸さまの幸せを求めてほしいのです」
「りん、何をいうか!」
りんはやさしく微笑んだ。
「殺生丸さまにはりんのために、いろいろ無理をさせてしまいました。りんがいなくなったら、殺生丸さまの思い通りに生きていってほしいのです。だって・・殺生丸さまはこれから先も長い長い時間を生きていくのですもの。りんは殺生丸さまが下さったこれまでの時間だけで、もう十分幸せなのです」
「りん!」
殺生丸はりんを強く抱きしめた。
「許さぬぞ、そのようなこと、そのような勝手なこと!私にお前を忘れろなどと!」
「殺生丸さま・・」
「りん、お前はたった30年で、そんな短い間で満足だというのか、私と共に過ごす時間が!?」
殺生丸はりんの両頬に手を添えてその瞳を覗き込んだ。
「お前は私をそれくらいにしか思っていないのか!」
「殺生丸さま・・」
「無理などしとらん!お前を娶ってから、一度として私は無理などしていない。ずっと、お前と・・・お前といて・・・私は嬉しかった・・・」
「あなた・・・」
殺生丸の金色の瞳が揺らいで、涙が一筋こぼれた。
「!」
りんが初めて見た殺生丸の涙だった。
「殺生丸さま・・・」
りんは殺生丸さまに抱きついた。殺生丸はその背に両腕を回した。
「りん。お前は永遠に私と一緒だ。私がお前を忘れることなぞありえん」
二人は共に涙を流しつつ唇を合わせた。
「りん。私の妻はお前一人だ。お前だけだ。お前だから・・・娶ったのだ」
「あなた・・・ありがとう」
「礼などいうな」
「はい・・・殺生丸さま・・・」
二人は青い花が香る野原に倒れこんだ。最初の夜のように。契りの夜のように。
「・・・りん、無理するな」
「いいえ。大丈夫です・・・殺生丸さまともう一度契りたい・・・。もう一度だけ・・・」
「りんっ!」

ゆっくりと、いたわりをこめた契りだった。激しさはない。狂おしさもない。しかし二人の互いへの愛が満ち満ちた契りだった。今生の契りだった。


「りん・・・」
殺生丸はりんに着物を着せて、寒くないように自分の両腕で包んだ。久しぶりに抱いたりんの体は以前と変わらず甘い匂いをさせていたが、その甘さが殺生丸にはなぜかたまらなく切なかった。
「殺生丸さま・・・」
りんはやさしく微笑んでいる。
殺生丸は腕の中に抱いているりんの心の音が次第に小さくなっていくことに気づいた。りんの命の火が消えつつある・・・。殺生丸はりんの顔を見つめた。りんに言わなければならぬ。今、言わなければならぬ言葉がある。

「りん・・・愛している。お前を愛している。永遠に愛している。お前だけを。お前が私にすべてを見せてくれた。この世のすべてをお前が私に教えたのだ」
「殺生丸さま、ありがとうございます・・・私もずっと、ずっと愛しています・・・」
作品名:永遠の契り 作家名:なつの