こらぼでほすと 厳命4
カタロンとの接触を終えると、ロックオンは特区へと移動した。すでに、ニールは再生槽から出されて、本宅で静養していると報告は貰っている。ちょっと顔だけは見ておかないと、ロックオンも不安だ。
特区の空港には、出迎えはなかった。いつ来訪するかを知らせていなかったからだ。とりあえず、寺へ顔を出せば、本宅へ移動できるだろうと、そちらに向かう。AEUは、すっかり秋の気配だったが、特区も涼しい。四季のある地域だから、街路樹も紅葉している。それらを眺めつつ、タクシーに揺られて、寺へ辿り着いた。
寺はオールセルフサービスだから、勝手に玄関を上がる。居間に顔を出したら、義兄と義兄の連れ子が、ぎょっとした顔をしたまま固まった。
「あれ? ご無沙汰してます? お義兄さん、悟空。」
ものすごい驚いた顔をするので、ロックオンが声をかけたら、どちらもがっくりと肩が落ちた。そして、ぶへーと大きく息を吐き出した。
「なぁーんだ、ライルか。びっくりした。ママが脱走したのかと思った。」
「連絡なしで現れるんじゃねぇー。死んだかと思うだろうがっっ。」
そう、どっちも動けないはずのニールが舞い戻ってきたと驚いたのだ。坊主に至っては、死んだから亡霊になったのかと考えたらしい。
「さんぞー、それは酷くね? いくらなんでも、そうなる前に連絡が入るって。」
「わかるもんか。あいつはな、適当にフラフラして適当に心臓を止められるんだよ。死んだと気付かないで、戻ってきやがるに違いない。」
「それなら、刹那のとこへ飛んでいくよ。俺らのとこじゃないな。」
「いやいやいやいや、うちの兄さん、そんなに危険なのかよっっ? 」
どちらも死んだ前提で語っている。え? と、ロックオンは慌てて、悟空に確かめる。
「連絡はないから生きてるとは思うぜ、ライル。」
「はあ? 悟空、それ、本当なんだろうな? 」
「じゃあ、連絡してみる。」
悟空は携帯端末で、本宅のドクターを呼び出した。もちろん、生きている、という返事だ。それから、ライルを迎えに来てくれるように頼んでおいた。さすがに、タクシーで乗り付けられる場所ではない。悟空も、ニールの見舞いには本宅からクルマを手配してもらっている。外から入るには、それが一番簡単な方法だからだ。
「三十分くらいしたら迎えに来てくれるって。なあ、さんぞー、行かなくていいのか? 」
「俺はいい。おまえは行くのか? 」
「昨日、行ったから、俺もいいんだけど、ライル、一人でもいいか? 」
「おまえ、俺のこと、いくつだと思ってるんだ? れっきとした大人の男に付き添いしなくていい。」
「なら、勝手に行ってきて。」
坊主もサルも、見舞いには、あまり行かない。ダウンしたままのニールは、寝たり起きたりだし、歌姫様が、この間までつききっきりで看病していたので、出る幕がなかった。先日、とうとう、歌姫様もサボれない予定があって、それに出発したから、悟空は顔を出したが、リジェネがいるから、それほど寂しい思いはしていない。しばらくは帰れそうにない、と、ママが謝るので、ちょっと寂しくなった。わかっちゃいるが、それでも家に、毎日居た人がいなくなるのは、悟空にしたって寂しく感じる。帰る時は、一緒に帰れないのが、強烈に寂しかった。それで、あまり行きたくないのだ。
歌姫様は、仕事で出かけたが、もう一人の五月蝿いのは健在だ。さあ、クスリだ、昼寝だ、と、ニールの世話を焼いている。
「甲斐甲斐しいねぇ、娘さん。」
見舞いに訪れたトダカとアマギが呆れるほどに、べったりしている。
「そりゃ、それしかやることないんだから。リジェネ、たまにはトダカさんとこへ遊びに行けばどうだ? 退屈なんだろ? 」
「・・・ヤダッッ、ラクスに後を頼まれたのは僕だよ。」
くれぐれも目を離さないように、と、歌姫様はリジェネにも厳命していった。実際の看護は、看護士がやってくれるが、細かな雑用はリジェネがやっている。ヴェーダとのリンクを外しているから、ティエリアとも連絡が取れないので、本当にできることは、ニールの看護だけだというのも、世話焼き倒しの理由だ。空いた時間は、アニメや特撮を片っ端から鑑賞して、ストックするべきタイトルをメモしている。
そこへ、ドクターが顔を出した。午後からは治療はないはずなのに、何事だ? と、ニールも起き上がる。
「ニールくん、ロックオンくんが来るんだ。それを伝えに来ただけだ。」
バイタルサインは安定している、と、付け足してドクターも苦笑しつつ、そう答える。再生槽から出たばかりだから、どこも健常な状態だ。ただ、このまま安定しているかがわからない。少し寺に帰して欲しい、と、ニールからは頼まれているが、それも決断しにくい状態だ。
