SS集
「私が憎いか?」
戯れに、訊いてみる。きっと首を縦に振るだろうと思っていたのに、予想に反して彼女は緩慢に首を横に振った。予想外のそれに、どことなく愉快な気持ちになる。
「では、愛しいか?」
正反対の質問。彼女は驚愕したような瞳で男を見た。その大きな瞳に、何かが横切って消える。やがて彼女は小さく唇を動かした。だが喉が枯れているのか、それは上手く音を成さない。
「聞こえないな」
もう一度、と彼女が座る椅子の肘掛け部分に体重をかけ強請る。そうすれば空気に乗って、小さな小さな声で、すき、と。たった一言が聞こえた。
「くっ……ふふふ、ははははは!!」
まったく可笑しい。羽根をもぎとったのは自分だが、彼女の性質からしてこんな環境に満足しているはずがない。だから憎いかと訊いたのに、答えはNO 。愛しいかと訊けば、YESで返ってくる。
ゆえに彼にはわかっている。その返答が嘘だということを。だから彼は余計に欲する。この嘘が永遠に続けば良いと。
そして彼は知らない。彼女が何を思って、そんなふうに答えたのか。
「笑わせてもらった礼だ。今夜は優しくしてやろう」
脇と膝下に手を差し入れ、その体を持ち上げる。羽根はないのに、羽根のように軽い。だらりと垂れ下がった腕が、ふと目につく。それを掬い上げ、男はさきほど自分でその手のひらに残した傷跡に唇を寄せる。舌で撫であげれば、娘の体が震えた。痛みゆえか、快楽ゆえか。だがどうせ、すぐにすべて快楽に変わる。いまは軽くて冷えた空気も、そのうちどろりと濃密な、熱いそれに変わるだろう。その時にまた、同じ質問をしてみるのも良いかもしれない、と。少女の体を、約束通り優しく横たえながら、男はそんなことを思った。
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「イラストやSSのためにお題ったー」http://shindanmaker.com/242887より
曹操×関羽。
現代パロ。ちょっと予告版的に。