黒と白の狭間でみつけたもの (12)
胸がぎゅっと締め付けられる気がした。
「テリム教えて、タッくんの匂いわかりそう?」
抱き上げたテリムの額に、トウコは自分の額を寄せて目を閉じた。
テリムから不安を含む靄を含んだ気持ちが伝わってきた。
『トウコ、タッくんの匂いがわかりにくいんだ。人が多すぎるのかもしれない』
タッくんの匂いがかき消されてしまっていると、テリムは言った。
『でも、多分行った先は左の方。そっちに匂いが流れてる』
そう教えてくれたテリムは、トウコについて歩いて、出来る限り、匂いを嗅いで手伝いをしたい意思を伝えてきた。
励ましてくるテリムの気持ちがわかって、トウコはぎゅっとテリムを抱きしめた。
「ありがとう、テリム。手伝ってくれる気持ちはうれしい。でも、私この街初めてだし、あなたまで迷子にしちゃうかもしれない。だから、ボールに入っていて欲しいの」
トウコが語りかけると、テリムは頷いた。
そっと差し出したボールに戻るテリム。トウコはそのボールを強く握りしめてから、腰のホルダーに戻した。
トウコ達がいたのは、ほんの街の入り口だ。
ポケモンセンターがある直線道。それが街の右側。
つまり、タッくんはそこ以外の街のどこか、左側へ流されて迷子になっちゃったわけだ。
トウコは雑踏に向き合った。
捜さなきゃ! きっとはぐれて心細いはずだ。
街には理由のわからない恐い連中もいるらしいし、そんな奴らにタッくんが見つかる前に、私が見つけるんだ!
もう人混みなんて恐くなかった。
トウコは、足早に歩く雑踏の隙間に入り込んだ。
人混みに慣れていないのは、タッくんだって同じだ。
きっと街の端まで流されたんじゃないだろうか?
ひたすら流れる雑踏をかき分けて、トウコは目を凝らしながら、街の奥を目指して走り出した。
作品名:黒と白の狭間でみつけたもの (12) 作家名:アズール湊