SS集
現代パロ 予告版
りくへのお題は『「反比例するかのように」「永遠に嘘をついてくれ」「灰皿代わりの掌」』です。
彼はヘビースモーカーでは決してないが、嗜みとして、というよりは単なる付き合いから、煙草を吸うことくらいはある。ラッキーストライク。天国に一番近いとの異名を取るほどのこれも、彼にはたいして興味を抱かせる対象ではないらしい。紫煙を一筋吐き出し、つと眼前の人影に目線を送った。椅子に座ったまま俯いた姿勢でいるせいで、その顔も瞳も見えない。腹立たしさを覚え、その手をぐっと掴み、手のひらをテーブル上で上向かせる。びくりとその体が震えるのと同時に、それが灰皿であるかのように煙草を押し付けた。
「…………っ!!」
声にならない悲鳴があがる。彼女の意識がこちらに向いたのをようやっと実感して、男は笑みを浮かべた。ゆるゆるとそのこうべが持ち上がり、視線が合う。怯えをたっぷり含んだ目。さてどうしようかと一瞬考える。その頬をひっ叩くか、額に口づけを贈るか、はたまた細い首を締め付けるか。結論、男は彼女の頤をぐっと掴むと、そのまま顔を近づけて噛みつくようなキスをした。
「んん……! ……っ、っは、」
いつもよりも二割増で乱暴にしたのは、触れる刹那に拒絶するような反応をしたからだ。銀糸がぷつりと途絶えれば、それで繋がりも消えた気分になる。ああ勿体無い、そんなことを思いながら、男はくつりと喉の奥で笑った。
「おまえは私から逃れられない。……拒絶などするな」
「…………」
この娘の感情が、意識が、ほんの一瞬でも別の何かに向けられれば、男の中でぞわりと膨れ上がるものがある。嫉妬心か、独占欲か、――愛情か。過去には確かに信頼の光を向けていたその瞳が、憎らしげに、辛そうに光って己を射抜くたび、まるで反比例のように自分の中の想いは募る。それとも正比例か。
(知ったことではないな)
そんなことはどうでもいい。彼が今欲しいのは、目の前の息も絶え絶えの存在、ただそれだけなのだから。