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こらぼでほすと 厳命1

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タクシーが寺の山門の前から離れると、やれやれとニールは山門の扉に身体を預けた。数日前から、ちょっと身体が怠るくて、食欲もなくなっていた。低気圧の所為だろうと、ニールは自分の体調を見て見ぬフリをしていたのだが、リジェネが出発すると、さすがに身体が重くて自力で立っていられなくなった。とはいっても、山門で座り込むわけにもいかなくて、どうにか境内を家のほうへ動き出す。
 血の気が引いてきたのか、頭がすっと冷たくなる。倒れたら、騒ぎになるので我慢して膝をついた。その拍子に咳き込んで、手を当てたら赤いものが手の平につく。

・・・・あーヤバイかも・・・・・


 貧血を起こしたように目が廻る。どっか壊れたな、と、冷静に考えている自分がおかしい。リジェネにラッセの経過を聞いていたお陰で、自分の状況に慌てずにいられる。今度は、激しく咳き込んで、大量に血を吐いた。消化器か呼吸器のどこかが壊れたらしい。リジェネから得た情報では、本来は死んでいるはずの身体だ。まあ、突然に壊れることもあるのだろう。ごほごほと咳き込む度に血を吐き出す。

・・・・死ぬのかなあ、俺・・・・・


 そのまま倒れこんで目を閉じる。ごめんな、と、次々と思い浮かぶ顔に詫びて意識が落ちていく。気分は悪くない。ただ、残念だなあ、と、笑っていた。こんな終わり方だと刹那が地団駄踏んで怒りそうだ、と、思ったからだ。


・・・・ごめんな、刹那。いろいろと考えたのに、いざとなると何もできないな・・・・ごめん・・・・・


 いろいろと後のことは考えていたのに、何もできていなかった。もう少し時間はあるだろうと思っていたからだ。






 紫猫もどきを送り出すために外へ出た女房が、一向に戻って来ない。坊主も、しばらくは放置していたが、何か気になって玄関を出た。目の前の光景に、ちっっと大きく舌打ちして、携帯端末を取り出した。
「八戒、うちの女房が死んでるが、どうする? 」
 こんと草履で、その血に塗れた頭辺りを小突くが反応はない。しゃがんで首元に手を置いたら、まだ温かい。脈は感じるから、まだ生きてはいる。
「なんの冗談ですか? 三蔵。」
 相手は、坊主の爆弾発言でも慌てない。だが、少し声は大きい。坊主は、こういう冗談は言わない性質だ。
「境内で血を吐いてダウンしてる。まだ脈はあるが・・・激ヤバだ。」
「・・・わかりました。すぐに本宅と連絡を取ります。意識はないんですか? 」
「頭を蹴っても反応しねぇ。」
「じゃあ、気道確保だけしておいてください。すぐに行きます。」
 気道確保と言われて、面倒だなあ、と、思いつつ首筋に後ろから手を入れる。そこを持ち上げて気道を広げるぐらいのことは、坊主も知っている。だらだらと血は口元から流れ続けていて、生臭い匂いだ。これは死ぬな、と、坊主も覚悟した。本山のクスリで持ち堪えていたが、悪化した部分が勝れば、こういう結果になるのは、イノブタからも聞いていた。
「ちょっと早すぎるだろ? 置いてけぼりはやめろって言ったんだがな? 」
 ダブルオーの完成に向けて、黒猫たちは奔走している。それなのに、ここで死なれたら、さすがに黒猫は暴れるに違いない。二度はやってやるな、と、叱るのだが反応はない。厄介だなあ、と、この後の予想をして、げんなりした。知り合いが死ぬことに恐怖は感じないが、坊主も残念だと思った。二人で、だらだらと寺で暮らすは、坊主にしても楽しかったからだ。


 沙・猪家夫夫は、連携よろしく、坊主の連絡に家を飛び出していた。カッパ亭主が運転を、イノブタ女房のほうが本宅のドクターに連絡して指示を仰ぐ。緊急車両は使えないから、本宅へ運ぶ算段が必要だ。
「ヘリポートですね? ・・・はい・・・はい・・・では、そこまでは僕たちが・・・はい・・・データは・・・ああ、はい・・わかりました。」
 ナビシステムに送られて来たデータを転送する。一番近いヘリポートへドクターがヘリでやってくる。そこで最低限の処置をして本宅へ移送する算段がついた。
「悟浄、寺から、そのルートでヘリポートです。」
「あいよ。・・・もうちょっとだってのに、なんでダウンするかねぇーママニャンは。」
「もう限界だったんです。本山のクスリは、あくまで健常な細胞を活性化させるだけです。悪化していた部分のリカバリーはできていませんでした。」
 そろそろ本宅で過ごさせようとドクターも言っていた矢先だ。悪化した部分の、どこかが壊れたら、こうなることは予想されていた。寺では緊急措置はできないから、本宅で過ごしてもらおうと診断していたのだ。

 沙・猪家のマンションから寺まではクルマなら僅かのことだ。到着して、山門へ駆け込むと、坊主が女房の気道確保しつつ、タバコを燻らせていた。まあ、人間が死ぬところも見慣れたものだ。これぐらいでは動じない。
「三蔵、行きますよ。」
「本宅か? 」
「ヘリポートへ運びます。そこから本宅です。」
「反魂の術使ってでも蘇生しろ。今、死なれたら、黒猫が世界を壊すぞ。」
「わかってます。」
 坊主が、クルマの後部座席に女房を押し込む。そこへ八戒が乗るとドアは閉まる。坊主はついていくつもりはないらしい。気功波で生体エネルギーを与える作業を開始する。人間とはしぶといもので、なかなか死なない。しばらくなら、八戒が生体エネルギーを与えることで生かしておける。悟浄は指定された場所へクルマを急がせる。




 ヘリポートで最低限の処置をして、本宅へ移送した。片肺が機能停止して、内部が崩れたのが原因だ。再生槽に叩き込み、その部分の再生をさせる。他にも、あっちこっちガタがきているから、しばらくは、その治療も試みる。ただし、細胞異常は、治療しても再発するものだから予断は許されない。スタッフには連絡は入ったが、どうすることもできないから静観するしかない状態だ。
「ここまできてっっ。」
 ドンッッとコンソールを力強く叩いてハイネが携帯端末からの情報に憤る。後少しで、完治できたのに、ここでダウンとは悔しい結果だ。
「落ち着け、ハイネ。最悪は、冷凍保存の処置をして、ダブルオーが完成するまで眠らせる。それで、なんとか凌げるはずだ。」
 アスランのほうは冷静だ。遅かれ早かれ、この結果は決まっていた。ダブルオーで治療をするには宇宙に上がらなければならないから、その際は冷凍処置をする予定でもあった。だから、このまま持ち直さないなら、そのまま宇宙に上がるまで寝かせてやればいい。キラも顔色は変えたが、どうにかできることではない。ヴェーダで行なう作業の整理に集中している。
「違うんだ。あいつ、一回目の死に掛けた瞬間を覚えてるからさ。二回も、そういう目に遭わせたくなかったんだよ。」
 ハイネも、一度、その目に遭っているから、余計に怖い。なんせ、あっという間に自分の身体が半分に切れて周囲が爆発したのだ。あれは何度も味わいたいものではない。
「まあ、何度も味わいたい類のものじゃないけど。」
作品名:こらぼでほすと 厳命1 作家名:篠義