夜恋病棟・Ⅱ
フランシスからだ。
アーサーは食器を片付けて急いでベランダへ出る。
振動を続けるそれを耳にかけると通話のスイッチを押す。
「なんだ、フランシス?」
「心配して通信してるのになんだ、はないでしょ?」
「あぁ、わりぃ。」
「…で、パートナーは見つけたの?」
「見つかった。」
「へぇ、どんな子?」
「黒髪で細い体つきの、女みたいな男だ。」
「それって、美人って事!?」
「まぁ…」
アーサーもやるね、いいなぁなんて間抜けな声を出すフランシスにわざとらしく溜め息を吐いてやる。
「なぁに?上手くいってない、とか?」
「いや、まぁそうなんだが、俺が居なくても耀は十分幸せそうなんだ。」
「耀ちゃんって言うんだ。今度見に行こう!」
「あのなぁ。」
とりあえず煙草、とポケットからぐしゃぐしゃの紙箱を取り出すが、中身は残り二本しかないのに気づく。
「…おぃ、」
「なぁに?」
「耀に会わせてやるから、煙草を二箱持ってこい。」
「何、もう無くなったの!」
相変わらず吸うね、と呆れた声が耳元で呟かれる。
けどフランシスは相当耀に会いたいのか、二箱ね、と承諾した。
「じゃあ、頑張ってね。」
「おぅ。」
フランシスのあんなにご機嫌な声、久しぶりに聞いたなと懐かしみフィルターをくわえた。
部屋に戻ると耀はティーポットとカップを二つ出していた。
アーサーが出てきたのを見ると微笑んだ。
どうもアーサーは耀の笑顔に弱いようだ。
胸が跳ねる。
「紅茶、いるあるか?」
紅茶はアーサーにとって一番好きなお茶で、同時に淹れるのが得意なお茶でもあった。
そこで頭より体が動いた。
「俺が淹れる!」
それに驚いたのか、紅茶の葉を持ってきた耀がこちらを目を見開いてじっと見てきた。
じゃあ頼む、と葉を渡されたアーサーはポットに葉を入れ、慣れた手つきでお湯を注ぐ。
それをじっと見つめてくる耀の視線がどうも気になって仕方ない。
「良い香り…この苦味がまた良いあるね…。」
アーサーが淹れた紅茶は耀に絶賛された。
味わいながら紅茶を飲む耀はとてもリラックスした表情で微笑んでいた。
アーサーも吊られて微笑む。
「また淹れて欲しいある。」
「耀がお望みなら、いつでも。」
ウインクを一つ、フランシスの様にしてやると耀は笑った。
…可愛い。
また胸が跳ねる。
「そ、そうだ…何時になるか分からんが、近々俺の友人が耀に会いたいって…。」
「アーサーの友人あるかぁ…我も一目見たいあるな!」
その日はまたアーサーがベッドに、耀が床に布団を敷いて眠った。
アーサーは頑なに断ったが耀は客人を床には寝させられないというもんだから仕方なくベッドへ横になった。
そういえば耀はアーサーの怪我について追求して来なかった。
普通なら出掛ける前にあれほどの怪我をしていて帰ってきたらほぼ完治していたなんてあり得ない話だ。
しかし帰宅してからの彼の様子だとそれを気にする素振りも見せないでいる。
不思議だが此方から尋ねるのも可笑しな話だ。
耀が気にしていないだけだ。
そう自分に言い聞かせ、耀の寝息を聞く。
もしや耀は無理をし過ぎて居るのではないか。
アーサーの頭に不安が過った。
しかし耀の寝顔を眺めていたせいかうとうとと目蓋が降りてきた。
おやすみ、goodnight.
また明日。
耀の目蓋に自然とキスを落とすとアーサーはベッドに沈み込んだ。
(続)