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アズール湊
アズール湊
novelistID. 39418
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黒と白の狭間でみつけたもの (12)

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〈 第12章 トウコの気持ち 〉


白い包帯がしゅるしゅると解けていく。

すっかり緩んだ包帯が、指に絡まり、木目の床へと落ちる。

折り重なっていく白い帯を見つめながら、トウコはため息をついた。

指からすべり落ちていった包帯の末端から目線をそらし、トウコは腫れぼったい足首に手をかける。

湿布薬の端をつまみ、引き上げると、シートにくっついていた皮膚が伸びて上下に動いた。

炎症を起こした筋が引きつられて動き、わずかに鋭い痛みが走らせる。

青白くなった左足は、だいぶ腫れは引いているが、治るにはまだ時間がかかりそうだった。

あの日の再来のように、足に痛みが走るこの時間は、どうしても慣れない。

痛みと一緒に、あの日のNを思い出すからだ。

そのたびに、胸の奥がぎゅっと締め付けられるような、切ない気分になる。

もやもやとした思いが、あの日から消えない。

瞼の奥にちらつくのはNの後ろ姿だ。

暗闇に消えていく彼の姿が浮かぶたびに、引き留めてしまいたくなる。

不安になる。呼び止めることができなかった自分がもどかしくて、嫌な気持ちになる。

彼との距離に気づいてしまったからかもしれない。

あの日、助けてくれたN。でも、途中から、目も見てくれなかった。

彼の感情が揺れ動く感覚をかんじとってしまった。

Nとの壁。

よく考えたら、ほんの数回しか会っていない。彼のことを何も知らないことに、今更ながら気づく。

ポケモンと話せる不思議な人ということくらいしか知らないのだ。

それで、もう友達だと思っていた私がいけなかったのかもしれない。

ポケモンと話せるという、自分と似た人を知ったから、一人で盛り上がってしまったのかも。

そう考えて、ズキリと胸に鈍い痛みが走った。

友達だと思っていたのは、ほんとに私だけなのかな?

Nのこともっと知りたい。もっと仲良くなりたいのに……。

彼がどう思っているのか気になった。

私のことを受け入れてくれているのだろうか。

人を憎むNは、私のこともやっぱり信用できないのだろうか。

Nに嫌われているのではないかと思うと、恐くなる。いつの間にか、彼に好かれたいと考えている自分がいる。

もう一度、会いたいな。

今度会ったら、思い切って友達になってと言ってみようか。

もうなっているじゃないか、と言われたら、なんだかうれしい。でも、その逆だったら……。

胸の中がざわつく。

どうしてこんなにNのことになると、心が揺れ動くのだろう。

思いがあふれてきておかしくなる。

また一緒に話ができたら、笑って欲しい。

泣きそうな表情や、なにかを抱え込んでいるような表情のNを見るのは、寂しく感じる。

感情がこもっていないような無表情も、冷たい目も、目線を会わせてくれないのも嫌だった。

ふとした瞬間に見せる、あの笑顔を見ていたい。

彼のすぐ側で……。 そう考えて、ドキリとした。

変なことばかり考えている。

中身を知るのが恐ろしいと感じるのに…、真実を確かめるのは恐いのに…。

それでも、彼の気持ちを確かめたいと思う自分がいる。

矛盾している。

よくわらからない感情が入り交じって、不安になるばかりだ。

「どうしたんだい? ぼーっとして」

アロエの声が部屋に響き、トウコはびくりと体を震わせた。

はっとして見上げると、アロエが部屋の扉の前で、不思議そうな顔して立っていた。

目線の先は、トウコの手元。いつの間にか、外した包帯の束をくるくると団子状にして、手の中で回していた。

無意識に妙なことをしていたのに気づいて、あわてて手を離すと、形の崩れた白い帯の塊がトウコの膝上に広がった。

いつからいたのだろう。アロエさんがやってきたことも、全く気づかなかった。

どぎまぎしているトウコを見て、アロエはくすりと笑った。

「何回か呼んだんだよ。気づかなかったのかい?」

「ごめんなさい! えーっと…」

「お風呂が沸いたから呼びに来たんだよ。準備はできてるようだけど、おかしな子だねぇ、ここ2~3日、ずっとそんな調子じゃないか」

「え!?」

そんなに目に見えてわかる程だったのかと思うと、トウコは恥ずかしくなった。

「そんなにおかしかったですか?」

みるみる顔が赤くなるトウコを見て、アロエは笑った。

「あはは、気づかない方がおかしいさ。アンタこそ、気づいていなかったのかい? ため息ばっかりついて…、足の怪我の直りが遅いことをそんなに気にしているのかい?」

「それもありますけれど…」

「まさか、アタシらに迷惑がかかるから、早く出て行かなきゃとか、そんなことを気にしてるんじゃないだろうね? そんなの気にするんじゃないよ!トウコがいてくれるおかげで、こっちも楽しいんだから」

「そんなんじゃないです! そんなんじゃないんですけど……」

確かに、こんなに家に泊めてもらってまで、看病してもらっているのは、申し訳ないと感じていた。けれども、アロエ達が親しみやすい人柄だったからかもしれない。ほとんど初対面だっていうのに、住まわせてもらっているアロエとキダチの家は、とても居心地が良くて、ずっと前から住んでいたかのような気さえしていた。

まるでほんとの家族みたいに、受け入れてくれるアロエとキダチに、トウコは本当に心から感謝していたし、怪我のためとはいえ、明るく優しいアロエ達と過ごせるのが、トウコ自身もとても楽しいと感じていた。

だからこそ、アロエ達に気を遣わせて、心配させてしまったのだとわかって、トウコは慌てた。

「自分でもよくわからなくて…。なんか変なんですよ、私…」

どう説明していいかわからなくて、トウコはそう言って黙り込んだ。また一つため息を吐く。

はっと、また同じ事を繰り返しているのに気づいて、途中で息をのみこんでみたが、息を飲み込んだ分、余計に大きなため息が一つできただけだった。

なんだか癖になってきているかも知れない。

「変って……、それは、誰かに対しての思いかい?」

「!?」

アロエの言葉を聞いたとたん、頭がパニックになった。

急にNのことが思い浮かんできて、ドクンと心臓が跳ね上がる!

頬が火照り、顔が赤くなってきたのがわかって、トウコは恥ずかしくて視線を泳がせた。

「なんだい、そういうことかい」

顔を赤らめるトウコの様子をみて、アロエはくすりと笑った。

「トウコ、何も変じゃないさ。誰かを好きになるなんてことは、当たり前のことだからね」

「好きって!? そんなまだ友達ですらないかもしれないのに!」

「恋なんて、いつ来るかは決まってないんだよ」

優しいアロエの言葉に、トウコはなんだか落ち着かなくて、延ばしていた足を引き寄せて、膝を腕で抱え込んだ。火照った頬に、少しだけ冷たい肌が当たる。

妙に心地よくて安心した。

「……この気持ちが、ほんとにそういうものなのかなんて……、私わからないよ」

鼓動が早い。体の内側から伝わってくる拍動が、アロエさんにも聞こえてしまっているんじゃないだろうか。

恥ずかしくて、いつもは見れるアロエさんの顔がまともに見れなかった。