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少年はいざゆかんと

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注)このお話はWC結果を捏造しています。
  単行本派なので現在本誌でどのような試合結果が出ているのか作者はまったく把握していません。
  その点ご承知の上御覧ください。


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 ドアを開けた一歩先は当たり前のように冬だった。
 いってきまーす、と誰もいない家に宮地はちいさく呟いた。暖かな室内に別れを告げて足を踏み出すと、冷気がひやりと首筋を撫でる。さみいなぁ。すっぽりと埋まっている黒いマフラーは、くるりと首を護ってくれるけれど、まだ夜明けに近い空気は切り裂くように冷たい。
「だれだよこんな日に初詣行きたいなんて言い出した馬鹿は…」
 まぁ、文句を垂れても今は意味が無い。
 合流したら大坪にでもさり気なく聞いてみよう。んで心置きなく殴らせてもらおう。そう決めて、宮地は誰もいない街路をひとり歩き出した。




「明けましておめでとーごさいまっす!」
 テキ屋が参道の両端をひしめき、それに乞うように人が蠢く中を、突き抜けた明るい声が駆け寄ってくる。
「あけおめ。つうか高尾、元気だなこんな時間に」
「先輩はねむそーっすね!」
 屋台の光に照らされて、ニコニコと大層楽しそうな笑顔は、いつも通り浮かれていた。まったく、馬鹿みたいな顔だ。まぁ、本当に馬鹿なんだろうとは思うけど。
 ま、お前はそういうやつだよなぁ。
 ちょっと強張っていた肩が妙に存在感を増しはじめて、宮地は拍子抜けした気持ちを持て余した。
 高尾は他のメンバーも来てますよ!とテンション高く、人と人の間をすり抜けていく。言われるままに付いて行けば、見知ったレギュラーメンバーが顔を揃えていた。
「よお、宮地」
「あけおめ~」
 大坪はいつも張り付けている険しい表情をすこし和らげて、木村はほへらとした締りのない笑顔を浮かべて、新年を寿ぐ挨拶を告げた。家族よりも長い時間を過ごしてきた仲間達の顔をみると、悔しいけれどどうしても安心してしまう。
「あけおめー。俺はねみーよ」
「しっかりしろ。一応、受験祈願に来てるんだぞ」
「うわ、大坪やめろよ。嫌なこと思い出させやがって…」
 苦笑いした大坪に、木村がげっそりとそう呟いた。「木村、その顔おもしれーぞ」「うっせお前は新年からイケメンですねぇ!」「もっと褒めてくれてもいいのよ?」「大坪、こいつシメて良い?」「うーん、良し!」ギャハハ、と漏れ出る笑い声はいつかの体育館で響いたそれで、あぁ本当にいつも通りだ、と宮地は思った。

