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氷雲しょういち
氷雲しょういち
novelistID. 39642
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第3Q ニセは潰す

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1ー???
とうとう着いた。誠凜高校。
たしか、黒子っちと紺野っちが行ったんスよね。
そう思いつつ、校庭を蹂躙する。
あちらこちらで女子が振り向き、オレに視線を注いでいるのを感じる。
いい気分だが、早く行こう。彼女たちに、捕まる。

2ー黒子テツヤ
ダムダムダムダムダムッ
火神くんは全速力のドライブで小金井先輩を抜こうとした。
だが、小金井先輩も食らいつき、マークは離れない。
ラインまであと少し、というところで、火神くんは、ストップ、ターン、再び全速力ドライブ。そしてシュートを決めた。
みんなは口々に、
「速い!」
「全速力からであの切り返し!同じ人間のキレとは思えねぇ」
などと言っている。
僕と紺野さんは、こないだ、『キセキの世代には足元にも及ばない』と言ったけど……。
「おい、集合だ!どこだー、黒子!ったく、たまにめんどいよな、こういうの」
その声は後ろから一直線に聞こえた。
僕は振り向き、みんなのもとへ向かった。
カントクは着替えが済んでいて、先輩たちと話していた。
「みんな、明後日、海常高校と練習試合するわよ!」
海常は誰が行ったか、頭のなかでさらう。
「海常って強いんですか?」
一年男子の一人、たしか、降旗くんが言った。それに対して主将は、
「強いよ。IHとか、普通に出てる、全国レベルの強豪だ」
言い終わって、主将は冷や汗をかきながら、カントクに聞いた。
「なあ、カントク、来るとき言ってたあれ、マジ?」
火神くんは不思議そうにカントクを見た。そういえば、掃除で遅れたのだった。
「海常高校は、キセキの世代のSF、黄瀬涼太を獲得したところよ」
カントクの言葉とともに、火神くんの目は迸り、体育館は騒然とした。
「え、たしか、黄瀬、ってモデルとかしてなかったっけ?」
「は、マジで!」
「イケメンで、バスケできるとか……」
「もはやあれだな、妬みしかないな」
みんな、そういいながら呆然とする面々である。
ちょうどその頃、体育館は、いつの間にか、女子が入ってきて、こちらはこちらで騒然としていた。
それにようやく気づいたカントクは、振り向きながら、「なんでギャラリー増えてんの!?」と喚いた。
そして、その原因を見つけ、カントクの目は驚きに包まれた。
そう、女子たちの目的は……
「お久しぶりです」
「お久しぶりっス」
「「「黄瀬涼太!!!?」」」

