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ドラゴンクエスト・アナザー

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第八話 「小さな友達」


 マーベル城の城下街にププルという男の子がいた。
彼の家では両親が宿屋を営んでいる。
近くには同世代の子供がいなかったため、ププルはいつも一人で遊んでいた。

 ある日のこと、どこから紛れ込んだのか、ププルは街でスライムを見かけた。
だがどう見ても危険なものには見えない。
スライムは何かを訴えるかのように、ププルの前で跳ねている。
ププルは試しに持っていたパンのかけらをあげてみた。
するとスライムはそれを食べた、というか体内に取り込んだ。
スライムは喜んだのか、ププルの肩や頭に飛び乗って跳ねている。

 ププルはしばらくスライムと遊んだ後、家に帰るためにスライムと別れたがついてきてしまう。
どうしてもついてくるので、彼は家に連れていくことにした。
両親にわからないように懐に入れ、自分の部屋に入りスライムを出してやると、部屋の中を飛び跳ねる。
ププルは名前をつけてやろうと思い、しばらく考えた。
「そうだトンヌラというのはどうかな」
ププルはつい声に出してしまったが、スライムは反応しなかった。
「気に入らないのかな。それじゃゲレゲレは?」
しかし今度も黙っている。
「うーん、うーん。じゃあサスケ!」
「ピキー!」
どうやら返事のようである。
「よし今日からおまえの名前はサスケだ!」

 そしてププルは毎日サスケと遊ぶようになった。
だがいくらププルになついてるとはいえ、他の人から見ればサスケは単なる魔物である。
ププルはサスケのことを他の人に気づかれないように注意して遊んでいたが、それにもかかわらず見つかってしまった。

「それ君のペット?」
後ろから声をかけられたププルはびっくりして振り向き、しばらくして答えた。
「ううん、友達のサスケだよ」
「お友達なのね。ゴメンゴメン」
「お姉ちゃん、お願い。サスケのことは誰にも言わないで」
「大丈夫。誰にも言わないから」
「ありがとう。僕の名前はププルっていうんだ」
「私はセーラ。よろしくね」

 セーラはときどきププルのところに来て一緒に遊んだ。
「かわいいね」
「うん、それにサスケはとっても賢いんだよ。ほら、見ててね」
ププルがパンのかけらを空中に放り投げると、サスケは飛び上がりそれを食べる。
「本当だ。すごいのね」
「うん、これでしゃべれるようになればなあ」
「もっと大きくなればきっとしゃべるようになるわよ」
「早くサスケと話をしたいなぁ」

 そんなある日、ププルはいつもの場所でサスケと遊んでいた。
だが今日は朝から何となく体調が悪い。
「セーラお姉ちゃん今日は来ないのかな」
ププルはしばらく待っていたが、セーラが来る様子がないので早めに帰ることにした。
しかし立ち上がったとたんめまいがして倒れてしまった。
サスケが顔の上に乗っても目を覚まさない。
どうやら気を失っているようである。
サスケは街を走りププルの家へ向かった。
途中サスケを見かけた人々は、スライムが街の中を走っているので驚いていた。

 ププルの家に着いたサスケはププルの父親のズボンの裾をくわえ引っ張った。
「な、なんだ? うわ! なんで魔物がここに!?」
「あわわ! た、助けておくれ!」
だがサスケはさらにズボンを引っ張る。
「お、おい、誰か呼んできてくれ!」
するとサスケは離れ、じっと二人を見ている。
「おまえさん、もしかしてこの魔物はあたしたちをどこかへ連れてこうとしてるんじゃないかい?」
「まさかププルが!」
するとサスケは走り出した。
ププルの両親も追いかけていく。

 ついたところにはププルが倒れてた。
驚いた二人はププルを家へ運び医者に見せた。
あやうく肺炎にかかるところであったらしい。
ププルの両親はサスケに感謝したが、街の人々の反応はあまりいいものではなかった。

 ププルが目覚めるとそこは自分のベッドの上であった。
サスケがうれしそうに飛び跳ねている。
「あれ、なんでここに?」
そこへ母親がやってきた。
「おや、起きたのかい。おまえが外で倒れていたのを、そのスライムが知らせに来てくれたんだよ」
「サスケ…… ありがとう」

 そのとき遠くから地響きが聞こえてきた。
音はだんだん近づいてきて、街の前で止まった。
街にボストロールが現れた。
「勇者を出せ。俺は勇者がここにいると聞いて倒しに来たのだ」
しかし街の人々は逃げまどうばかりである。
「俺の言うことがわからんのか。ならば勇者が出てくるまで街を破壊してやる」
ボストロールが手にした棍棒を振り下すと、家は簡単につぶれてしまった。
「どうした勇者! 早く出てこないと街が全滅してしまうぞ!」
ボストロールは次々と街の中を破壊していく。
「まだ出てこないとは見下げ果てたものだな。臆病者の勇者でおまえたちも無念であろう。俺を恨むなよ」
そう言うと棍棒をふりあげた。

「そこまでよ!」
そこにセーラが駆け付けた。
「やっと来たか。しかし遅かったな。街はもうあらかた壊してしまったぞ」
「街の人の平和を奪うとは……許せない!」
セーラはボストロールに切りかかった。
しかし固い体に阻まれ容易に倒せそうにない。
今度はボストロールがすさまじい力で殴りかかってきた。
セーラは天空の盾で受け流すがそれでも腕が痺れてくる。
そして痛恨の一撃を受け、セーラの体がふき飛んでしまった。

 ボストロールは再び棍棒を振り上げた。
そのときサスケがボストロールの顔面に張り付き視界を塞いだ。
いきなり目の前が真っ暗になり、ボストロールは棍棒を振り回している。
セーラは隙を見てボストロールの急所を刺し貫いた。
ボストロールを倒した。

 だが終わった後の街の人々の反応は冷たかった。
「あんたが勇者か。いるのならなんでもっと早く出てきてくれなかったんだ」
「そうよ。あたしの家を返してよ!」
「あんたがこの街に来なければ、あの魔物もここに来ることはなかった。あんたがいると魔物を呼び寄せる。早く街から出ていってくれ」
そして人々はセーラに石を投げ始めた。
そこへセーラをかばうようにププルが現れた。
石がププルの額に当たり血が流れ出すが、それでもひるまず人々に
話しかけた。
「違うよ。お姉ちゃんは悪くないよ。お姉ちゃんは僕らを助けてくれたんだ。悪いのは街を壊した魔物だよ!」
「なんだスライムを飼っている坊主か。まさかおまえのスライムが手引きしたんじゃないだろうな。こっちも迷惑なんだよ。早く捨てるかどうにかしてくれ」

「やめんか、ばかもの!」
騒ぎを聞きつけマーベル王がやってきた。
「まったくその子供の言う通りじゃ。わしらを救ってくれた勇者殿を悪者にするとはいったいどういうことじゃ。あまつさえ早く出ていけとはわしは情けないわ!」
「でも王様、もっと早く勇者様が出てきてくれれば街の被害は少なかったのです」
「勇者殿は今までわしの頼みで出かけていて、先ほど戻ってきたばかりなのじゃ。おまえたちはいつから人の事情を考えず、自分たちの都合だけで物事を考えるようになったのじゃ。そしてそのスライムでさえあの魔物に向かっていった。おまえたちはその間一体何をしていたのじゃ!」
街の人々は黙ってしまった。