二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

凌霄花 《第二章 松帆の浦…》

INDEX|18ページ/31ページ|

次のページ前のページ
 

所持は良いが、夫から抜刀を一切禁じられている刀。
 早苗はそれを眼の前に掲げ。引き抜いた。

 一点の曇りも無い刀の刃に、己の顔が映った。
それは、男の顔だった。

「……幸せ、か」

 ふっと頭をよぎったのは、笑顔の助三郎だった。

「俺の幸せって、あいつの幸せって、なんだろな……」

 早苗は刀を鞘におさめた。
そして、庭へ向かった。
 




「クロ、助三郎には絶対に言うな」

 早苗は襷掛けしながら、飼い犬に念押しした。
そして、精神統一をすると刀を抜いた。

 抜き方を、刀の使い方を教えてくれたのは、誰であろう、助三郎。
 にもかかわらず、彼は早苗に刀を抜くことを禁じている。
 それも、早苗の自害未遂がすべての原因。

「……助三郎、すまん。でも、練習は必要なんだ」

 普段は木刀の稽古しかしない。
夫の留守をいいことに、早苗は真剣で稽古した。
 そして、刀を振るう己の姿を夫が見ても、動じずに笑顔で居てくれる日が来ることを願った。

 素振りを何度も行い、感触を確かめた。
そして、仕上げにとクロに持ってこさせた巻き藁を斬った。 
 
「やっぱり、修行が足りないな……」

 断面がまっすぐではなかった。
改めて、日々の精進が必要だとしみじみと感じ入っていた。

 すると、突然女の声が。

「初めて見ました。格之進さまの刀の稽古」

 聞き覚えのあるその声に早苗は我に返った。

「あれ? お夏?」

 そこに居たのは、早苗が一番心を許せる下女、お夏だった。
彼女は笑顔で帰参の挨拶をした。

「只今戻りました。今日より、復帰いたします」

「お夏!」

 早苗は彼女に抱きついた。
対格差が大きく、お夏が抱き締められていたが。

「……格之進さま?」

 お夏は、男の状態の主に抱きつかれたことは一度もなかった。
それ故驚いた。しかし、彼女は主の常ならぬ様子に気付いた。

「早苗さま、もしや……」

 早苗は身体を離し、お夏の顔を見た。

「ずっと戻れてないんだ。もう元に戻りたい……」

 お夏は、穏やかに安心させるように言った。

「落ち着いてください。何があったのか、お話し下さい」




 早苗はお夏と共に家の中へ戻った。
 一通り早苗はお夏に己の身に起こった事を話した。

「……頼む。あいつが帰って来ても、この事は言わないでくれ」

 お夏は、本物の早苗の下女だった。

「早苗さまがそうおっしゃるのであれば、墓場まで持って行きます」

 早苗の命は絶対服従。彼女は主にそう誓った。

「……ありがとう、大分気が楽になった」

 気の許せる下女に、思っていたこと、不安だったことをぶちまけたおかげか、早苗の重かった心は軽くなった。

「では、もう一回試してみては?」

 お夏のその提案に、早苗は乗ってみた。

「そうだな。やってみる」

 心を落ち着かせ、早苗は眼を閉じた。
少しの後、お夏が声をかけた。
 
「早苗さま、眼を開けてください」

 早苗は眼を開けると、恐る恐る自分の手に視線を落とした。
 そこにあったのは女の手。

「戻った! お夏ちゃん、ありがとう!」
 
 早苗は嬉しさのあまりお夏に抱きつこうとした。
しかし、立ち上がったとたん、見事に転んだ。

「早苗さま! 大丈夫ですか!?」

「うん…… 大丈夫。着物が引っ掛かったみたい……」

 まだ本調子では無かったようだ。
普段ならば姿に合わせて勝手に変わる着物が、男物のままだった。
 それ故、背の高い格之進に合わせて仕立ててあった着物は、小柄な早苗には大きすぎた。
 その大きな着物手繰り寄せ、早苗は文句を言った。

「格之進って、大きすぎるわ」

 お夏はくすりと笑った。

「殿方は大きい方がカッコいいのではございませんでした?」

 からかうようにそう言うと、早苗は自信満々で言った。

「それは助三郎さまだけ。格之進はどうでもいいの!」

「そうですか。でも、早苗さま、そんなお着物では…… 着替えてはいかがです?」

 男物をずるずる引きずっていては、面倒。
姿かたちに合わせた着物に変える必要があった。
 しかし、早苗はそれ以前にもっとしたいものがあった。

「あ、でも、その前にお風呂入りたい……」

 先ほどの鍛錬でかいた汗を流したかったのだ。

「はい、では沸かして参ります」

 お夏はてきぱきと下女の仕事を始めた。

「お願いします! あぁ、やっとこの身体でお風呂入れるわ!」

 一時の幸せを噛みしめ、小躍りする早苗を、クロが首をかしげて見ていた。