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カーテンの隙間から零れた朝日が顔に当たり眩しさで目が覚めた。気だるい体を布団から起こし、両手を頭上で組み背中を伸ばす。一つ欠伸を漏らして、窓から入ってくる柔らかな風を感じた。寝ている間にかいた汗が風によって蒸発し体の気化熱を奪い全身に涼しさを伝え、緩やかに頭と身体を目覚めさせていく。平古場はこの朝の目覚める瞬間がとても好きだった。
 学校へ行く準備を終えて、朝飯を適当に食べつつ家を出た。外の空気はまだ熱を多く含んではいなかったが、陽射しは身体を焼くように鋭かった。練習コートの近くまで来て違和感に気がついて辺りを見回した。まだ一人も部員が来ていなかった。いつもならば、一年生がコート整備やら球出しやらを行っているはずだが誰一人いない。不思議に思いつつ部室へと歩みを進めながら、その原因を唐突に思い出して空を仰いだ。全国大会が終わったため、数日だけ部活は休みになると伝えられていたのに、いつもの癖で朝練が始まる時間帯に部室を訪れてしまっていたのだった。
「あー……、部室で寝るかぁ」
 無駄足だったと意識した途端に重くなった足を引きずるようにして部室へと向かいドアを開けた。誰もいるはずがない部室に、均整の取れた肢体をユニホームに包んだ見慣れた姿があった。
「永四郎?」
 平古場と同じように朝練があると思って学校に来ていたのかと、自分のことは棚に上げて笑ってやろうとしたが、ゆっくりと振り向いた顔は驚くほど生気が無く、平古場は続ける言葉を失ってしまった。
「どうしたんです。こんな朝早くに」
 そう尋ねる声は笑いさえ含んでいるのに、表情はまったく笑っていなかった。どうした、だなんてこちらの科白だと、それすら喉につかえて出てこなかった。見たことの無い姿が痛々しかった。いや、そうではなく一緒に歩んでき仲間の痛みに気づくことが出来なかったことが悔しくて悲しかった。
 木手の変化の原因は一つしか思いつかなかった。平古場自身も全国大会の負けは悔しくて歯がゆかった。その想いは共有しているとそう思っていた。けれど、平古場が想像していた以上の痛みを木手が抱えていたことに、そして部長としてその肩に”俺達の時代を創る”という使命を背負っていた意味に、長い間傍で見てきたはずなのに見誤っていたのだと思い知らされた。
 誰よりも誇り高いプライドと沖縄への熱い情熱を秘めた男に誘われて、何となく始めたテニスがいつの間にか無くてはならないものになり、試合で勝利することが楽しくて仕方なかった。平古場自身の為に、比嘉中の為に、そして木手の為に勝ちたいと何時だって強く強く願っていた。
 テニスに、木手に出会わなければきっと目的もなく、過ぎる日々を怠惰に送っていただろうと思えた。それはそれできっと楽しいかったかもしれないが、この胸を高鳴らせ揺るがすほどの感情を知ってしまった。もうその感情を手放すことは出来そうになかった。そうやって木手は、多くのものを部員にそして平古場に与えてくれた。
 だから、特別な意味で惹かれていったのは自然の流れだったと今なら分かる気がした。今の平古場の一部を形成した男が消えようとしている。何か言葉を発しなければ本当に見失いそうな恐怖が胸を駆け巡った。
「笑うな!!」
 口から零れでた言葉は意外なもので平古場自身も驚いてしまった。形だけの笑いをおさめた顔を凝視して納得した。ああ、間違ってなんていない。木手という男に薄っぺらい笑顔や言葉はまったく似合わない。
 誰よりも高みへと進もうとする姿に、理不尽なことにも不屈の精神で挑む姿に、対戦相手に見せる非情な冷酷さに、沖縄を想う秘めた情熱に、数え切れないほど平古場は胸を焦がしてきた。それが今では欠片も感じられなかった。魂のない偽者を前にしてもこの胸の鼓動は刻まない。目の前の男が見せる静かなる情熱が平古場の鼓動を刻ませているのだから。
 狭い部室を大股で歩いて木手に近寄って、1時間15分掛かるらしいリーゼントの頭を鷲掴んだ。全国の猛者に負けないようにと考えられた髪型だった。
「やー全部諦めたんなら、終わりだと思ってるならこんな頭にしてくんじゃねぇよ!」
 目を見開いて平古場の顔を見つめる瞳を強く睨みつけた。それでも何かを躊躇っているような沈黙に、今度は木手の胸倉を逆の空いた手で掴み身体を引き寄せ、低く怒りを込めた声で怒鳴りつけた。
「そんな気持ちでいるなら、ユニホームも脱げよ!今のやーに着る資格はないんどー!!」
「…っ、離しなさいよ!!……俺は、終わりだとは思っていません」
 掴んでいた手を容赦ない力で振りほどかれ、平古場は痛みに一瞬を顔をしかめた。平古場の言葉にやっと反応を示したが、未だに視線は平古場から外されたままだった。それではまだ鼓動は刻まれない。何かに迷っているような姿に胸が痛んだ。
「やーは思ってるやっし」
 追い討ちをかけるように紡いだ言葉は鋭い睨みで弾かれた。その瞬間、一つ鼓動が跳ねた。
「勝つためにはどんな手段も選ばない。そう信じて戦ってきました……けれど」
 躊躇うように口を開いた木手からは何時もの強さは感じられなかった。
「分からなくなったって?」
 平古場は続く言葉を遮るように言うと、苛立ちも隠さず木手を睨みつける。
「それがわったーの為だっていうなら…すぐるぞ」
 誰の言葉に揺さぶられたのか何て聞かなくても一目瞭然だった。
作品名:共に歩む道を 作家名:s.h