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千日紅

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「冗談だよ。なんにもないから。心配するな」

「でも、何かあったら言ってね」

「あぁ」

危ない秘薬を厳重に封印し、蔵の外に二人で出た。


「今日も、まだ暇?」

「あぁ、十日間は休みだ」

二人とも、仕事疲れをとるために休みをもらった。
早苗は非常勤なので、当分は要請がない限り、家で普通の奥様稼業。

「じゃあ、兄上の所行かない?姉上のお見舞いに」

「お、いいなぁ。行こうか」


旅の間に、早苗の兄、橋野平太郎の妻、優希枝《ゆきえ》が懐妊した。
父の又兵衛と、母のふくは大喜びだった。

「おめでとうございます。義姉上さま」

「ありがとう。まだまだだけどね」

「いろいろ教えてくださいね。兄上はどうです?」

「すごく浮かれてるの。毎晩話しかけてね」

「へぇ、あの兄上が?」

父の又兵衛に似て結構いい加減な性格の兄。
しかし、妻の優希枝を大切にしているらしい。
懐妊が早いのも道理だった。

「では、義姉上、お大事に。また来ます」

「またね。早苗さん」


帰り道、早苗はずっと赤ちゃんについて考えていた。
早く欲しい。
抱っこしたい。
隣でおとなしく歩く助三郎にこれ見よがしに言ってみた。

「あーぁ。赤ちゃんいいなぁ」

「だな」

「はぁ。わたしはいつかなぁ」

「だな」

「ねぇ、興味無いの?」

そっけない返答にムッとした早苗は夫に突っかかった。

「いや。そうじゃない。だから今晩一緒に…」

「そうだった…」

二人で黙りこくり、赤くなりながら家に戻った。




助三郎は昼過ぎから、違和感を感じていた。
早苗と過ごせる夜が待ち遠しかったはずが、時が過ぎるにつれて欲求が薄れ始めた。
食欲もあまりなく、遂には、布団に入る直前気だるくて、誘うどころでは無くなっていた。

「……お休み、早苗」

一人先に布団に入った助三郎を寂しそうに早苗は見つめていた。

「………」

「あ、すまん。こっちから誘っておいたのに。
…ちょっと疲れたみたいなんだ。ものすごく眠くて、気力がなくて…」

この言葉に早苗は朝彼が誤食した秘薬を思い浮かべた。
もしかしたら、橋野家以外の者が食べたら、本当に毒なのかな?
死んじゃったり、しないよね?

「……大丈夫?身体おかしくない?」

「あぁ、何ともない。心配しなくていいから。…また明日でいいか?」

「うん。じゃあ、明日」

明日への希望を込めた。

「……お休み、早苗」

「お休みなさい」



しかし、『明日』の約束は守れなくなった。

作品名:千日紅 作家名:喜世