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東方~宝涙仙~ 其の壱九(19)

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〜東方 宝涙仙〜

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「黒幕よ」


ー博麗神社ー
「霊夢ぅぅぅぅ!!」
 神社の鳥居の近くに魔法使いが、まるで流れ星のごとく降ってきた。
「なによ騒がしいわね、って魔理沙!?なにやってんのあんた」
 巻き立つ砂煙の中にいたのは魔理沙だった。
「大変なんだ!とにかく早く来てくれ!」
 ボロボロの魔理沙が霊夢を、早く着いてこいと呼ぶ。
「どうしたのよそんなに慌てて」
「紅魔館に異変だ!」
「紅魔館?また赤い霧でも発し始めたの?」
「違う違う。紅魔館の爆発事件だぜ!」
「紅魔館が爆発したらさすがにここまで音聞こえるわよ。あんだけでかいんだから」
「そうじゃなくてなぁ…」 
 息を切らせた魔理沙を霊夢はいったん落ち着かせる為に一度間を置いた。
「んで、詳しく説明しなさい」
「パチュリーに本を借りに紅魔館までレミリアと向かったんだ。そしたら紅魔館の一部が炎上しててな、今紅魔館へはレミリアが向かってる。アタシはとりあえず霊夢にも協力してもらおうと呼びにきたわけだ」
「はー、なうほどね」 
 落ち着きを取り戻した魔理沙の説明は慌ててるときよりはるかに詳しく、霊夢も把握と理解ができた。
 紅魔館の一部が炎上しているとなるとやはり霊夢は一番最初にフランドールの仕業を疑った。
「あの妹の仕業じゃないの?」
「それはないと思うぜ。どんなに狂っても紅魔館が大好きなフランが紅魔館を爆発するなんて…」
「でも可能性はなくはないわね」
「フランばかり疑うな!咲夜が殺された時もみんなフランを疑って…今でもアタシは犯人はフランじゃないと信じてるぜ」
「……」
「アイツだって本当は寂しくてみんなと仲良くしたいだけなのに…。それなのにみんな紅魔館関連はフランが犯人で片付けられて…」
「はいはいとりあえず話を戻すわよ」
 魔理沙の話がだいぶずれてきたので霊夢が修正した。
魔理沙はなにか晴れ晴れしない気持ちのままだがそこを抑え、話を元に戻した。
「レミリアもお前の助けを求めてた。だから霊夢も来てくれないか?」
 霊夢は事の危険性を考えて魔理沙に着いて行く事にした。
もし自分が出撃せずに魔理沙もろとも紅魔館が滅ぶのも嫌だったのだろう。たまに宴会代の立て替えだとかでお世話になってるわけだし。
「めんどくさいけどしょうがないわね。私も着いて行くわ」
「ホントか霊夢!?ありがたいぜ!」
「世話やけるわねまったく」
 霊夢は立ち上がるなり、大きめの木製の棚の引き出しを開け何かを探しだした。
そして手にしたものは陰陽玉と呼ばれる黒と白が勾玉の形で分けられた模様の玉だった。
「なんだそれ?いつもは白と赤の玉じゃなかったか?」
「ホーミングアミュレッドの強化版よ。いざとなれば"夢想封印"以上の技が使えるわ」
「そりゃ楽しみだぜ」
 落ち着くどころかウキウキ気分さえ持ち始めた魔理沙。
霊夢と魔理沙は博麗神社を後にし、紅魔館へと向かった。



