第4Q 勝てねぇくらいがちょうどいい
「火神くん、ゴールって、いくらするんでしょうか」
「え、あれって弁償?!!!」
慌てて振り向く火神くん。
その反対のベンチが、いきなり騒がしくなった。
「っくっそぅ、オレが(リ)バウンドを取っときゃあ!!」
「うるせぇ、早川!!ちょっと黙れ!!」
「なにを慌てている、笠松。あの女監督と女子選手を見て慌てているのか?」
「お前はもっと黙れ、森山!!」
「片方は可愛くないが、もう片方の可愛い娘のために、オレは勝つ!!」
「敵側じゃねぇかっていうツッコミは置いといてやるから、とりあえずいっそ代われ、レギュラー」
「まぁまぁ、笠松、SGはこいつしかいないんだし。センターも、早川が一番だろ。抑えて抑えて」
「ってかお前はなんでこいつらと……っと、来たか」
黄瀬くんが、現れた。
「「「キャーーーーーーーー」」」
ギャラリーである女子たちが沸く。
日向先輩がびびり、「うおぅ、なんだ、こりゃ」と呟いた。
海常キャプテンらしい笠松さんがこれに答えた。
「あいつが出るといつもっすよ。ってか、」
と、突然ダッシュを始め、
「いつまで手ぇ振ってんだ、テメェは!!!」
黄瀬くんの背中に、――跳び蹴りをかました。
「痛っス!!!」
「シバくぞ!」
「もうシバかれてるっス!」
軽く吹き飛ぶ、涙目の黄瀬くん。周りの海常レギュラーの人たちは微動だにしない。
早くもお決まり、になっているのだろう。
笠松さんは肩パンチを2,3発黄瀬くんに打ちながら、
「てめぇ、今の状況分かってんのか?もうちょいシャキシャキしろ!」
「野菜のようにっスか?ちょっ、痛いっスてば」
「黙れ……いいか、あんな盛大な挨拶、ちゃんと返さねぇと失礼だろ」
「はいっス」
言い終えると、それぞれ位置についた。
すでに、
「さっきまでと、空気が違うじゃねぇか……」
「伊達ではないですよ。中身も……」
まずは、海常ボール。
順当に黄瀬くんにパスが渡り、
「こっちも挨拶させてもらうっスよ」
と、大きく腕を振って、
「なっ、まさか同じ?!」
派手なダンクをかました。火神くんと同じフォームの、だ。
だがゴールの軋みから、威力は火神くんより大きいと見え、日向先輩がマークについていたが、歯が立たなかった。
黄瀬くんは髪を払って、火神くんに向かって言う。
「女の子にはあんまり……っスけど、バスケでお返し、忘れたことないんスわ」
火神くんは一瞬固まりながらも、口元を歪め、ニッと笑った。
「おもしれぇ……じゃあ、」
火神くんは突然走り出し、
「よこせ、黒子!!!」
僕は目前に来たボールをパスカットし、火神くんの手元に弾いた。
そしてそのボールは、
バッカァァァン
新たなリングを通り抜けたのだった。
5-紺野舞
〈女の子にはあんまり、っすけど……〉
私には必ずと言っていいほどお返しがあったが、とりあえず突っ込まない。うるさそうだし。
それに、黄瀬くんのあれは明らかにチームメイトへの尊敬の意だ。私が女子でなくてもよかったように思えるから……などという話は置いておくとしよう。
さて、試合は(ほぼ)均衡状態に入った。
「うおらっ」
バスンッッ!!
「ほいっス」
バスンッッ!!
バカ神くんが点を取り、同じフォームで黄瀬くんが返し。今は2点差でなんとか、だ。
だが、問題は点差よりも、
「なによ、このハイペースは!!」
21-23。開始3分でこれである。
もはやディフェンスがあるようには思えないスピードだ。
それぞれディフェンスを全力でやっている。それでも互いの矛が強すぎるのだ。
しかし、この均衡は辛うじてあるモノである。
バカ神くんはフェイダウェイをする。それを黄瀬くんが指で弾く。
逆に黄瀬くんが全く同じフェイダウェイを放ち、成功する。
そう、黄瀬くんはバカ神くんよりキレがよくなっているのだ。
この均衡はもうすぐ、崩れる。
撃った黄瀬くんがバカ神くんに言った。
「ねえ君、もうあきらめたらどうっスか?この均衡は、もうすぐ崩れるっスよ」
「ああんっ」
「オレたちと君たちのフィジカルには圧倒的な差がある。オレにかなう相手は君だけだと思ってたっスけど、やっぱり無理。君のポテンシャルは認める。でも、今の君じゃオレたち『キセキ』の足下にも及ばないっスよ。そして、君の技はオレが全て倍返しできる。まぁ、あきらめながらも、監督の言うように、トリプルにならないようにしてっスよ」
そう言って去る黄瀬くん。歯を食いしばる相田先輩。
そして、言葉を受けたバカ神くんは、
「…………くっ、ハハハハハハハッ」
笑った。あ、狂った。
「いやぁ、わりぃわりぃ。お前ぇみたいな奴、久々でよ。あっちじゃ当たり前だったのになぁ。まぁ、人生、チャレンジしてなんぼじゃん。それに、」
バカ神くんは清々しく、
「勝てねぇくらいがちょうどいい」
と言った。
黄瀬くんは不敵な笑みを浮かべる。
バカ神くんは、何かを探し始めた。
「お前の弱点、分かったぜ。見えたら倍返し?なら見えなかったら?元々マネしろっつうのも無理だが」
バカ神くんは黒子くんの襟をつかみ、引き込んで頭を叩いた。
「お前の弱点、こいつだろ!!」
黄瀬は驚いた顔をした。いや、私たちもだが。
そこでいきなり、
「誠凛、タイムアウトです!」
タイムアウトがかかったのだった。
NG
黒子「紺野さん、これ、原作飛ばしてない?」
紺野「丸写しはダメだろうし。あと、私の活躍のために時間飛ばしたんだって」
黒子「それ、どうなんでしょうか……ってか、飛ばした分どうするんですか?」
紺野「ちゃんと時間入れ替えてもだいたいは入れるんだってぇ」
黒子「ちなみに、このタイムアウト、開始五分でされました。って忠告を入れときます」
作品名:第4Q 勝てねぇくらいがちょうどいい 作家名:氷雲しょういち