雪柳
「……やっぱりわからん。中身が一緒なのにどうしてだ?」
彼の後ろで光圀が言った。
「……助さん、いろいろ大変じゃな。だが、頑張るのだぞ」
「はぁ……」
落ち着くと、早苗は男の姿のまま助三郎に事の次第を話し始めた。
「……クロが、喋ったんだ」
「まだ人間のままなのか?」
「いいや。犬に戻した。なのに、喋ったんだ」
「空耳だろ? 犬は喋れないぞ」
「だろ? 俺もそう思ったが、おかしいんだ。でもな、ちゃんと聞こえたんだクロの声が」
二人でああでもないこうでもないと喋っていると、黒い犬がトコトコと部屋の中に入ってきた。
そして二人の傍にお座りし、話し続ける二人を眺めていた。
それに助三郎が気付いた。
「ん? クロか。戻ってるな」
「だろ?」
再び二人は話し始めた。
しかし、それにクロは水を差した。
「ワンワン!」
助三郎は適当にクロに返した。
「ふぅん。尻尾が見つかったってか? よかったな」
「ウワン!」
少し不満げに吠えたクロに、助三郎はまたしても適当に返した。
「……あぁ、わかったから。その謎について今格さんと討議中だ。後でな」
そんな二人の様子に早苗はニヤリとした。
「助さん。それが証拠だ。お前クロと喋ってた」
助三郎もニヤリとして言った。
「……だな。格さん。俺、こいつの言うこと解ったぞ!」
「やったな!」
嬉しさのあまり、男同士で男の抱擁を交わした。
「これなら俺達寂しくないな!」
「あぁ!」
二人の周りをクロが走り回りながら吠えた。
「ワンワン!」
次の瞬間二人は顔を真っ赤にさせ、勢いよく部屋の端と端に別れた。
互いに背を向けて、クロに向かって文句を言った。
「クロ。言っていいことと悪いことがある!」
「江戸で由紀に何か仕込まれたな? あいつの言うことは聞くんじゃない!」
すると、クロは再び吠えた。
「ワン!」
早苗と助三郎は声をそろえた。
「なに!?」
早苗と助三郎にしかクロの言葉はわからなかった。
一風変わった二人と一匹の生活が再び始まった。
~完~