風香の七日間戦争
八日目・特別編 「電話」
「もしもし、しまうー? 私ー」
「どうしたの風香、なんか進展あったー?」
「うん……」
「なんか歯切れ悪いな。もしかして小岩井さんとけんかして実家に帰ってきた?」
「けんかはしてないけど、昨日家に帰ってきた」
「えー! ほんとにー! それって一旦帰ってきたんじゃなくて"家出"をやめたってこと?」
「うん、そう」
「なんで? あんなに小岩井さんのこと頑張ってたのに」
「うん……」
「あー、気がつかなくてごめん。告ってだめだったのか。わかった。じゃあ私がやけ食いに付き合ってあげよう」
「ちょっと、なんでさっきから悪い方へ話が行くわけ?」
「だって、急に家に帰ってくる理由なんて、そのぐらいしか思いつかない」
「しまうー、聞いて。私、小岩井さんと付き合うことになったの」
「えー! うそだぁ」
「うそじゃないよー。しまうーこそ、こないだ応援してくれたのはうそだったの?」
「応援はしてるけどさ、がんばってアタックするって言ってから付き合うまで、あまりにも早くない?」
「それは私もびっくりした」
「わかった。信じてあげよう。それでいつ告白したの?」
「ううん、告白された。小岩井さんから昨日」
「えーーー!? それは信じられない!!」
「なんでよ」
「だってこの前も言ったけど、小岩井さんて大人の人じゃない。そういう人が私らみたいな子供をたとえ好きになったとしても、自分の気持ちを抑え込んじゃうよ」
「だって、アイシテルって言われたもん」
「なんか、夢でも見たんじゃないって感じだけど、なんて告白されたの?」
「う、うん。小岩井さん、最初は私が高校を卒業するまで告白するの待つつもりだったんだって」
「相思相愛でしたか」
「でもその間に私が心変わりするのが心配になったって言ってた」
「ふーん、でもたぶん小岩井さん、風香の気持ちを知ってたんだろうね。それで風香を卒業まで待たせるのはかわいそうだと思って、告白したんじゃないかな」
「私もそう思う」
「それで、肝心な部分はなんて言われたの」
「えっ…… 私を一人の女性として愛してるから、付き合って欲しいって……」
「わー、男らしい! 私もそんなこと言われてみたいなー」
「それでうれしくて小岩井さんの前で涙が止まんなかった」
「そーかー。でも”家出”してまでアピールした甲斐があったじゃん。もししてなかったら、卒業までずっと待つことになってたと思うよ」
「やっぱそうかな」
「で、初デートはいつなの」
「まだ決まってない」
「じゃあ、服買ったり、靴買ったり。勝負下着はちゃんと持ってる?」
「しょ、勝負下着-?」
「当たり前でしょー。もう恋人同士なんだから、いつ求められるかわかんないよ。それに向うは経験豊富な大人なんだから」
「しまうー、買いに行くの付き合ってー」
「実は私も経験ないから、よくわかんないんだけどね」
「あと相手が大人の人の場合、デートのときってメイクした方がいいのかな」
「うーんどうだろ。私だったら、いつもと違うところを見せたいから、特別なデートのときはナチュラルメイクをする感じかな」
「なるほどねー。あさぎお姉ちゃんにやり方聞いてみよ」
「でもほんとによかったね。おめでとう。本音を言うと、風香がずっと告白されるのを待ってる間に、小岩井さんが別な人と結婚しちゃって、風香が泣いちゃうのかなって心配だったんだ」
「ありがと。確かに私も最初は信じらんなかったもん」
「あんた結構一途なとこあるし、小岩井さんもそういうところに惹かれたのかもね」
「それ自分でも不思議。小岩井さんは私のどこを好きになってくれたんだろうって」
「今度聞いてみれば?」
「うん、そうする。でも実際大変なのはこれからかなって思ってる」
「年の差とか、社会人と学生の立場の差とか?」
「そう。でも一週間一緒に暮らしてみて楽しかったし、楽観的な考えもあったりして」
「風香、初デートもまだなのに考えすぎ」
「あはは、そうだね。じゃあ聞いてくれてありがとう。また電話するね。おやすみー」
「うん、おやすみー」