Muv-Luv Alternative~二人の傭兵~
Episode7.作戦決行
「荷電粒子砲の使いどころは恐らく一度だけ。それ以上荷電粒子砲が使えるようになる状況は好ましくないわ」
「了解した」
黒輝皇二型のコックピット内。
前と変わらない中の空気に安心感が身を包む。
作戦当日、ハッチに赴き生まれ変わった愛機の姿を見たときには、その不安を隠せなかった。
前の姿は残っているものの、その姿形はかなり変わっていた。ACの推進力を底上げするために腰部分には跳躍ユニットが装備されており、胸部には荷電粒子砲が取り付けられていた。
腕部側面に装備されていた月光もすの形を少なからず変えられており、その性能は機体内に同梱したマニュアルを見ろとのこと。
OB起動時に展開されるギミックも多少改良されており、この世界では逸脱した機動性もさらには向上している。
そして弾薬、エネルギーが底を付いてきたことを想定し装備された超振動ブレード。また試作の段階を超えてはいないようだが、性能としては現時点でのブレードを超えているらしい。
超振動は此方の世界に存在していなかったためにその性能や機能は分からないが、その切れ味は保証できるとのこと。
「シミュレーションでの結果を見る限りラザフォート場の制御に関して言うことはないけど、エネルギーが無限でないことは理解しているわよね?」
「つまり敵の攻撃をくらうな、と言うことだろ?」
「分かっているならそれでいいわ。黒輝皇二型に詰めるエネルギー総量凄之皇と違って少ない。つまり光線級のレーザーを受け続ければすぐにラザフォート場は消失することになる」
ラザフォート場の消失。つまりそれを制御する俺の意識が失われていることを指している。
確かにML機関によるラザフォート場の防御面性能には目を見張るものがあるが、そお大きなメリットの裏にはそれ相応のデメリットも存在する。
まぁ…光線級の攻撃は一度でも喰らえばアウトだからな。それに何発かあたっても大丈夫なようになるならいいことだろう。
「作戦としてはまず貴方たち二人のOBによる単独先行。ラザフォート場に釣られて寄ってきたHIVE周辺のBETAを殲滅してもらうわ。ヴァルキリー中隊の潜入路を確保した後に補給。そしてHIVE内に突入してもらう」
地上での殲滅戦はまだいいだろう。そこにいるのは俺達二人だけだから、互いに気を使う必要もなく好き勝手出来る。
問題はその後のHIVE突入だ。
そこからはヴァルキリー中隊の皆と突入しなければならない。更にはHIVE内は三次元軌道にも多少の制限が掛かる。
「HIVE内に突入した際にはラザフォート場は停止。ホールが確保できたらラザフォート場を軌道して頂戴。ラザフォート場を軌道すればHIVE内のBETAは一斉にホールに向けて進軍するから、貴方がラザフォート場を軌道したと同時に各地にあるHIVE突入路から別部隊が進行を開始するわ。各部隊がHIVEホールまでの道を確保するまで貴方達はHIVE内全てのBETAを相手にしてもらう」
HIVE内全ての敵か…。
ラザフォート場を展開する以上はBETAとの戦闘は避けられないだろう。だが、俺がラザフォート場を展開すれば別部隊の進行は比較にならない程早くなる。
HIVE内全てのBETAを相手にすることは危険極まりないことだが…裏を返せば援軍の到着も早くなると言うこと。
結局は時間の勝負になる。
「ま、後は貴方達二人の独断に任せることになるわね。私から言うことはもうないわ。それじゃ」
そう言い残し、香月は通信を一方的に切った。
通信が切れた今、このまま出撃まで一人でいようかと思っていたが、その矢先部隊の人間からの通信が掛かってきた。
「どうだライナ。調子の方は?」
通信をかけてきたのは宗像。この隊の隊長でもあって部隊の人間を放っておくことは出来ないだろう。
「大丈夫だ。そちらこそ大丈夫なのか?」
俺がそう言うと宗像は目を見開き、面食らったような表情になる。
…そう言えば俺はこの部隊の人間。つまりは宗像の部下、と言う立場になるんだったな。
「部下の人間にそう言われるのは初めてだよ。まぁ、大丈夫っていったら嘘になるのか。結構不安だよ」
当然だろう。
今までヴァルキリー中隊の人間は他の部隊よりも過酷な任務を乗り越えてきた、とは社から聞いているが、今回の作戦は間違いなくどの任務なんかよりも過酷なものだ。
それに大して不安を感じない人間など…いない。
「守ってみせるさ…全員」
「あれぇー?ライナったら隊長のこと口説いてるんかー?」
突如割り込んできた愛。
そこでやっと気付いたことだが、今の通信は部隊内の全員に聞こえていたらしい。
別にやましいことを言っていた訳ではないから構わないが。
「駄目ですよライナさん。美冴さんにはもう心に決めている人がいるんですから」
小さく微笑みながら通信を入れてくる風間。
その表情からは分からないが、こうなんというか、宗像には手を出すなと言う強い意思を感じることが出来る。
「馬鹿言うなお前ら。今の言葉を聞いていなかったのか?こいつは全員守るといったんだ。つまり全員に言っているんだ」
宗像の言葉に皆は驚きの声を上げている。
此処まで人の言葉で話題を持ち上げられると、多少は恥ずかしいな。
「ライナに守られるような事にはならないかな!」
「逆に私達が助けてあげますよ」
東城姉妹の言葉にも思わず笑ってしまう。
「何が可笑しいのよ!」
通信越しに喚く美紀の声が聞こえるが、そのまま通信をオフにした。
「…」
途端に静まり返るコックピット。
作戦発動までの時刻はもう殆どない。後数分もすれば俺達はBETAがひしめく戦場に出ることになる。
俺とシルビアは今まで幾多の戦場を駆け抜けてきたが、その時とは違う緊張が俺の身を包み込む。
依頼された敵を只殺すだけの作戦とは違う。今までに経験したことのない出撃の違和感に少しだけ戸惑う。戸惑うが…。
「こんな違和感もいいかもしれないな」
久しく忘れていた人との関わり。
笑みと言う言葉をこの世界に来てから久しぶりに思い出した気がする。
…。
HIVE制圧を成功に導くためには俺とシルビアがやらなければいけない。迷う必要はない。
「変わってきているのか俺も」
…それは違うのかもしれない。
変わっているのではなく、昔に戻っているのかもしれない。前の世界で失ったあの時に。
ならば、今度こそは守らないといけない。あの時の思いを再び感じてしまう事のないように。
「皆、時間よ」
「了解」
通信越しに聞こえた作戦決行の合図に相槌をうってから、生まれ変わった愛機を起動させる。
ジェネレーターの起動と共に眼前に広がるモニターが起動し、そしてML機関が起動する。
「此方ヴァルキリーΩ。問題ない。このまま出撃する」
俺がそう言うと同時に頭上で閉じられていた軍艦のハッチが開く。
暗く光りが差し込んでいなかった空間に光りが差し込み、黒輝皇二型が光りに照らされてゆく。
作品名:Muv-Luv Alternative~二人の傭兵~ 作家名:灰音