3ー紺野舞
ホクロくんとあいつが挨拶しあう間も、私は黙っていた。
「えっと、その、悪いけど、あと10分だけ待ってくれるっスか?」
苦笑ぎみに言い、サラサラと色紙にサインを描く。
少し早めに切り上がり、あいつは段から降りて言った。
「誠凜が次の対戦相手って聞いて、黒子っちと紺野っちが行ったの思い出したんで来たんっス」
知るか、消えろ。
「それに、特に黒子っちとは仲良しだったっスしね!」
「別にフツーでしたけど」
「ひどっス!」
あぁあ、とっとと消えてくんないかな、こいつ。
殺気を込めた視線を投げていると、それに気づいた小金井先輩がビビった。
「ど、どうしたんだよ、紺野」
ホクロくんが代わりに答えた。
「紺野さんは、黄瀬くんが嫌いなんです」
続きはさすがに引き受けた。
「私、女子から離れたくてバスケ部のマネージャーになったのに、ニセが来てから、女子が殺到したんですよ」
そこからは一同、想像は難しくなかった。
「女子たちは、黄瀬目当てに入ったんだろう、と難癖つけてきて……。私はこんな奴、大っ嫌いなのに」
「ちょ、酷いっスよ、紺野っち」
「『っち』をやめろ、っつうてんでしょ、ニセのガキャァ!!」
「黄瀬、っスよ!!」
「黄瀬くん、せめて距離は開けるべきかと」
黄瀬が少し離れて、ようやく発作が収まった。
「ちなみに、黄瀬さん、中2からバスケ始めたってホントですか?」
クリ旗くんがニセに聞く。
私の方が口を開いた。
「『黄瀬涼太。中2からバスケを始めたにも関わらず、抜群の運動能力で、レギュラーに登りつめた。彼の成長速度はキセキの世代の中でも高く評価され、なおも活躍中である』バスケ雑誌の一つの記事です。キセキのメンバーのは全員分、暗記できてます」
「オレらのマネージャーだったもんすね」
「ガチで黙れ、エセニセガセのモデル野郎!!!」
「酷すぎるっスよ〜」
軽く泣き始めたが、完全に消す。ニセは、なんとか振り絞るように声を出した。
「オレは、キセキの世代で最後に入ったんス」
「たしか、最後に入ったのは、紺野さんですよ」
「で、オレは下っ端だから、よく黒子っちといびられてたんス」
「僕はなかったですけど」
「ちょいちょい適当なことほざいてんじゃねぇよ」
「なんか紺野っちの発言の凶暴さが増しちゃってるじゃないっスか?!!」
「ほっといてあげてください、黄瀬くん」
その三人の合間を縫って、突如、ボールが飛んできた。
目標地点だったらしいニセが片手で止める。
バチンッッ!!
「いったぁぁ。何スか、次々……」
ボールの先には、――いた。やはり、投げたのはバカ神くんだ。
「よう、イケメンくん……挨拶ついでに、オレと相手してくれよ」
バカ神くんの目には荒々しい炎を灯している。
慌てる先輩たちをよそに、ニセは少し考えてから言った。
「まぁ、いいっスよ。君、いいもの見せてくれたお礼」
ニセが上着を脱ぎ、ネクタイを取り、バール片手にハーフラインへ向かう。
「あんっのバカ……」
頭を抱えた相田先輩。あきれ顔の先輩勢をよそに、ホクロくんは冷静に言った。
「まずいかもしれません……」
ニセが走り出し、バカ神くんは追いすがった。お互いかなりの速度だ。
そして、急にニセはストップし、切り返してゴールに向かった。
「彼は、他人のプレイを一目見ただけで自分のものにする」
それを見て、目を丸くしてカントクは呟いた。
「これは、模倣なんてレベルじゃない……完全にコピーしきっている!!」
「むしろキレが上がってて、あ、火神食いついた!!」
なんとか反応し、ボールに手を伸ばすバカ神くん。だが、
ズダンッッ!!!
ニセは力強くたたき込み、バカ神くんを吹き飛ばした。
「火神より威力がでかいだと!!」
「もはや倍返しじゃんか!!」
そう、彼はコピー能力を持つ、進化する天才なのだ。
忌々しいことこの上ないが、彼のその力のでかさは確かに評価に値する。って、元マネージャーの経歴が少し恨めしくなってきた。
降旗くんが震えながら言う。
「キセキの世代、やっぱすげぇ……ってか、黒子たち、よくこんな奴らと友達でいられるな……」
「いいえ、こんな人知りません。……彼は、キセキの世代は進化しているようです。たった数ヶ月会ってないだけでここまでなんて」
ニセはバウンドするボールを取り、いきなりため息をついた。
「これじゃ、拍子抜けっスね……挨拶だけじゃなく、」
ニセはホクロくんと私を見た。
ってか、こっち見んな!!
「黒子っちと紺野っちを、うちにください。二人とも、海常でバスケやろうよ」
「嫌だっ」
「っていう紺野っちが即答なのは分かるっスけど……」
ニセはホクロくんを見据える。
ホクロくんは1,2秒待ってから言った。
「黄瀬くん、紺野さんもこんな調子ですし、丁重にお断りさせていただきます」
「理由おかしくね?!」