こらぼでほすと 厳命5
ニールの許に、ロックオンが滞在することになって、トダカがリジェネを引き取った。しばらくは、双子で過ごさせてやりたいから、見舞いには行かないように、と、いうお達しが各人にメールで廻ってきた。それはそうだろう、と、沙・猪家夫夫も寺には顔出ししているが、本宅にはご無沙汰の状態だ。
「そうでした。じゃあ、鬼畜生臭坊主に、この酒を届けて仔細を話しておきましょう。」
この酒は、基本的にトダカに渡すものだ。二、三本ばかりちょろまかすぐらいで、トダカは怒らないし、むしろ、全部そちらで処分してくれても構わないと言われている。さすがに、それは礼儀を欠くから、適当に頂くことになっている。トダカも、大量にあっても消化できないから、店に出したりトダカーズラブの面々に配ったりしているらしい。
急場凌ぎの策はできた。これなら、寺に戻ってもダウンすることもないだろう、と、八戒も胸を撫で下ろす。ニールがダウンしてから悟空が、ものすごい顔をしたのが、気になって無理を承知で、天蓬に縋ったのだが、結果は上々の首尾だった。
実のところ、八戒も悟空には甘いのだ。それを知っている天蓬も、その悟空の様子をメールで送りつけた悟浄も、同様に悟空バカではあるらしい。数年、同居して、すっかり悟空にとって、ニールはおかんだ。そのおかんが危ないと言われると、悟空でも落ち込むらしい。
「しかし、よくよく考えたら、ニールは最強ですね。斎天大聖とスーパーコーディネーターとイノベーターのおかんなんですから。」
「そうだな。とうとう、最強の地位を譲ることになっちまったな。」
今までは、八戒が『吉祥富貴』最強のおかんだったのだが、刹那がイノベーターに変化して地位が変わった。マイスター組が、再始動の後で、いろいろと付加価値が増したからだ。さらに言うなら、ヴェーダを掌握したティエリアや歌姫様も、それについてくる豪華っぷりだ。これでニールに危害が加えられる事態が発生したら、敵は木っ端微塵にされることだろう。宇宙から神仙界から地上から、どこからもニールに対して救いの手が差し伸べられる。
「まあ、そりゃそうでしょう。あれだけ心血注いでいれば、誰だって懐きますよ。リジェネくんだって、即効で懐いたんですから。」
「で、あの坊主だぜ? 」
ニールの最大の功績は鬼畜坊主を懐柔したことだ。あれを亭主にしたから、坊主の上司が手を貸してくれる結果となった。そちらの援助があればこそ、ニールは生きているといえる。普通は、あんなマイノリティーな生き物の完璧な世話は面倒でできないものだからだ。
「僕には、そこまではできません。なんせ、嫉妬深い亭主がいて、他に心を傾けたら折檻するような鬼畜です。」
「折檻? どれのことをおっしゃってるんですか? 奥様。」
「僕が街で西洋人の集団にナンパされた時は、一晩抜いてくださいませんでしたよね? それから、たまたま道を尋ねてきたお嬢さんたちに嫉妬した時は、搾り取ってやるって、全裸死体状態に追い込まれました。・・それから・・」
「あーはいはい、ストップストップ。すいませんねぇー奥様。俺、八戒に関しては、たまに心の狭い男になるんです。でも、おまえも拗ねるよな? 」
「僕のは実害はないでしょう? 肉体的に何かすることはないんだから。」
「いや、三日間、無言とか、非常に俺としては辛いんです。それも誤解だったし? 」
「女物の香水をプンプンさせてれば、仕返しぐらいしてもいいと思うんですけどね? 悟浄。」
「ありゃ、知り合いと飲みに行って、そこで盛り上がっただけだ。・・・俺、それほど迂闊じゃないぜ? 浮気すんなら完璧に隠蔽する。てか、浮気する気が起きないけどな。」
仕事や用事があれば、女性とも親しくするが、そこまでだ。今のところ、欲求不満になりえないので、そういう欲が熾らない。抱き心地の良い女房が、毎日、傍に居るのだ。わざわざ、外でやりたいとは思わない。
「そうですか。まあ、僕も気付かない胡乱では、ありませんしね。」
「そうでしょうとも。浮気したら殺してくれていいからさ。」
「殺した後のケアは、どうしてくださるんです? 」
「うーん、幽霊だと下半身が問題だな。・・・貞操帯でもつけようか? 」
「殺した後で貞操帯をつけて、どうするんです。」
「いや、九割殺して貞操帯なら、再生可能だろ? 」
「再生するのは僕ですよね? いや、再生槽に叩き込んでしまえば、勝手に再生してくれるから、それでいいかな。」
「脳みそだけは潰さないでね? 八戒さん。もう一回、口説くのは大変だから。」
「くくくく・・・記憶喪失は、おいしいシチュエーションではあるんですよ? 悟浄。あなたに、あることないこと吹き込んで、僕の好みに調整できます。」
「・・・・俺のどこかに、ご不満が? 」
亭主に、そう尋ねられて、女房は吹き出す。不満は意外とないものだ。この性格の亭主だから、女房も気楽に暮らしていられる。過去の記憶がなければ、亭主は違う生き物にってしまうのだろう。そう思うと、記憶喪失は残念かもしれない。
「不満はないんですが、一時的に紳士的な悟浄とか、人見知りな悟浄とか、そういうのを見てみたいと思っただけです。」
「紳士的? 人見知り? そんな無いもんねだりされてもなあ。」
「そうですよね。僕も言ってて、有り得ないと思い直しました。これといって不満は無いのが不満かもしれません。」
「ありがとうございまぁーすぅ。」
夫夫ふたりして、くくくく・・・と、肩を震わせてキスをする。
現在、『吉祥富貴』は、キラたちが不在で休業中だ。時間だけはたっぷりとあるので、のんびりキスを仕掛けて遊ぶ暇はある。一応、表向きには改装のための休業ということになっているから、トダカと打ち合わせをして、内装も弄る予定をしている。
「東南アジアテイストなんて、どうですか? 」
ふと、改装の内容を思いついて亭主に尋ねたら、おいおいと呆れた顔になる。キスを楽しんでいる最中に考えることじゃねぇーだろ? というツッコミになって返って来る。
「バリ風の家具とかバティックを飾るとか、そういう感じだと高級感はあると思うんです。」
「まだ、言うか? 集中してくれませんかね? 奥様。」
「ずっと欧風だったんで、違う地域というのがいいかと。」
「そんなの好きにしろよ。俺は、なんでもいい。」
「あ、でも、東南アジア風にすると南国っぽくなって冬には向きませんね。そうなると春から夏ぐらいまでの期間限定ということにして、秋からは北欧風もいいかもしれません。あちらの家具も綺麗だし。」
「・・・・わかった。 好きなだけ考えろ。俺は俺で、勝手にやるから。」
女房が、ちっとも集中してくれないので、亭主は痺れが切れて女房の手を近くにあったタオルで軽く縛る。
「ほら、鬼畜でしょ? 」
「これはプレイの一環。鬼畜なら、ベルトを使う。」
なるほど、と、納得して女房も、また改装のことを考えて口にする。そのうち、考えられなくなって亭主のいいようにされるのは折り込み済みのことだ。
作品名:こらぼでほすと 厳命5 作家名:篠義