古書屋敷殺人事件
「さて、お使いの内容だが、これをこの家まで持って行ってほしい。」
そういって先生は私の手に握られているかび臭い古本を指さした。
「お使いって…こんな汚い物、どこに持っていくっていうんですか?」
「ちょと付き合いのある収集家のところだ。山本太郎という人だ。本が好きなら名前くらい聞いたことがあるだろ?」
「ええ、まぁ」
山本太郎。日本優秀の書籍収集家だ。古書収集の路ではちょっとした有名人だ。私費でミュージアムを経営するほど。名家だが、貴重書のコレクションで財産のほぼすべてを費やしてしまったと聞く。さらにここ最近の不況で都心に所有する不動産価値が下がり、破産寸前とのうわさがささやかれている。コレクションへの執念は相当のもので、性格は頑固者でかなり難しいと聞く。
「山本氏は本に関してかなりうるさい人と聞きましたが。こんな物持ち込んで大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。これを譲ってくれと連絡してて来たのは氏の方からなんだ。受け取ってくれるはずだよ。君がヘマさえしなければね。」
あ、この人私が失敗すると思ってる!プードルダッシュに比べてこのお使いは簡単すぎる。だが、性格は曲がっているけれど、書物に対する愛情は人一倍な人だ。下手なまがい物を人に渡したりといったでたらめなことをすることはないだろう。先生が本に問題はないと言うのだからそれはたぶん本当だ。何か裏がありそうな気もするが、本自体に問題はないとなると、何が問題なのか。全く、この人は何を考えているのかよくわからない。不審そうな表情をみて先生はうれしそうだ。そのようにして、会話に一区切りがついた後、先生はひとこと付け加えた。
『貴重本だから丁重に扱うように』
貴重本?とにかく何か価値のある本なのだろう。取りあえず、キズがつかないように茶封
筒のままカバンに入れて持って行くくらいのことはしよう。