ヨコハマ大戦
前編 「奇襲」
「う、うわー! ロボットが人を殺したー!
たっ助けてくれえ!」
「ちっ違う!これは!」
不幸な事件であった。
この事件に端を発した、ロボットが人間に敵対するという話は、瞬く間に世の中に広がって行った。
ロボットという存在に脅威を感じた人間は、
民間で自警団を組織し、ロボット狩りを開始した。
そして各地でロボットたちが拘束され、または殺されていった。
そしてかながわの国にも危機は迫っていた。
「じゃあ、アルファさんとココネさんは荷物を
持って私の家に来てね」
「はい」
「それじゃわしは、武器になりそうなものを探して行きますわ」
アルファとココネは女性型のロボットである。
近頃ロボット狩りが横行しているので、医者の子海石先生の家へ、近所のおじさんと避難するところであった。
アルファたちが用意をしていると、いきなりドアが開いた。
「アルファ! 無事か!?」
「ナイ! どうしてここへ!?」
知り合いの男性型ロボットのナイが浜松から飛んできた。
「ラジオでニュースを聞いて、いろいろ武器をかき集めてきた」
「タカヒロたちは大丈夫なの!?」
「西はロボットへの依存度が高いため、今のところ
戦いは起きていない。あの家族は全員無事だ」
「あの、ナイさん。丸子さんがどうしてるかご存じないですか?」
「マルコは一旦海に出て、それから茨城の国に
向かうような話を聞いたけど、その後は音信が
途絶えてる」
「そう…ですか…」
ココネは自分と同じ型式の女性型ロボット丸子マルコの身を心配した。
そのとき子海石先生の診療所の方から、爆発音が聞こえた。
みんなが外に飛び出す。
そこには赤々と燃え上がる診療所があった。
「わ、私先生を探してくる!」
「あの屋敷の周りにはおそらく自警団のやつらが隠れている。
今行ってもやられに行くだけだ」
「私は無事よ」
ドアを開けて子海石先生が入ってきた。
「それより診療所と周りの自警団を攻撃できる?」
「このロケットランチャーならできると思います」
「それじゃお願い。私の研究成果をやつらに渡す義理はないわ」
ナイのロケットランチャーにより、屋敷は破壊され自衛団たちも沈黙したようだった。
「これでしばらくは大丈夫、よね?」
しかしそのアルファの言葉の続きはなかった。
アルファたちは突然、銃撃を受けたのである。
アルファとココネは軽傷であったが、ナイは両腕を打ち抜かれていた。
「残念だったな。俺たちははどこにでも現れるぜ」
「まて。わしとこの先生は人間だ。わしはどうなってもいい。この先生だけは助けてくれ」
「そうもいかんのよ。あんたらロボットに味方した人間として裁判で重い罪になるぜえ」
「そ、そんな! この娘たちが何をしたっていうの?」
「そいつぁお上に聞いてくれ。おれたちゃ単に仕事をしてるだけだ」
「じゃあその人はどこにいるの!?」
「あーうるせえジジババだ。おい電気弾持ってねえか?」
「いえ実弾使用と聞いておりましたので、電気弾は持ってきておりません」
「ならしかたねえな。おい、俺たちゃ人間なんで間違いを起こす。もしかしたら目の前の人間をロボットと間違えて撃っちまうかもしれない。そうだな」
「は、その通りであります!」
「そんじゃよう。早く間違えてやっちまってくれ」
「自分がでありますか?………了解しました…」
アルファたちが助けに入る間もなく、2人の体には
鉛玉が撃ち込まれていった。
「先生! おじさん!」
「なぜ! なぜこんなことをするの!?」
「さっきも言ったろ。仕事なんだよ。特に今回はA7M2、お前をつれてくるようにという命令だからな」
「な、なんですって!」
「なんでアルファさんを」
「今ならやつらの注意がアルファに向いてる。この間にミサイルをやつらに命中させられれば…俺の手よ、もうちょっとだけでいい。動いてくれ」
「よ、よし あとはトリガーを引けば発射……」
ドム!ドム!
「おっと、ここで何をしてるんだ? 不意うちってのは卑怯じゃないか? いや俺も不意うちになるのかってもう聞こえてないか」
「ナイ!」
「ナイさん!」
「アルファさん、私もうがまんできません。
どうせここで死ぬのなら、わずかでも道連れにしたいです」
「ココネ…2人でできる限りやりましょう。さあ、行くわよ!」
「はい……」
パパン! ―ドサ!
振り返るとそこには、床に倒れ赤く染まったココネがいた。
「…ココ…ネ…?」
「アルファ…さん。もう、やられ、ちゃいま…した。私って、や、やっぱりダメ…ですね。お願い、です。アルファさんだけでも…逃げてください…私、アルファさんと…出会えて……すごく幸せ、でし…た」
「ココネ?……ココネー!」
『わたしはあなたたちをゆるさない』
「おっとさっき言い忘れたけどな、お前をつれて来いって命令の前に、"生死を問わず"てのがついてんだわ。なんでもお前のボディの中にはレアなパーツが入ってるみたいでな、そいつを傷つけなければ何でもアリってことらしいぜ」
『そんなことわたしには関係ないわ』
「やっぱり力づくかよ。めんどくせえなあ。おい、おめえらで片してこい。くれぐれも言っとくが胸は撃つなよ」
「待ってください! 周辺の不明なエネルギー波のレベルが、急激に上昇しています! 今測定限界を超えました!」
「測定限界オーバーのエネルギー波ァ? そんなもんがいったいどこから… !、A7M2! お前か!」
アルファの体が青く光っている。
『これだけのエネルギーならあなたたちを倒せるはず』
「おい、こいつはやべえ! 逃げろ!」
「例のパーツはよろしいのですか!?」
「いいんだよ! 死んじまったら何も出来ねえんだよ!」
『あなたは逃がさない』
「くそ、体が動かねえ。ち、ちきしょう…」
アルファの体の光が消えたときには、既に自警団は全滅していた。
アルファはココネの手を握り、隣に横たわっていた。
「ココネ、ごめんね。さっきのでエネルギーを
使い果たして動けなくなっちゃった。私もココネに会えて幸せだったよ。今度生まれてくる時は、人間同士で生まれてこようね」
アルファの頭の中に楽しかった思い出が流れ、アルファはすこし微笑んだ。
そしてゆっくりとアルファに静寂が訪れた