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アズール湊
アズール湊
novelistID. 39418
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黒と白の狭間でみつけたもの (12)

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「ふふ、そうかもね。はじめは恋なんて、嘘かもしれない、勘違いかもしれないとみんな思うもんさ」

「……そうなのかな」

Nのことは気になる。気になるけれど…。本当にこれが友達以外の何かなのかは、自信がない。

ただ単に、仲良くなりたいだけで、今は浮かれているから変に考えちゃうんじゃないかとか…。

急に…、好きとかそういう恋愛感情に結びつけるのは違うんじゃないかとか。

考えると恥ずかしくて、トウコはぎゅっと膝を抱え込む力を強めた。

「じきにわかるさ。嫌でも気づかされるもんだよ。恋の好きと、友達同士との好きは、全く違うものだからね」

「……アロエさんも、キダチさんの時はわかったの?」

「そうさ、この人と一緒ならってね! まぁ、先に惚れたのは旦那の方だけれどさ」

トウコの質問に、アロエは一瞬、目を大きく見開いたが、照れくさそうに笑うと答えてくれた。

ずっと大人なのに、恋愛経験だってしているのに、トウコと同じようにアロエの頬も少し赤らんでいた。とっても幸せそうな笑顔を浮かべているのが印象的だった。

恋をすると、あんな素敵な笑顔になれるのだろうか。

私もわかるようになるのかな…?

不思議な感じがした。

いつもドラマや漫画をみながら、恋をするヒロインに憧れていた。でも、きっといつかは、自分も恋をするんだろうと思いながら、今までそういうことは全くなかった。だから、恋をするなんて気持ちは、想像するしかなかった。

苺のように甘酸っぱいとか、蜂蜜みたいに甘いとか、そんな想像ばかりしていた。

この気持ちが……こんなに苦しくなるような気持ちが恋なのだろうか?

よくわからない。

それでも、Nを思うと心の中がぼわっと、柔らかいもので包まれたように温かくなる。

「大丈夫だよ、トウコにもわかるさ。ほら、そろそろお風呂に入っておいで!」

「うん…」

アロエに促されて、トウコは松葉杖をつきながら部屋を出た。

体を洗い、湯船に浸かっても、考えるのは先程のアロエさんとのやり取りのことばかり。

それでも、温かなお湯に体が包まれていると、ゆっくりと心が安らいでいくのを感じた。入浴剤の花の香りも優しい。

ピンク色に染まった、柔らかな水を両手ですくうと、指の間から透きとおった水がこぼれて落ちて、ふわりと一時、花の香りが濃くなった。

さらりと流れていく水の感触も、ザーッと流れる水の音も、なんだか心地良くて、気持ちがスッと晴れていく。

ふわふわと漂う白い湯気。湯船からゆっくり浮き上がり、一気に立ち上る。白い煙は、天井にたどり着く前に見えなくなった。

聞こえるのは送風口の音。風と一緒に、霞も外へ逃げ出していく。

もやもやと滞ったトウコの心も一緒に運んでくれるような気がして、真っ白な湯気をみていると、気持ちが少しだけ楽になっていく気がした。

お風呂から上がり、部屋に戻ると、トウコは椅子に腰かけた。

袋から新しい湿布薬をとりだし、青白い足に貼ると、冷たい刺激に指先が反り返った。

剥がれないように整えてから、新しい包帯をあてる。

足首を固定するように、指先の方から交互に巻きけていく白い帯。

長い帯がだんだんと短くなり、螺旋状の白い帯が重なりながら、柔らかい湿布を覆い隠していく。

包帯が晴れた足首にたどり着くと、ツキンと、軽い痛みが響いた。

巻き付けながら、嫌でも思い出した。

考えても、考えても、まだ答えは出ない。

Nのことを考える度に、胸の中が熱くなる。

もし、これがほんとに恋だったら……。

こんな気持ち、まだNには知られたくないと思った。

もどかしい思いから目を逸らすように、ぐるぐると足に巻き付けた包帯の端を折りこむと、テープで包帯をとめる。

動きを制限された足の痛みは、ほとんど消えていた。

出発はまだ数日先。

焦りたくなる思いをぎゅっと閉じこめた。

『大丈夫、トウコにもわかるさ』

アロエさんの言葉を思い出して、トウコは噛みしめた。

きっと大丈夫。

この先、何かわかると思うと正直恐い。でも、きっと進めるよね。

今までだって、そうしてきたんだから。

そう思いながら、トウコはベッドに入り込むと、ゆっくりと目を閉じた。

甘い夢を見た気がする。

血色の悪かった色が戻り、足首を動かせるようになったのは、数日後のことだった。

足首の腫れも引いて、痛みも少なくなり、歩く許可もでた。

そして、ようやくドクターから旅の許可が出たのは、昨日のこと。

あの日から、一週間以上が過ぎていた。

随分、休んでしまったわ。

そう思いながら、目覚めた日の天気は、快晴だった。

雲もない青い空だ。

そういえば、最近だいぶ暑くなってきた気がする。

チェレン、ベルとカノコタウンを出発したのは、春の後半。

青々とした緑が茂る中だったけれど、シッポウシティを囲む緑の色も、だいぶ濃くなった気がする。

もう夏になるんだ。

日差しの強さを感じながら、トウコは窓から景色を眺めた。

2階の窓からは、森の緑の先方に、わずかに青い海が見える。

天気がよいせいか、木々の隙間から見え隠れするのだけれど、ちょうど木の枝が邪魔をしてよく見えない。

もっと見えそうな気がして、トウコはつま先立ちをしてみたり、背を伸ばしてみたが、そんなことぐらいじゃ景色は変わらないようで、変化と言えば、ちょこっと天井が近くなるくらいだった。

「だめね! さすがにもっと高いところに登らないと、ちゃんと見えないわ」

トウコの真似をして、じいっと窓の外を睨んでいたタッくん、テリム、ヒヤリンに言った。

「ジャジャビー…」

タッくんが、残念そうに、大きなため息を吐いた。

「デリリ~!」 「ヒヤヤ!」

テリムと、ヒヤリンが、タッくんを励ましている。

最近は、この3匹の絵をみることが多かったっけ。

テリムとヒヤリンは、すっかりアロエさんに懐いて、この家にばっちり適応し、旅の休日を楽しんでいた。家の中を走り回って、時々こっぴどく怒られるほどに。

それに比べて、タッくんときたら、トウコの側でじっとして、座り込んでいるばかり。テリムやヒヤリンが声を掛けても首を横に振るばかりだったし、旅が滞って動けないことがつまらないからなのか、ため息をついていることが多くて、珍しく3匹の中じゃ一番、元気がなかった。

一度心配になって、彼の心を聞いてみたけれど、答えてくれたのは、トウコを心配する気持ちと、時々お腹がすいたというくらいで、他には見せてくれなかった。

霧のかかったような気持ちがあるのはわかったから、きっと何かを考えているのだと思うけれど、タッくんは、それを知られたくはないみたいだったし、トウコも無理にそれを感じ取って聞こうとはしなかった。

いっつも、3匹の中じゃ、リーダー的存在だったタッくんが、こんな状況になるなんて、意外だったけれど、きっと旅を再開すればすぐ元気になるはずだ。

ヒウンシティは海の街だし、タッくん達に、本当の大きな海を見せてあげることだって出来る。

「ほら、そんな顔しないで! 今日からまた旅立つんだから!」

「デリリ~!」

「ヒッヤリ~!」