 試合の終了を告げる、ブザービーターの映像がまだ記憶から消えない。俺達の高校生活最後の試合は、敗北で幕を閉じた。難しい試合になるなんて、やる前から分かっていた。だからこそ、毎日パス連をしてフォーメーションを確認して、相手校の試合をそれこそビデオデッキが磨り減るほど繰り返し見た。でも、負けてしまった。そして、それが宮地達の引退試合になった。
「ま、これから受験なんてどうなるか分からないけどねー」
「肖れるもんには、なんでも肖っとけってこった」
 木村にアッパーを食らいながらそう言うと、あっさりとした声が降ってくる。そうだな、とそれに大坪が朗らかに笑う。こいつらがいて良かったなぁ、と宮地は思う。阿呆で馬鹿で勝っても負けてもバスケをすることが大好きで。でもそういうことを口に出して言えるほど、宮地は人間が出来てない。若いってこういうことかと、最近よく思ったりする。
「そうっすよー。初詣をして願掛けをする、これも人事を尽くすことなのだよ、って真ちゃんが言ってましたよー」
「そういえば高尾、ちゃんと緑間も来ているのか」
「え、まさか今日の集まりって緑間が言い出したの?」
 きょろきょろと視線を彷徨わせる大坪に、思わず聞けば、あぁそうだぞ、と当然のように返される。このキャプテンは土壇場に強く部を引っ張っていくだけの統率力を持っているが、ところどころ抜けているのだ。そんなところでキョトンとしても可愛くねぇんだよ。宮地はぐったりした。よりによってあの憎たらしい後輩の提案だったとは。
「真ちゃん、ちゃんと、連れてきましたよー!」
「………高尾、五月蝿いのだよ」
 騒がしい高尾に引きずられるように現れた緑間は、眼鏡をかけ直し、鬱陶しそうに眉を寄せた。
「あ、真ちゃん、いまウルサイって漢字で言ったでしょ」
「五月蝿い黙れ」
「ひどーい!」
 あからさまな溜息にめげず、緑間の周りをちょろちょろと動きまわる高尾は、まるで飼い主と子犬のようだ。
「ほれ、ふたりとも戯れてないでいくぞ」
「ほーい!初詣終わったら、キャプテン家で鍋ってマジすか!」
「あぁ。あと俺はもうキャプテンじゃねぇよ」
「いいじゃないっすか、卒業するまでくらい。やったね真ちゃん鍋だって!」
「本当に五月蝿いのだよ高尾…」
「なんだよー真ちゃん鍋好きじゃーん」
 宮地は一年間過ごしてきて、未だにこの生意気なキセキの世代とやらの坊っちゃんに、なぜこんなに高尾が構うのか理解できなかった。勿論、円滑にバスケをしていくためにはある程度のコミニュケーションは必要だ。けれど高尾のそれは、同級生だからとかそんな枠組みを超えて、明らかに緑間に対して良好な意思を持っていた。
(俺だったら無理だな。)
 ぎゃあぎゃあと喧嘩にもなっていない言い合いをしながら境内へ入っていく後輩を見つめながら、宮地は首を傾げた。
 ずっと緑間が気に入らなかった。
 キセキの世代を獲得した。その監督の言葉に、少なからず戦慄した。秀徳に入学してきた緑間は、力があることを当然かのように誇示して、チームを重視しないプレイを繰り出しつづけた。その圧倒的な才能に、ただただ苛立ちが湧き上がった。それにあの我儘で奔放な性格が輪をかけた。入部一週間で、宮地は、こいつがキライだ、と思った。
 あれから一年が経とうとしている。緑間も随分変わった、と大坪は言った。たしかにそうだとも思う。けれど宮地には、まだ緑間を完全には認めることが出来なかった。意地のようなものだった。矜持と言いたいものがあった。それが凡人が持つものなのだとしても、大好きな、言葉にしたことなど無いけれど、大好きなのだと気がついたバスケに費やした月日を賭けて、意地でも緑間を認めることが宮地にはできないでいた。



 ふ、と意識が浮遊するように戻ってくる。
 ぱしぱし、と目を瞬いてみれば蛍光灯の灯がひどくまぶしくて、一瞬自分がどこにいるのかわからなくなった。ぼんやりと下半身が温かいので、あぁ炬燵に入っているのか、と思う。
 すこし痛むこめかみを押さえて起き上がれば、散々なことになっている炬燵の周りに、更に散々な格好で先程まで鍋をつついていた面子が寝そべっていた。
 そっか、初詣から返って来て、大坪宅で打ち上げを兼ねた鍋大会をしていたのだった。
「あー!宮地お前肉ばっかとってくんじゃねぇよ!」
「うっせー弱肉強食なんだよこういうのは!」
「木村、まだ肉はあるから落ち着け。宮地はちょっと野菜も食えよ」
「大坪先輩ってほんとオカンですよね…」
「高尾、ちょっと落ち込むからオカンはやめてくれないか…」
作品名:少年はいざゆかんと 作家名:鶯の谷