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金銀花

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「違う。絶対に違う! お前は俺の大事なたった一人の妹なんだ。だから女の子に戻したいんだ。わかってくれ」

「わかりません」

 助三郎は千鶴の腕をつかんだまま、迷った。
なにを言えば、どう説得すればおとなしく女に戻ってくれるのか皆目見当がつかなくなった。
 すると、千鶴がひとりごとを言い出した。

「……香代の言う通りだ。女は弱い。自分で自分の相手も選べない。自分の道も選べない」

「そんなことない。お前の好きなやつを選んで結婚すればいい。お前の希望しっかり聞くから。親戚どもは関係ない。無視すればいい」

「では、聞いてくれますか?」

「あぁ。言ってみろ。お前は何がしたい? 誰と一緒になりたい?」

「……本当の男になって、香代の婿になりたい」

「……なんだと?」

「ですから、本物の男になれば香代と一緒になれるんです。一生一緒に過ごせるんです」

 とうとう助三郎は妹に手を上げた。
頬を張り、怒鳴りつけた。

「千鶴、お前は俺の妹だ! 弟じゃない! 眼を覚ませ! お前の相手は女の子じゃない!」

 早苗は驚き、千鶴を庇いながら様子のおかしい夫にすがりついた。

「落ち着いて! 話し合って解決して!」

 しかし、助三郎は聞いてはいなかった。
早苗をそっと横に除け、千鶴の肩をつかんだ。

「お前は女だ。俺の妹だ! 千鶴、眼を覚ませ!」

「イヤです! 男が相手なんて死んだ方がましだ! 香代に俺は必要なんだ!」

「香代さんに必要なのは、本物の男の人だ! お前は、あの子の友達で充分だろ!?」

 怒鳴り合っていたが、とうとう千鶴が反撃をした。
助三郎の手を払いのけ、
 
「兄貴なんかに、俺たちの気持ちがわかるわけない!」

 そう捨て台詞を残し、走り去ってしまった。
早苗はそれを追いかけようとしたが、助三郎に止められた。

「追うな。殴られたら危ないからな」

「でも……」


 早苗が迷っていると、助三郎の様子がおかしくなりはじめた。
畳に力なく座りこみ、うわごとのように何かつぶやいていた。

「……俺のせいだ。バカな俺のせいだ。まただ、まただ……」

「……大丈夫?」

 剣術は国でいちばん強い助三郎。しかし、心に闇がある。
それは早苗が一番知っている。早苗が自分で彼の心の中に作った闇。
 それに囚われてしまうのではと、不安に思った。

「……この疎ましい性格のせいだ。ふざけた俺のせいだ。あんなことしたせいだ」

「……助三郎さま?」

 早苗の不安は、的中した。
助三郎は突然刀を抜き、振り回し始めた。

「……亡霊ども! こそこそ言うんじゃない! 出て来い! 姿を現せ!」

「やめて!!!」

 早苗の絶叫もむなしく、助三郎は何かに向い刀を突き付けながら怒鳴り散らしていた。

「笑うな! 貶すな! わかってる! 俺のせいだ!」

「お願い…… やめて……」

「出て来い! 笑ってるんじゃない!」


 狂ったように暴れる助三郎と互角に渡り合えるのは格之進だけ。
早苗はうろたえるのをやめ、直ぐに男に変わった。

「助三郎! 刀をしまえ!」

「止めるな格之進! あいつらを成敗してくれる! 出て来い!」

 感情任せに刀を振るう助三郎をよけながら、早苗は必死に彼を説得した。

「しっかりしろ! なにもいない!」
 
 しかし、助三郎は闇から抜け出すことはできなかった。

「いいや、見えないだけだ! 姿を現せ! 出てこい!」

 あまりに激しくなってきたので、早苗は決めた。

「すまん! 助三郎!」
 
 暴れ続ける夫の鳩尾に一発拳をいれ、動きを止めた。
崩れ落ちた彼の身体を支え、刀を手から外し、鞘に収めた。
 そして部屋の中を眼を凝らして見ると、人でない者が現れた。

 人の心の闇、弱さに付け込もうとする人では無い者たち。
以前早苗を地獄に連れ去ろうとしたその者たちの言葉が、今助三郎の耳に聞こえていた。

オマエ ノ セイダ 
オマエ ガ ワルイ

 そうつぶやきながらにやにやして助三郎を見詰めていた。

『帰れ! おまえらに要はない! 消えろ!』

 そう早苗が心の中で念じていると彼らはイヤそうな顔をした後、消え去った。

 部屋には早苗と助三郎だけになった。
いつしか灯りの蝋燭の火も消え、月明かりが差し込むだけになっていた。
 早苗は腕の中で気を失っている男の苦しそうな顔を見つめた。

「……助三郎さま。ごめんなさい。すべてはわたしのせい。貴方のせいじゃない」
 
 しばらく夫を抱き締めたまま、泣いた。
秘薬をしっかり管理してなかったのが間違い。
仕事にかまけ家庭を疎かにしていたのが間違い。
 そんな風に自分を責めていると、助三郎が眼を覚ました。

「……早苗?」
 
「……あ、眼が覚めた?」
  
 暗い顔を見せまいと、笑顔を作ったが涙がこぼれた。
すると、助三郎まで泣き出した。
 
「……泣かないでくれ。お前のせいじゃない」

「……ごめんなさい。本当にごめんなさい」

「早苗、ごめんな。俺のせいで辛い思いさせて」

 どうすることも出来ず、二人でそのまま泣き続けた。




 その頃千鶴は、部屋で一人考えていた。
どうしたら、再び女にならなくて済むか。本当の男になる方法はないのか。
手元に残した秘薬をつかってもまた解毒剤を盛られ、女に戻される。
 考えに考えたが、浮かばなかった。

 厠に立った帰り道、兄夫婦の声が部屋から聞こえた。
二人とも泣き声だったのが、千鶴には堪えた。
 兄はともかく、大好きな義姉を泣かせてしまった。
申し訳なさでいっぱいになりすぐ立ち去ろうとしたが、聞き捨てならない話が耳に入った。

「ひとまず、義父上の所にある本当の男になる方法を知られないようにするしかないな」

「そうね。あれを使われたら面倒だもの……」


 義姉の実家、橋野家に行けば本物の男になれる。
そんな希望を見出した千鶴は、外出禁止で出歩けなくなる前にと、家を抜け出した。

作品名:金銀花 作家名:喜世