「そういや、秋に降りて来るとか言ってたな。」
「今、こちらに向かっているはずだ。滞在は、この部屋でいいか? 」
「いいんじゃないですか。というより、あいつは見舞いに来たら、すぐに帰ると思いますよ、ドクター。」
ニールにしてみれば、ライルはダウンした自分の見舞いに来るだけだろうから、すぐに退散するだろうと考えている。別に、ここに居座っても退屈だろうし、リフレッシュ休暇なら、のんびりするなりして休暇を楽しんだほうがいいからだ。
「すぐには帰らないんじゃないかい? 娘さん。」
それはないだろう、と、トダカが口を挟む。ただの低気圧によるダウンというなら、そうなるかもしれないが、しばらくは絶対安静な状態の兄を見舞うのだ。見舞いでも、数日は滞在するのが普通だ。
「でも、俺の顔なんて見たくもないと思いますよ? トダカさん。」
いろいろとやらかしていた兄である。それに、組織からも外れている。これといって、ライルの役に立つことはない。そう、ニールは思っている。
「男兄弟だから、あっさりしているというのはわかるけどね。・・・顔だけ出して帰るっていうなら、私は娘さんの父親としてロックオンくんに説教するよ? 」
「そんな、大袈裟な。・・・あいつはあいつで地上に居るうちにやりたいこともあるだろうし、ここに居たって退屈します。いいんですよ、うちはあっさりした関係なんです。」
兄弟なんて、そんなものだろう、と、ニールは言う。トダカは呆れたように笑っているが、アマギは、そんなニールの頭を軽くコツンと拳骨する。
「本当に素直じゃないな? きみは。・・・そうじゃないだろ? 滅多に逢えないんだから、ゆっくりと顔を合わせておけばいいんだ。」
ライルが組織に入って、再始動を乗り切って顔を合わせてから、兄弟二人っきりで過ごしたことはない。ニールには、年少組やマイスターたちがひっついているから、常時、誰かが傍に居る。二人で話をしたのは、一度限りだし、短い時間だった。せっかく、二人になれるのだから、少し兄弟で過ごせばいい、と、アマギが忠告する。長いこと接触も絶っていたのだ。積もる話はあるだろう。
「でも・・・ほら・・・いろいろと俺は話せないこともあるし・・・それに、ライルは現役マイスターなんだから・・・リフレッシュさせるほうが・・・」
「言い訳はするな。逢いたいんだろ? 」
「・・・はい・・・・」
「なら、素直にロックオンくんにも、そう言って滞在してもらえ。」
特区の空港には、出迎えはなかった。いつ来訪するかを知らせていなかったからだ。とりあえず、寺へ顔を出せば、本宅へ移動できるだろうと、そちらに向かう。AEUは、すっかり秋の気配だったが、特区も涼しい。四季のある地域だから、街路樹も紅葉している。それらを眺めつつ、タクシーに揺られて、寺へ辿り着いた。
寺はオールセルフサービスだから、勝手に玄関を上がる。居間に顔を出したら、義兄と義兄の連れ子が、ぎょっとした顔をしたまま固まった。
「あれ? ご無沙汰してます? お義兄さん、悟空。」
ものすごい驚いた顔をするので、ロックオンが声をかけたら、どちらもがっくりと肩が落ちた。そして、ぶへーと大きく息を吐き出した。
「なぁーんだ、ライルか。びっくりした。ママが脱走したのかと思った。」
「連絡なしで現れるんじゃねぇー。死んだかと思うだろうがっっ。」
そう、どっちも動けないはずのニールが舞い戻ってきたと驚いたのだ。坊主に至っては、死んだから亡霊になったのかと考えたらしい。
「さんぞー、それは酷くね? いくらなんでも、そうなる前に連絡が入るって。」
「わかるもんか。あいつはな、適当にフラフラして適当に心臓を止められるんだよ。死んだと気付かないで、戻ってきやがるに違いない。」
「それなら、刹那のとこへ飛んでいくよ。俺らのとこじゃないな。」
「いやいやいやいや、うちの兄さん、そんなに危険なのかよっっ? 」
どちらも死んだ前提で語っている。え? と、ロックオンは慌てて、悟空に確かめる。
「連絡はないから生きてるとは思うぜ、ライル。」
「はあ? 悟空、それ、本当なんだろうな? 」
「じゃあ、連絡してみる。」
悟空は携帯端末で、本宅のドクターを呼び出した。もちろん、生きている、という返事だ。それから、ライルを迎えに来てくれるように頼んでおいた。さすがに、タクシーで乗り付けられる場所ではない。悟空も、ニールの見舞いには本宅からクルマを手配してもらっている。外から入るには、それが一番簡単な方法だからだ。
「三十分くらいしたら迎えに来てくれるって。なあ、さんぞー、行かなくていいのか? 」
「俺はいい。おまえは行くのか? 」
「昨日、行ったから、俺もいいんだけど、ライル、一人でもいいか? 」
