こらぼでほすと 厳命4
と、アマギに叱られても、ニールは困った顔だ。今更、何を話していいのかわからない。ライルの経歴は、『吉祥富貴』で調べてもらって知っている。一流の大学へ入り、一流の商社に勤務していたと知って、よかった、と、ニールも安堵していた。まあ、何がどうなってか、同じようなところに現在は落着いているのだが。本当は、どうしてカタロンなんかに入ったのか聞きたいとは思っている。だが、「じゃあ、兄さんは、どうなんだ? 」 と、尋ねられると言葉に窮するのは目に見えている。だから、何も聞かないで流していた。
「リジェネくん、うちに遊びに来ないか? 」
アマギとニールのやりとりを聞いてトダカが、リジェネに声をかける。要は、リジェネがいるから寂しくない、と思っているのだ。それなら、そのリジェネをニールから引き剥がせばいい。
「え、でも・・・」
「うちの娘さんもロックオンくんと話したいことがあるんだ。家族の話だったり子供の頃の話だったりね。そういう話になったら、きみはついていけないだろ? 」
「・・うん・・・」
「だから、ロックオンくんが居る間だけ、うちに帰ってくればどうだい? うちがイヤなら、またホテルに滞在してもいい。その怪我の消毒ぐらいなら、私でもできるから。・・・・そうそう、私が、いいところに連れて行ってあげるよ。アキバといって、きみのお気に入りの特撮やアニメのグッズが売っている場所があるんだ。」
「行くっっ。ほんと? トダカさん。」
「ああ、本当だ。・・・アマギ、うちの誰だったか、詳しいのがいたな? 」
トダカーズラブの会員に、オタクと呼ばれる人種も存在する。なんせ、自力作成で、トダカのフィギュアを作った男だ。ものすごくリアルで、トダカーズラブの面々が、そのフィギュアを彼に譲れ、と、大騒ぎになったことがある。トダカに贈呈ということで、その時は収まったが、実は、こっそりとトダカフィギュアを作成していたりする。
「あれの休みに案内させましょう。」
「ほら、案内人も確保できた。」
「いいの? ラクスから頼まれてるのに。」
「きみの代わりにロックオンくんがやってくれる。だから大丈夫。」
それなら、トダカさんとこへ帰る、と、リジェネも笑顔で頷く。じゃあ、用意しておいで、と、トダカが部屋から急きたてた。はい? と、ニールは驚くが、そちらにはアマギが説明する。
「彼は、イノベイドだ。ロックオンくんにしたら、きみの傍にイノベイドが居るっていうのは、心中穏やかとはいかないだろ? 彼は、そのイノベイドに再始動の折に苦しめられたんだから。」
ロックオンの恋人はアニューという名のイノベイドだった。それが、二個一の相手に操られて、ロックオンを裏切った。その過去があるから、リジェネの姿は見せないほうがいい。そこまでの詳しいことは、アマギも話さない。ただ、再始動の時の敵だった相手という感じでぼやかした。
「それ、リジェネも関わっていることなんですか? 」
「もちろんだ。」
「たぶん、ロックオンくんは、リジェネくんの存在を知らないだろう。ここで、事を荒立てるのはよくない。そうだろ? 娘さん。」
ティエリアの二個一の相手というのは、ロックオンも言葉では説明されているだろう。だが、実際に顔を合わせるのはマズイ。こんなところで激昂されたら、ニールの精神状態も悪化する。それもあって、トダカはリジェネを一時的に離す判断をした。
「・・・わかりました。リジェネをお願いします。えーっと、あいつ、何にもできませんよ? 」
「はははは・・・わかってるよ。適当に、うちのものに顔を出させるさ。」
トダカは長いこと、ヤモメ暮らしだから、家事も一通りできるし、リジェネ一人が増えたぐらいで困ることはない。それに、トダカーズラブの面々が入れ替わり立ち代り現れるので、そちらも手伝ってくれる。トダカ家には、機密になりそうなものは皆無だから、リジェネに探られても何もない。
「人見知りなんで、あまり大勢と一度には無理ですよ。」
「わかってるよ。しばらく、私も一緒に暮らしたんだから、そこいらは、ちゃんとするから。」
「それと、あいつ、匂いのキツイものとかネバネバはダメです。あと、左手が使えないから、風呂で髪の毛を洗ってやらないと。」
「娘さん、そんなことはわかってる。さすがに、きみみたいに痒いところに手が届くような世話は無理だ。髪の毛は近くの美容室に洗髪に通わせる。食事は、適当に作るか出来合いの惣菜にするつもりだから。」
「ニール、私もトダカさんも、ヤモメ暮らしの人間だ。そこいらは大丈夫だ。」
事細かに、リジェネの取り扱いを説明するニールに、トダカもアマギも苦笑する。懐に取り込んだ生き物には、懇切丁寧に世話をする。それが、すっかり習い性になっていて、怪我をしているリジェネとなると、余計に心配になるらしい。そして、それだけではないことも、トダカたちは気付いている。
「そんなに寂しいかい? 娘さん。」
「・・あ・・・いや・・・」
「すぐに、ロックオンくんが来る。たまには、実の弟に甘えればいい。」
「・・・それは・・・」
ひとりになるのが寂しいから、ついついリジェネを引き止めている。話を長引かせているのも、そのためだ。
「私たちも、ロックオンくんが滞在する間は遠慮する。二人だけなんて、十数年ぶりなんだろ? 少し話をしなさい。話したくないことはしなければいい。ロックオンくんだって、そう思っているんじゃないのかな? 」
「そうでしょうか? 」
「そうだと思うよ。きみたち、時間が空いているから他人行儀になってるんだ。双子の兄弟なのに、それは悲しいことだと思うんで、きみの父親としては背中を押してしまうのさ。」
すでに、リジェネは本宅のスタッフに荷物を用意してもらって戻って来ている。それを目にして、ニールも頷いた。トダカの言うことは正しい。臆病になっている自分の背中を押して、ライルとの間に開いてしまった空間を縮めようというのだ。
「そんなに構えちゃダメだ、ニール。気楽に、いつも通りでいいから。」
アマギがニールの肩を叩いて笑う。傍目には気さくで人見知りのないニールだが、なぜか、実弟には気を遣う。いろいろと思うことがあるから、そうなるのだとは理解しているが、それこそがいらぬ気遣いだ。双子なのだから、誰よりも互いを理解できる存在なのだから。
ライルのほうは、本宅からの迎えのクルマに乗り込んで移動していた。とりあえず、様子を伺って、大丈夫そうなら二、三日、滞在すればいいだろうぐらいのことを考えていた。細胞異常も再生槽で治療されているから、それほど心配ではない。二週間の休暇なので、実兄が元気そうなら、それほど顔を合わせていてもやることがないと思っていたからだ。
だというのに、本宅のエントランスで待っていたトダカから意外なことを頼まれた。
「少し、ニールに付き合ってやってくれないか? ロックオンくん。」
「え? 」
「どうにも寂しがり屋でね。きみが傍に居てくれれば、落着くと思うんだ。」
「寂しがり屋? でも、兄さんの傍には、小さいのがひっついてますよね? 」
作品名:こらぼでほすと 厳命4 作家名:篠義