風香の七日間戦争
風呂を出て自分の部屋に行く。
風香は風に当たりにベランダに出た。
すると小岩井もそこにいる。
「小岩井さん、どうしたんですか」
「ちょっと風に当たりにね」
「私もです」
「風香ちゃんが来てからたった一週間なのに、いろんなことがあったなあと思って。毎日ドキドキしたよ」
「ドキドキしました?」
「さすがに年ごろの女の子が同じ家にいると気を使うからねえ」
「そうは見えませんでしたけど?」
「あのねえ、俺も一応社会人だからね。そうは見えないかもしれないけれど、俺なりに気を使ってるんだよ」
「ふふっ、うそですよ」
「よつばと二人きりだと気が楽だけど、こういう生活も悪くないなと思ってみたり」
「私も小岩井さんとよつばちゃんと暮らしてて楽しいです」
「最初は家出してきたと聞いてびっくりしたけど、こないだ家に帰ったりしてたのでそんなに心配ないかなとは思ったよ」
「そういえば家出した理由ってはっきり言ってませんでしたね。私、家事とかするの嫌いじゃないし、あまり問題はなかったんです。ただある日自分が家でどれだけ役に立ってるのか考えていて、もし私がいなくなったらどうなるのかなと思って」
「それで家出してみたんだ」
「はい。でもだれも困った様子はなくて、私って何なんだろうって」
「風香ちゃん、外から見て変わらないように見えるのは、風香ちゃんがやっていたことを中でみんながやっているからだよ。君がいなくなって、お母さんが一番苦労してると思う」
「でも、でも私が家出した本当の理由は、小岩井さんと仲良くなりたかったからなんです。だから一緒に住みたいなって思って押しかけてきて。だけど小岩井さん私のことそんな風に見てくれなくて」
「まあ、俺がもっと若かったらとっくにくっついていたかもしれない。君の将来のことを何も考えずにね」
「え?」
「でも今の俺が君のことを考えるときには、君の将来のことも含めて考えざるを得ない」
「それって……」
「本当は君が卒業するまで待った方がいいことはわかってる。そして実際そうするつもりだった。だけどその間に君が他の男を好きになったらどうしようかと不安になるんだ」
「小岩井さん……」
「もう言ってしまおう。綾瀬風香さん。俺は君のことを一人の女性として愛している。付き合って欲しい」
風香は手で口を押さえ泣き出した。
「私、小岩井さんが私のことそんな風に考えてくれてたなんて思わなかった……」
泣きじゃくる風香を愛しく思い、小岩井は風香にそっとキスをする。
風香も小岩井の首に手を回し抱きしめた。
「夢じゃないですよね。私本当に小岩井さんの彼女になっていいんですか?」
「風香ちゃんがいやじゃなければ、是非お願いするよ」
二人は抱き合い、もう一度くちづけを交わした。
「そう言えば風香ちゃん、学校の男子に失恋したことあったよね」
「えー! な、何で知ってるんですか!!」
「よつばに聞いた」
(もー、よつばちゃんのおしゃべり!)
「で、でもそれは私の一方的な片思いで、その人とは何もなかったので」
「はは、ごめんごめん。風香ちゃんがかわいいんで意地悪したくなっただけ。風香ちゃんが昔誰を好きだったとしても、今俺のことを好きでいてくれたら構わないよ」
「はあ、小岩井さんてやっぱり大人ですね。…………小岩井さん」
「ん?」
「私処女ですよ」
小岩井は驚いて思わずふき出しそうになった。
「風香ちゃん、突然何を……」
「それで小岩井さんは今まで何人ぐらいの女性とお付き合いしたんですか?」
「お、そう来るか。それは秘密だ」
「じゃあジャンボさんに聞いていい?」
「あいつは知らないと思うよ」
「ということは、お付き合いしたことはあるんですね」
「う゛っ、普通俺の年で誰とも付き合ったことがないと思うかい」
「くすくす、冗談です。私も今の小岩井さんが好きって言ってくれてうれしいです」
風香は決心した。
「小岩井さん、突然ごめんなさい。ほんとはもっと一緒にいたいけど、小岩井さんの”好意”に甘えちゃいそうなので、私今日帰ります。この一週間ありがとうございました」
「いや、風香ちゃんが来てくれてこっちも助かったよ。また気が向いたらここにおいで」
「はい! でもとりあえずデートに連れてってくださいね!」
「ああ、もちろんだ」
風香が家に連絡したあと、風香の母が迎えに来た。
「風香、そろそろ帰る?」
「うん!」
風香の母が小岩井に礼を言う。
風香は小岩井家に来たときの格好で、家へ帰って行った。
夏休みはまだまだ続く。
風香は今年の夏への期待でいっぱいであった。