夜恋病棟・Ⅱ
耀の手料理は文句無しに旨い。
食べていて飽きない。
フランシスと争えば順位を決められないくらいだ。
「明日、授業午前中だけある。」
箸が上手く使えず苛々するアーサーに優しく呟いた。
「ん?あ、あぁ…。」
耀が何を言いたいのかいまいちよく理解出来ないのか、アーサーは曖昧に返事をし、味噌汁の中にある滑子を取り出すのに専念する。
「午後、どっかに出掛けないあるか?ショッピングとか…。」
耀がくすくすと笑うのは、アーサーがさっきから全く食事が進まないからだろう。
滑子と闘うアーサーは、良いねと茶碗に視線をやりながら返す。
「だけど俺、金持ってないぞ?」
諦めたのか、茶碗に口を付けて汁ごと具も口に流し込むと耀に向き直った。
耀は箸を優雅に進め、滑子も簡単に掬い取り口に入れる。
「いいある。我が出すあるよ。」
どうせそうだと思っていた、と付け足され耀はサラダのキャベツを摘まむ。
天界から持ってきたものといえば煙草とジッポとフランシスとの連絡用の小型通信機のみだ。
お金は人間界とはまた別物だから持っていっても使い物にならないさ、と腐れ縁にアドバイスを受けた。
高いものは控えよう。
そう思いご馳走さま、と食器を重ねて立ち上がる。
「食器は俺が洗う。」
「そうあるか?じゃあ宜しくある。」
ご飯を大量に平らげた耀が暫くして自分の分の食器を洗っていたアーサーへ残りの食器を持ってきた。
その細い体のどこにあんな大量の飯が入るのかさっぱりわからない。
アーサーはありがとう、と食器を受け取り水に浸ける。
耀は勉強があるから、と先に自室に戻っていった。
食器を荒い終え、水をきってから拭いているとポケットに入った通信機が振動した。