「おまえ、俺のこと、いくつだと思ってるんだ? れっきとした大人の男に付き添いしなくていい。」
「なら、勝手に行ってきて。」
坊主もサルも、見舞いには、あまり行かない。ダウンしたままのニールは、寝たり起きたりだし、歌姫様が、この間までつききっきりで看病していたので、出る幕がなかった。先日、とうとう、歌姫様もサボれない予定があって、それに出発したから、悟空は顔を出したが、リジェネがいるから、それほど寂しい思いはしていない。しばらくは帰れそうにない、と、ママが謝るので、ちょっと寂しくなった。わかっちゃいるが、それでも家に、毎日居た人がいなくなるのは、悟空にしたって寂しく感じる。帰る時は、一緒に帰れないのが、強烈に寂しかった。それで、あまり行きたくないのだ。
歌姫様は、仕事で出かけたが、もう一人の五月蝿いのは健在だ。さあ、クスリだ、昼寝だ、と、ニールの世話を焼いている。
「甲斐甲斐しいねぇ、娘さん。」
見舞いに訪れたトダカとアマギが呆れるほどに、べったりしている。
「そりゃ、それしかやることないんだから。リジェネ、たまにはトダカさんとこへ遊びに行けばどうだ? 退屈なんだろ? 」
「・・・ヤダッッ、ラクスに後を頼まれたのは僕だよ。」
くれぐれも目を離さないように、と、歌姫様はリジェネにも厳命していった。実際の看護は、看護士がやってくれるが、細かな雑用はリジェネがやっている。ヴェーダとのリンクを外しているから、ティエリアとも連絡が取れないので、本当にできることは、ニールの看護だけだというのも、世話焼き倒しの理由だ。空いた時間は、アニメや特撮を片っ端から鑑賞して、ストックするべきタイトルをメモしている。
そこへ、ドクターが顔を出した。午後からは治療はないはずなのに、何事だ? と、ニールも起き上がる。
「ニールくん、ロックオンくんが来るんだ。それを伝えに来ただけだ。」
バイタルサインは安定している、と、付け足してドクターも苦笑しつつ、そう答える。再生槽から出たばかりだから、どこも健常な状態だ。ただ、このまま安定しているかがわからない。少し寺に帰して欲しい、と、ニールからは頼まれているが、それも決断しにくい状態だ。
「そういや、秋に降りて来るとか言ってたな。」
「今、こちらに向かっているはずだ。滞在は、この部屋でいいか? 」
「いいんじゃないですか。というより、あいつは見舞いに来たら、すぐに帰ると思いますよ、ドクター。」
ニールにしてみれば、ライルはダウンした自分の見舞いに来るだけだろうから、すぐに退散するだろうと考えている。別に、ここに居座っても退屈だろうし、リフレッシュ休暇なら、のんびりするなりして休暇を楽しんだほうがいいからだ。
「すぐには帰らないんじゃないかい? 娘さん。」
それはないだろう、と、トダカが口を挟む。ただの低気圧によるダウンというなら、そうなるかもしれないが、しばらくは絶対安静な状態の兄を見舞うのだ。見舞いでも、数日は滞在するのが普通だ。
「でも、俺の顔なんて見たくもないと思いますよ? トダカさん。」
いろいろとやらかしていた兄である。それに、組織からも外れている。これといって、ライルの役に立つことはない。そう、ニールは思っている。
「男兄弟だから、あっさりしているというのはわかるけどね。・・・顔だけ出して帰るっていうなら、私は娘さんの父親としてロックオンくんに説教するよ? 」
「そんな、大袈裟な。・・・あいつはあいつで地上に居るうちにやりたいこともあるだろうし、ここに居たって退屈します。いいんですよ、うちはあっさりした関係なんです。」
兄弟なんて、そんなものだろう、と、ニールは言う。トダカは呆れたように笑っているが、アマギは、そんなニールの頭を軽くコツンと拳骨する。
「本当に素直じゃないな? きみは。・・・そうじゃないだろ? 滅多に逢えないんだから、ゆっくりと顔を合わせておけばいいんだ。」
ライルが組織に入って、再始動を乗り切って顔を合わせてから、兄弟二人っきりで過ごしたことはない。ニールには、年少組やマイスターたちがひっついているから、常時、誰かが傍に居る。二人で話をしたのは、一度限りだし、短い時間だった。せっかく、二人になれるのだから、少し兄弟で過ごせばいい、と、アマギが忠告する。長いこと接触も絶っていたのだ。積もる話はあるだろう。
「でも・・・ほら・・・いろいろと俺は話せないこともあるし・・・それに、ライルは現役マイスターなんだから・・・リフレッシュさせるほうが・・・」
「言い訳はするな。逢いたいんだろ? 」
「・・・はい・・・・」
「なら、素直にロックオンくんにも、そう言って滞在してもらえ。」
作品名:こらぼでほすと 厳命4 作家名:篠義