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Fate/10 Bravely 二巻

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戦争の波乱の幕開けから、ちょうど一晩。

天城直人は、本を探しながらため息をついた。理由は2つ。何故名門ではないにしろ魔術師である自分が、科学の粋たるミリタリー雑誌を探せなければならんのか。

そして、もう一つ。何故アーチャーの服のセンスがこんなに悪いのか、である。

「ワハハハハハ、小僧!これほどまでに書物がある場所があるなら、もっと早に言えば良いものを!」

余は書物を読むのも大好きじゃーと言いながら、ド派手なアロハシャツにジーパンという珍妙な格好で図書館を闊歩するアーチャーを見ながら、本日何度目かのため息をつきつつ、雑誌コーナーを眺める。

本当なら、天城家に戻ればこの図書館の数倍の大きさの書庫がある。しかし、残念ながら天城邸は森宮からはかなり遠いところにある上、アーチャーの所望していたミリタリー雑誌などあるわけがない。

「あいつめ…なんでミリタリー雑誌なんか。全く検討が…」

物語の棚を通り過ぎようとした時、天城の視界の端にあるものが映る。

それは、車椅子の少女だった。少女といっても、恐らく自分よりも年齢が上なんじゃないかと思わせるような大人びた雰囲気がある。彼女は精一杯伸び上がって本を取ろうとしていたが、車椅子であるが故に届かないようだった。

吐き慣れたため息をつく。天城直人には、こういう時に困る性格があった。彼は、魔術師にあるまじき性格の持ち主である。


どうにも、困っている人間を見過ごせないのだ。


「取りたい本があるんですか?」

車椅子の少女は、ちょっと驚いたように振り返った。外国の人なだろうか?背中まで伸びているであろう髪の毛は、まるでエメラルドを更に濃くした、樹海の深緑のような色をしている。青い目をまんまるにして彼女は天城をじっと見ていた。

「あ、やば。日本語、わかんなかったかな?」

首を突っ込むんじゃなかった、と天城が思った頃、やっと落ち着きを取り戻したのか、少女が口を開いた。

「あ、あそこの背表紙の黒い本、お願いできますか?」

そういって彼女が指さす先には、頑張って取ろうとした努力の結果なのか、ちょっとだけ手前に傾いた黒い本が見える。ちょうど天城の頭の高さくらいか、少女が散々苦労していたであろうその本は、いともたやすく天城の手の中に収まった。

「これでいいですか?他には?」

件の黒い本(猟奇殺人鬼のなんとやらと書いてあった。可愛いなりして随分物騒な本を読むもんだと思った。)を彼女に渡すと、それを受け取りつつ彼女はペコリとお辞儀をする。

「他にはないです。届かなくて困ってたんです。ありがとうございました。」

最後にもう一度ぺこりとお辞儀をすると、彼女はその本を抱きしめるように抱えると車椅子を進めて、天城の視界から消えた。

さぁていい加減ミリタリーの雑誌を探さなきゃならんと天城は腕をくるりと回して雑誌の棚に急ぐ。幸い、雑誌の棚は、短髪の少女が料理の本を熱心に立ち読みしているだけだったため、直ぐに見つかった。

「さて、目的のものは確保したし…」

そうしてふと図書館の二階を見上げ、最早慣れっこになったため息を付く。

アーチャーは顔が見えなくなるくらいの大量の本を抱えていた。



「ほほぅ。今の時代には掌に収まるほどの銃もあるのか。」

「その分威力はないらしいな。鳩に豆鉄砲食らわせているようなもんだろ。」

結局天城が一冊だけ借りてきた雑誌は、見事に焦土王のメガネに叶ったようで、彼の簡素なベットを占拠したアーチャーが熱心にページをめくっている。天城は床に座り、昨日の戦いで使用した光曲晶の欠けを調べたり、反射屈折に支障が出ないように磨いていたりしている。

しばし互いに沈黙の時間が続く。時たまアーチャーの「おっ」とか「ほほぅ」とかの感嘆が聞こえる。

「小僧、このFN SCARという銃はどうだ?」

沈黙を破ったのは、アーチャーであった。彼は右手で雑誌の上をつかみ、左手で「FN SCAR」という銃の写真を指している。天城は眉間にしわを寄せつつ、その銃の解説を読もうとした。しかしさっぱりわからない。

「…アーチャー、俺に銃について意見を求めてどうする。」

「そりゃ決まっておろう。この銃を我が『王の掃射』の兵どもに配備するのよ!」

「は、はぁ。」

するとアーチャーは喜色満面にSCARの性能について語り始めた。曰く構えをスイッチしてもグリップを保持したまま全て操作できるとか、従来のスナイパー用ストックのように調節可能なチークピースを備えているとか、米軍採用の次世代ライフルのド本命だったが、一部不採用としたなど色々だが、どれにしろ天城はさっぱりわからない。

そんなことより彼の頭に巡ったのは、というよりも引っかかったのは、「王の掃射」の兵に配備する、という言葉である。

アーチャーの主力宝具、「王の掃射(ウォー・オブ・ナガシノ)」は、アーチャーの呼び掛けにより、生前付き従った兵を呼び集め、一斉に射撃するといったものである。兵は火縄銃を装備しているため、良くは分からないが火縄銃よりはるかに高性能であろうSCARを配備すればそりゃ強力になるだろう。文字通り段違いだ。

でも、どうやって、配備する?まさか…

「アーチャー、金ならないぞ。」

「ん?」

雑誌を読みふけっていたアーチャーが、素っ頓狂な声を上げる。まるで、天城の言っている意味を分かっていないとでも言いたげな返事である

「だから、金ならない。森宮に布陣するのに必要最低限なモノしか持ってきてないし、だいたいお前の「王の掃射」の規模を考えてみろ。こんなの100丁も買ってみろ。天城は軽く破産するぞ!」

アーチャーは、狐につままれたように目をくりくりさせながら聞いていたが。やがて腹を抱え始め、呵呵大笑し始めた。

「ククク…フハハハ…フハハハハハハハハハハ!!!」

「おいこらアーチャー!何がおかしい!笑うな!」

ベットの上で七転八倒しながら笑うアーチャーを、とりあえず手近にあった本で小突きまくってみる。その度にアーチャーが「わかったわかった、ちょっと待てい、ツボに…」とか言い始める。こめかみがピクつくのが自分でよくわかる。

「ハァハァ…フゥーッ!」

そしてやっとアーチャーが笑いを収める。それでも随分とお腹がいたそうな顔をしていらっしゃる。不快だー!

「小僧、貴様が懐の心配をする必要はないぞ。」

「じゃぁなんだ!?お前の財布で買うのか!?買い物なのか?焦土王じゃなくて買物王織田信長だったのか?どこのバイヤーだあんた!?」

「小僧、まず落ち着け。買物王とかばいやーとか言われても余はわからん。」

すると、アーチャーは、件の雑誌を手元に引っ張り寄せ、ちょうどSCARの写真の上に右手を載せる。彼が瞑目すると、その右手から赤い光が溢れ出す。

驚きに目を開く天城を、チラッと見て笑うと、彼は詠唱を始める。

「天下を布武せし焦土王が告げる。貴様は余の眼鏡に適った。我が下に献上することを許す。我が元に集いし兵共よ、貴様らの得物は今よりこの銃ぞ!」
作品名:Fate/10 Bravely 二巻 作家名:AsllaPiscu