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凌霄花 《第二章 松帆の浦…》

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「おい、お艶、早苗さんは調子が悪いんだ、そうぺらぺらしゃべるんじゃねぇ」

 お艶も分かっていたのか、すぐに話を切り上げた。

「わかった。じゃ、早苗ちゃん、お風呂行って温まって来て」





 夜中のうちに、早苗は高熱を出した。
仕事があるので役宅に帰ろうとしたが、平兵衛に必死に止められた。
 無断欠勤は出来ない。しかし、身体も動かない。
そこで上司に当てて文を認めた。
 平兵衛にそれを託すと、彼女は倒れるように床についた。

 昼近くに目覚めると、気分は大分良くなっていた。
傍にはお艶がいた。

「……大丈夫?」

 彼女は早苗の汗を拭き、額を冷やす手拭いを取り換えた。
世話をしてくれる彼女に、申し訳ないと早苗は感じていた。

「……今晩には帰れるかな?」

「……ううん、また夜に熱が上がるかもしれない。寝てたほうがいい」

「ごめんね……」

 その通り、早苗の熱は再び上がった。
そして、最悪な事に、悪夢に魘された。
 助三郎の名を何度も呼び、むせび泣いた。
 その様子を傍で見ていたお艶は、早苗の事が気に掛かり、父親から彼女の話を聞いた。

 お艶は怒りをあらわにした。

「酷過ぎる。何も言わないで出て行くなんて、他の人と一緒になるなんて! あんなに早苗ちゃん苦しませて!」

「可哀想だが、俺達にはどうしようもならねぇ……」

「早苗ちゃん、そんな酷い旦那さん、諦めれば良いのに……」

「あの様子じゃ、無理なんだろう……。出来ても、相当時間かかる。心底、惚れて……」

 平兵衛は、言葉に詰まった。眼には涙が浮かんでいた。
 
「ちょっと、泣かないでよ。こっちまで、泣きたくなるでしょ……」

 平兵衛は鼻を強く咬むと、ぶっきらぼうに言った。

「お艶、酒出せ。飲まなきゃやってられねぇ」

「わかった。でもほどほどにね」

 
 結局、早苗が床払いできたのは、それから五日後だった。
その間、お艶は早苗の話を彼女本人の口からも聞いた。
 そして、彼女を懸命に励ました。
 仲良くなった二人は、またの再会を約束して別れた。
 
「早苗ちゃん、また、遊びに来てね」

「うん。ありがとう。またね」

 
 お艶と平兵衛は早苗の遠ざかっていく姿を眺めていた。

「……励ましてやるんだぞ。旦那の事を綺麗に忘れるまでな」

「そう……でも……」

「でも、なんだ?」

「お武家の男って、最低」

 娘の爆弾発言を、父親はその場で諌めた。

「おい、滅多な事言うんじゃねぇ。お前には関係ない」

「そう。関係無い」

「そう、だからお前は、腕の良い大工を……」

 お艶はサッと両手を耳に当て、父親を睨んだ。

「また始まった! わたしはまだ婿取りなんかしませんよ!」

 ベーっと舌を出し、彼女は身を翻し家の中に駆け込んだ。
彼女を父親は追い掛けた。

「またそんなこと言って! やっぱり好きな男居るんじゃねぇのか!? 教えろ!」

「居ない! 居たとしてもおとっつぁんになんか言わない!」

「なんだと!?」

 ギャーギャー大騒ぎをしている傍で、平兵衛の弟子二人は笑っていた。

「お嬢さんまたやってるねぇ」

「棟梁も大変だなぁ」




 このお艶、後に『最低』呼ばわりした『武家の男』に恋してしまう。
 それは悲しく辛い恋だった。