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アリスが一番好きなのは誰か?

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仕事がなくなった上に、暫く領地外へ出るなと釘を刺されたために時間が余って仕方ない。それで割と頻繁に、時には同じ時間帯に二度もブラッドの部屋へ本を借りに行くこともあるのだが、気のせいか、いつもより留守がちのように感じていた。
その時も、読み終わった本を胸元に抱いて階段を下りてきたところだった。玄関の方から騒がしい一団がこちらに向かってくる。エリオットや双子の姿も見えた。目の前を通り過ぎてゆく。此方に気付いたエリオットと双子たちが、にこーっと笑って手を振った。ブラッドは前を向いたまま通り過ぎる。その左腕に違和感を感じ再度確認しようとしたが、人の陰に隠れ見えなくなってしまった。
アリスはそっとその場を離れる。

返却する本を持ち、ブラッドの部屋の扉をノックする。返事が無い。何となく嫌な感じがして、返事は無いがドアを開けた。部屋の中は明かりが点いていて明るい。一見したところ不在のようだった。だがアリスの顔はソファの方を向いていた。一点を凝視して動かない。勝手に部屋に入ると、まっすぐに赤いソファに向かった。
手に持った物をテーブルに置き、無造作に脱ぎ捨てられた見慣れた白い上着を持ち上げる。その白い筈の左側の袖が三分の二ほど赤黒く染まっていた。それはどう見てもかなりの出血の痕だ。

「ブラッド、いないの?」

声をかけながら奥の寝室の方の様子を伺う。返事が無く、そっと寝室の中を覗き込むが暗過ぎて人が居るのかどうかも見えない。何処かで倒れているのではないかと心配になる。ベッドに近づき、窓から入る星明りで人影を探す。どうやらベッドの上にはいないようだ。室外に出ているのかと振り返った途端に、後ろから拘束されベッドに横倒しに倒れこんだ。

「気が変わったのか、お嬢さん。」

捜し人の声が直ぐ後ろで聞こえた。明るい声だ。少し悪戯っぽい話し方。でもアリスは返事をしない。何のリアクションもないことを不思議に思い、ブラッドが顔を覗き込む。アリスは顔を背けた。

「泣いているのか?」
「ビックリしただけよ。」

強がる声は鼻声だった。悪かったと言いながら起こされて、寝室が明るくなる。

「上着に血が付いていたわ。怪我したところ見せて。手当てするから。」
「こんな掠り傷にか?」

あんなに出血しながら掠り傷なわけがない。そう思いながら左腕を見た。表面は傷付いているが、既に出血は止まっている。見た目は数日前に負った傷に見えた。

「本当だわ、貴方達って凄い回復力なのね。」

アリスは立ち上がると寝室を出て行く。直ぐに手に箱を持って戻ってきた。

「気休めかもしれないけれど。」

そう言いながら、二の腕の傷を消毒をしてガーゼを当てた上から包帯を巻いていく。

「こんな事をしてもらうのは初めてだよ。」
「怪我をしたことが無いの?」
「いや、手当てが必要な怪我をしたことが無い。このくらいの怪我は偶にある。」

包帯を巻き終わると、本を返しに来ただけだからと言って仕事部屋に戻る。本を本棚に戻していると、後ろから抱き締められた。

「こんなことをされると、手放すのが惜しくなる。」
「ブラッド、私ね、貴方を受け入れるのは難しいの。何を考えてるのか解らないし、それに、貴方にとって私は一番じゃないもの。」

ブラッドは酷く意外そうな顔をする。

「君は、何を言ってるんだ。私の中で、君はいつでも特別扱いなんだが?」
「そんなこと無いでしょ? それは思い込みなだけよ。私なんか特別じゃないわ。」

ブラッドは小さく溜息を吐く。このまま力尽くで解らせてやろうかと考えないでもないが、それで彼女が今すぐ帰るという選択を取る可能性もある。せっかくの玩具を手放す気は更々無い。
腕の力を抜きながら、面倒な女だと思う。だが側に置けば退屈しないし面白い存在だ。こんな風に振り回されてみるのも案外悪くないと楽しむ自分が居る。彼女につけた紐を長くして行動範囲を広げてやれば、もっと面白くなるかもしれない。
彼女を見ながら一人そんなことに思いを巡らせニヤニヤしていると、

「ちょっと! 人のこと見てニヤニヤしないでよ。気持ち悪い。」

と怒られた。


アリスは前回の夕方の時間帯に城に向かい、まだ戻って来ていない。エリオットはその事に甚く不満な様子だ。夜のお茶会でポロリと本音が漏れる。

「ブラッド、人がいいにも程があるぜ。アリスを自由にして良かったのかよ。」

「エリオット、彼女は自由になどなって居ないじゃないか。この世界に囚われて、望まぬゲームを強いられているだろう。」
「そうか?」

エリオットは、よくわからねぇと首を傾げている。
ブラッドはアリスの背中を押した。それも、彼女の意思を尊重するという善人面をして、元の世界へ帰りたいと願う彼女の口癖とは逆に向かう道へ押し出したのだ。
小瓶に溜まる液体という、小賢しい小道具によって目隠しをされた彼女は、液体が満ちる頃には帰ることを望まなくなっているかもしれない。しかし、それこそが自分の望む結果。彼女がこの世界に居る限り、ゲームは終わらない。チャンスなど幾らでも作ればいい。

「お嬢さんは、この帽子屋の客人だ。必ず此処に帰ってくる。その時は一緒にお茶を飲みながら楽しい話が聞けそうじゃないか。ふふ・・」

ブラッドは上機嫌で紅茶の入ったカップに口をつけた。


end

‡ あとがき っぽいもの・・(初っ!)2012.07.24

ブラッド先生の超大人の男って所を書きたかったんですが、表現が追いついているかどうか自信はありませぬ。恋愛経験の少ないアリスが、そう簡単にブラッドという男を理解できるとも思えなくて、あえてのペーター寄りエンドです。決してアリスを諦めたわけじゃなく、掌で遊ばせる感じで、いざとなればどんなことがあっても捕まえてしまうんでしょう、きっと。
恋愛ではど素人のペーターも、お仕事は出来る子の設定です。じゃないと、ブラッド先生と互角になりませんからね~。