ドラゴンクエスト・アナザー
第十五話 「熱気球」
一行はレムリア城の城下街に来ていた。
この街には空飛ぶ装置の研究をしているトムという男がいるらしい。
四人はその男を訪ねてみた。
トムはセーラたちを歓迎し、熱気球の説明をしてくれた。
「こう、ろうそくの火の上に紙の袋をかぶせるだろ。すると袋が上へ飛んでいくんだ。この原理を応用して気球を作ろうと思うんだけど、こいつには欠点があってね。紙や布は燃えやすいから危ないんだ。ああ、どこかに燃えなくて軽い布はないものか」
燃えない布と聞いたマリアは、水の羽衣を思い出した。
あの布地を使えば、気球が作れるのではないかと思ったのである。
しかし布地がどこで入手できるのかはわからなかった。
四人は気球製作を手伝うべく、調べてみることにした。
とりあえず織物の村ロマーナに行ってみる。
村の人に尋ねると、ドン・モハメがいない今水の羽衣はエルフの里でしか入手できないとのことであった。
しかし村の人も、エルフの里がどこにあるのかは知らなかった。
一行が出かけようとすると、村長が声をかけてきた。
「お主たち、エルフの里に行ったらこのエルフのルビーを返してきてもらえないだろうか。これは昔、人間とエルフのいざこざがあったときに、人間が持ってきてしまったのだ。エルフの宝はエルフに返すのが筋だと思う。お願いだ。頼まれてもらえないか」
セーラは快く引き受けた。
一行は以前妖精のリサに会った花畑に来ていた。
マリアが大声で彼女を呼んでみると、再びリサが現れた。
「何か御用でしょうか?」
「リサ、ああよかった。突然だけどあなたエルフの里の場所を知ってる?」
「ええ。知っていますが、ご案内しましょうか?」
「お願いするわ」
一行はリサにエルフの里まで連れて行ってもらった。
エルフの里は森の中にあった。
まずエルフの女王に会い、エルフのルビーを返す。
そして防具屋に行くと、確かに水の羽衣を売っている。
誰が織っているのか聞くと、エルフのアンという女性であるとのこと。
早速アンを探し出し布地を織ってくれるか聞いてみると、彼女は快諾してくれた。
ただし大量の雨露の糸が必要になる。
直ちに一行はアンの指示通り糸を取りに行った。
そして持ち帰った糸をアンに渡し、布地を頼む。
しばらく時間がかかるといい、アンは織り始めた。
里の中を見て回っていたマリアは、せっかくなので水の羽衣を買った。
そしてアレフはドラゴンの鎧と盾を入手した。
これで炎と吹雪に対する耐性ができた。
するとカイも水の羽衣を買おうとしている。
みんなは必死にやめさせようとしたが、カイの熱意に負けてしまった。
三日後、ようやく布地は完成した。
聞けばアンは来月結婚するのだという。
しかも相手は人間だそうである。
一行はアンに感謝と祝福の言葉を述べ、レムリアに戻りトムに布地を届けた。
「おお、ありがとう! これが水の羽衣の布地か。これさえあれば気球が完成するだろう。君たちすまないが、明日またここに来てもらえないか」
翌日トムのところに行くと気球がある。
感謝の印に第一号機をプレゼントしてくれるのだそうだ。
セーラはトムに聞いてみた。
「ろうそくはないんですね」
「ああ、実際にはろうそくじゃなく燃えるガスを使うんだ。それが一番軽いからね」
トムがガスを燃やした後、一行は乗り込んだ。
気球は徐々に空に舞い上がり、手を振るトムの姿がどんどん小さくなった。
セーラは熱気球を手に入れた。
これがあれば、今まで通れなかった岩山の上を飛び越えて行ける。
また一つ世界が広がったのであった。
四人はしばらく気球で空の旅を楽しんだ後、レムリアへ戻ってきた。
すると何があったのか城の中が騒がしい。
近くの兵士に聞いて見ると、メイ王女が何者かにさらわれたとのこと。
また別な者に聞くと、姫をさらったのは魔物で、東の森の方へ逃げて行ったという。
一行はメイ姫を助けに向かった。
そのころ誘拐犯の二人組は東の森の中にいた。
「へへっ、意外と簡単だったな」
「魔物からは前金をもらいやしたし、後はこのお姫さんを人質に城から金を出させれば大金持ちでやんすね」
「変化の杖で魔物に化けてたから、誰も俺たちがやったと思わねえ」
「さて残りの半金を渡しに魔物が来るはずでやんすが……」
話をしているとアークデーモンが降りてきた。
「おまえたちご苦労だったな」
「へへっ、それじゃ残りの分を」
「おまえたちにはこれをやろう。遠慮なく持っていけ」
そう言うとアークデーモンは炎を吐いた。
普通の人間である二人はひとたまりもなかった。
アークデーモンがメイ王女を抱え空へ飛び立とうとしたところを、セーラが切りかかりその翼を切り裂いた。
「き、きさま、俺の翼を!」
「なぜその二人を殺したの」
「用が済んだから消えてもらっただけだ」
「お姫様をさらってどうするつもり?」
「それはそのうちわかる」
「それはどういう……」
話してるうちに、城の方からドーンという大きな音が聞こえてきた。
見ると魔物たちが城を襲っている。
「ハッハッハッ、人間に王女を誘拐させたのは陽動だ。おまえたちにはもっと犯人を探し回ってもらうつもりだったのだがな。仕方がない。後の時間稼ぎは俺がやってやろう」
「みんな! お城に向かって!」
「おまえらの相手は俺だと言ったろう」
アークデーモンはイオナズンを唱えたがセーラは引かない。
アークデーモンは次に激しい炎を吐いた。
天空の盾と鎧が、息攻撃や呪文攻撃を軽減してくれるため、セーラはじりじりとアークデーモンに近づいていく。
「そ、そんなばかな!」
アークデーモンがひるんだ隙に、セーラの剣は敵を刺し貫いた。
アークデーモンを倒した。
四人はメイ姫を連れてルーラでレムリア城に戻ったが、時すでに遅く魔物たちは去った後であった。
王が無事だったので話を聞くと、赤い指輪を奪われたという。
赤い指輪とは聖なる力を魔の力に変えるものらしい。
魔物たちが何のためにその指輪を持って行ったのかはわからないが、魔王ギルドラスが使うためであることは容易に想像できた。
ギルドラスの魔力を復活させるためには、四つの天空装備が必要だとゼランは言っていた。
しかしながらこちらも天空神に会うために天空装備が必要である。
おそらく敵はこちらの天空装備を狙って大掛かりな襲撃をしてくるであろう。
その前にこちらから敵の本拠地を襲った方がいいのではないだろうか。
セーラはそう考えた。
幸い気球が手に入ったこともあり、一行は魔物の本拠地を探しに出かけようとした。
ところが隣の大陸にある街が魔物に滅ぼされたという知らせが入ったため、セーラたちは急きょその街に向かうことにしたのである。
作品名:ドラゴンクエスト・アナザー 作家名:malta