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凌霄花 《第二章 松帆の浦…》

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 その矢先のこの相談。出来るだけ力になろうとした。

「どうやって?」

「着替えを男の状態でする。風呂も男で素っ裸で入る。勿論厠も男のままでする」

 早苗はぞっとした。
過去の悪夢を思い出し、鳥肌が立った。

「無理! 絶対イヤ!」

 由紀も彼女の辛い思い出を知ってはいたが、心を鬼にした。

「それがいけないの! 我慢しなさい! 大好きな助三郎さまのためよ!」

 すると、早苗は大人しくなった。

「……助三郎さまの、ため?」

「そう。だから、頑張って」




 早苗は帰宅後すぐに忠告を実践した。
夫に気付かれないように、彼が帰ってくる前に風呂を済ませることにした。
 そして、こっそりと風呂場に向かった。
 男に姿を変え、脱いだ。
ここまでは問題なかった。

「上はまだ大丈夫なのにな……」

 緊急時に男のまま風呂に入るときは多々あった。
そのときは、見たくない物を必ず隠して入っていた。
 しかし、由紀の忠告は『素っ裸で』

「慣れるんだ。俺の身体なんだから……」

 眼を瞑って、すべてを脱ぎ捨てた。

「助三郎のためだ。我慢だ、我……」

 その瞬間、突然ガラッと音が響いた。

「あ」

「へ?」

 扉を開けた者と、見られた者は互いに固まった。
その開けたのはあろうことか助三郎。
 彼は眼を泳がせ、すぐに背を向けた。
 
「……すまん、格さん」

 そして後ろ手で扉を閉めた。

「あ、あぁ……」

 彼は風呂場から立ち去った。
 残された早苗はそのまま風呂場で身体を洗い、湯船に浸かった。

「……見られた」

 己の身体に眼をやった。
しかし、耐えれずにすぐに逸らせた。

「逆効果だったかな……」

 女の方の裸も、ろくに見せたことがない。
それなのに、男の裸を諸に見られた。
 猛烈な申し訳なさを感じ、彼女は大きな溜息をついた。

「こんな半分男の嫁ヤだよな、やっぱり……」

 今後一体自分はどうすればいいのか思い悩み、彼女は逆上せてしまった。




 風呂から上がって女に戻ると、彼女は居間へと向かった。
夫に謝ろうと、彼の姿を探した。

「……あれ?」

 彼は机に突っ伏していた。
どんよりとした空気が彼の周りに感じられたが、早苗は思い切って彼に声を掛けた。

「……助三郎さま?」

 すると、彼は首だけ振り向き、彼女をぼんやりと眺めた。

「……早苗?」

「どうしたの? 調子悪いの?」

 眼がおかしかった。遠くを見るような、妙な眼だった。
しかし、彼女の名を呼び、顔を起こした。

「早苗?」

「……なに?」

 すると、彼はへなへなと崩れ落ちた。

「よかった。また戻れなくなったのかって思って……」

「あ、ごめんなさい……」

 余計な心配をさせてしまったことを謝った。

「こうしてちゃんと貴方の前に居るから。大丈夫。気にしないで。ね?」

 安堵した様子だったが、次には先ほどの原因を自分のせいにし始めた。

「……じゃあ、俺が、男の裸に慣れろって言ったのが原因だよな?」

「え? ま、まぁ……」

 少し恥ずかしかったので眼をそらすと、彼は手を付いて謝り始めた。

「俺が悪かった」

「そんなことない。わたしがわるいの……」

 彼の身を起こそうとしたが、彼は再び謝った。

「いいや。俺がお前の気持ち考えてなかったせいだ。ごめん!」

 何度やっても、謝りのしあいっこになって決着が付かない。
早苗は解決方法にあることを思いついた。

「……じゃあ、格之進で慣らすのは止める」

「あぁ。無理はするな」

 ほっとした様子の彼を、早苗は少し刺激してからかってみる事にした。

「代わりに助三郎さまので慣れる!」

「は!?」

 助三郎の顔は一気に真っ赤になった。

「ね? 助三郎さまのならいいでしょ?」

「お、俺の!?」

「うん。ダメ?」
 
 彼をにっこり見つめると、彼の顔は更に紅くなった。

「ダメ、じゃない。ダメなわけない……」

 夫を少しは積極的に出来たかも知れないと、早苗は満足した。

「さて、ごはんにしましょ」





 次の日の朝、早苗の前で突然下女のお夏が頭を下げた。

「帰国のお許しを頂きたいのですが……」

 それは突然の出来事だった。
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(*1)呉服橋門内《ごふくばしもんない》
江戸城呉服橋門内。
今の東京都中央区八重洲辺り

(*2)羽州《うしゅう》
(*3)出羽国《でわのくに》
今の山形県と秋田県

(*4)米沢藩《よねざわはん》藩主上杉綱憲《うえずぎつなのり》
吉良上野介義央と上杉富子の長男。米沢藩四代藩主。
初代はあの上杉景勝。
石高は初代三十万石→三代十五万石