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結われた髪と、解かれる記憶に

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 顔つきに幼さが残る若さの頃、ヴィンスは父親に連れられて第三王子の話し相手をしに来ていた日。急遽、ユージンに書類仕事が降ってきたため、終わるのを傍らで待っていた。
 ヴィンスの父親も書類仕事をしている事が多かったが、ヴィンスは触らせてもらえたことがないため、どういったことをしているのか、全くわからない。
 時折、疲れたように肩や首を回していた王子が、深く息を吐いた。

「お疲れですね」
「いや、疲れてはいない。ただ、横の髪が鬱陶しくてな」

 纏めなければならないほど長くはないが、何もいじられていない髪を鬱陶しそうに触るユージン。もともとの髪の量が多いせいか、少し伸びてしまうと邪魔になってしまうらしい。

「でしたら、三つ編みか編み込みで纏めてみますか?」
「なんだそれは」

 ヴィンスの提案に、ユージンは不思議そうな表情をする。

「私の髪みたいに纏める事なんですが、編み込めば邪魔にはならないかと」

 今朝、時間を掛けて編んだ髪を見せる。纏まれば、肩胛骨の少し下に毛先が届いていた。

「お前のように髪は長くないぞ」
「短くても、編み込んで後ろに流すと纏める事も出来ます」

 向けられる怪訝な目に怯みながらも、それを表に出さないように振る舞う。

「……とりあえずやってみろ」

 不審がる表情は変わらないものの、座っている椅子から背後に頭を投げ出すように差し出される。
 失礼します、と簡単な断りを入れて、ヴィンスはユージンの髪に触れる。少し硬めの淡い金髪。この髪に触れられる人などほとんどいないのだろう。なんて考えながらヴィンスはくせにつきやすい髪を丁寧に編み込み始めた。