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坂の向こう、朱の果て(サナダテ+α)

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じきに来る嵐の予感をはらんだその勢いに、思わず目を閉じて腕で顔を庇う。あたり一面で、さわさわと草むらが鳴いた。
風が止んだ。その時、

坂の真ん中に、子どもが立っていた。白く細い脚を元気よくハーフパンツからのぞかせた、少年はあの日のまま。12歳の伊達正道がそこにいた。

また少し柔らかに風が吹いた。
ごめんね。
耳にかすかに響いたその声は小次郎の、けれどどこか在りし日の幼い自分の声に似ているような気がした。

「あっ?!」
幸村が不意に短く声を上げた。
少年がクルリと踵を返して走り出した。ピンク色のウサギの耳をぴょこぴょこと揺らしながら、子どもは元気よく坂を駆け下りてゆく。
驚いて、思わず追いかけようとする幸村の手を引いて止めた。
「No, Problem. 追わなくていい。」
帰っていくんだ、とつぶやくように政宗が言った。あの日ここで立ち止まってしまった少年魂が、帰ってゆく。会いたい人に会えたから。幸せだったのだと分かったから。
坂を下り、土手に沿ってゆっくりと歩いて路地を抜けて。あの日の、あの時へ。少年の姿は瞬く間に見えなくなった。

「帰りませぬか、我らも。」
幸村が手を伸べた。政宗も踵を返して、その手を取った。




Fin.(さよなら、たそがれにきえたきみ)