ー紅魔館・廊下(パチュリー・ノーレッジ)ー
 パチュリーは風香と二手に分かれ美鈴を探していた。昔からの紅魔館からの生き残り、そう言っていいのだろうか。パチュリーは咲夜の死後仲間の死を味わいたくはないと思い今日まで過ごしてきた。
特に美鈴・レミリア・フランドール・小悪魔…その4人だけはなんとしても守りたいと思っている。それにこの4人は人間ではない。寿命が短いということはまずありえないのだから、長い時間のなかで共に過ごしたいと願っているようだ。
しかし今現在美鈴が行方不明。パチュリーは爆発後美鈴の姿を一度も確認できていのだから、それは相当焦っている。
 喘息で苦しむ体に耐えながら紅魔館の中をくまなく捜索する。
「美鈴…お願いだからでてきて頂戴……」
 時間が経つにつれて焦りは次第に増してくる。焦れば焦るほど捜索は疎(おろそ)かになってしまう事など分かりきっているが、どうしても焦らずにはいられない。
「捜索魔法なんて持ち合わせていないもの…。美鈴……」
 瓦礫をかき分けるも美鈴は見当たらない。それでもパチュリーは諦めることはなかった。
そして最後の希望。最後の部屋。廊下から各部屋まで、もし美鈴が動けない状態だとしてここにいなかったらもうどこにもいないと考えるしかない。
その部屋のドアには『二人の部屋』と書かれている。
「ここにいればいいんだけど……」
 そう、ここはあのレミリアとフランドールの思い出の部屋。
その部屋のドアをパチュリーはゆっくりと開けた。ギィ…と音を立ててドアが開く。
「美鈴…いる?」
 おそるおそる暗闇に質問をした。返事どころか物音ひとつない。
「めい…りぃん……」
 希望をすべて失ったパチュリーは膝をついて闇で見えない天井を見つめた。このまま闇に消えてなくなりたいという気持ちが伝わってくる、そんな感じだった。
「うげっ…げほっ…」
「!?」
 パチュリーの耳には何者かの声だと思われる音が聞こえた。
「誰かいるの!?」
「うぅ…。その声は…パチェ?」
 声だ!確かに人の声だ!しかも私を知っている! という感情を鎮められないように声の発声源を慌てて探しだした。
「レ…レミィ…?」
 発声源を突き止めたパチュリーの青ざめた顔にふるえが走る。
パチュリーの見ているものはボロボロになって倒れ苦しむレミリアの姿だった。
「レミィ!?どうしたの!?誰がこんなことしたの!?」
 倒れているレミリアを揺さぶり叫びあげた。
「パチェ…あんま揺らさないで……」
「あ、ごめん。でも…誰が…」
「狂った奴が…」
「狂ったって、まさかフランが!?」
 パチュリーはレミリア同様すぐにフランドールが犯人だと決めつけた。
「違う」
「え?」
「フランじゃない…。私は…いや、私も犯人を…フランだと思い込んで……思い込んで…」
 レミリアは後悔の底辺にいた。妹を信じれず責めたて、さらに妹を敵に回した。
全ては自分のせいだと責任を負うも、今は戦うどころか動く事すらままならない。プライドの高いレミリアにはこの上ない屈辱だ。
「フランをね、信じてあげられなかった」
「レミィ?」
「フランを信じてれば今頃こうには……」
 レミリアの声はどんどん小さく薄れてしまう。
「今そんな事悔やんでる場合じゃないわ!」
「そうね…。もうじき魔理沙と霊夢がかけつけてくるはずよ。その時にはこう言って」
「うん…」
「フランを…フランを傷つけないで…。片腕の頭のネジがどうかしてる奴と、その姉を倒して…って」
「そいつが…?」
「黒幕よ」
 会話が途切れた。黒幕の特徴を頭に叩き込んだパチュリーはまずその姿を想像して、これまでにそんな奴にあったことあるかを検索した。
「幻想郷にそんなのいた?」
「私も初めて見たわ。そいつが…そいつが……」
 レミリアは憎しみをぶつけるように床をひっかきだした。
「そいつが…さく…咲夜…を……」
 レミリアが今日涙を流すのは何度目だろう。枯れた目からはまた涙が流れてしまった。
「まさかそいつらが咲夜を殺した…の?」
 レミリアはうなずくこともなかったが、涙で答えた。その涙が真実を語っていた。
「わかったわレミィ。さすがの私も頭に来たとかそういうもんじゃなくなったわ」