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Act.7 「Big Deal」~Kizuna~

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 身体が……動かない。思うように動かない。
 全身に纏っていたコンバットスーツが解除されたことは覚えているが、その後はどうしても……思い出せず、彼は地面に倒れていた。
 目の前に自分の手をかざそうとするが、その手にも力が入らず、震えるばかりだ。
「あ……」
真っ赤になった掌……両手が…顔にも激痛が走り、それが全身へと伝播する。
 自分に降り注ぐ雨。うっすらと開いた眼は空を見上げた。雨は次第に強くなり、自分を叩きつけてきた。でも、身動きできないんだよ……ここから。セイラとも連絡がつかない。もしかしたら、自分がいる場所を特定できていないのかもしれない。
「セイラ……心配、しているか、な……」
どうしようか……うっすらと意識が遠のいていくのがわかる。
 動きたい、動けない。
 セイラに連絡を取ろうとアタマの中を働かせるが、それすら鈍る。
 宇宙刑事ともあろう自分が…無様な姿で倒れている自分が恨めしかった。


 その時、目の前に強烈な光が現れた。一瞬、新たな敵かと思ったが、いつまで経っても、その気配はない。
 雨音に混じり、カツ、コツ……という靴音が聞こえて、やがてゆっくりと自分の傍で立ち止まるのがわかった。
(誰か……いる?)
雨の中、自分の傍にやってきたであろう人物は、自分を慎重に観察しているようだ。それから、少し低い声が聞こえる。
「俺たちが地球のそばでテストをしていたからいいものの……これは酷い」
「え……?」
「一条寺真センパイ?まだ意識はあるかな。随分と無茶をしたみたいですね。こんな状態で……さすがというか、なんというのか」
不意に身体が軽くなる。相手の男は真の身体を軽々と抱え上げた。その時、一瞬だけ、黒いジャケットが目に入る。何だろう、誰だろう?相手は自分の名前を知っているらしい。自分のことを「センパイ」と呼んだけれど、この声には聞き覚えがなかった。
「……なぜ、自分を?」
「詳しい話はあとでするよ。今はこの怪我の治療が先だ。バード星に連絡を取ったから、すぐに羊水などは準備できる。少しの辛抱だ」
「……」
うっすらと相手の顔が読み取れる。黒髪、少し浅黒い肌。言葉遣いはぶっきらぼうで、鋭い眼つきをしているが、どこか優しさを感じ取る、不思議な青年が自分を抱えている。
 震えたまま、相手に向かって血に染まった手を伸ばすが、不意に彼の意識は途切れてしまった。


 特殊なカプセルの液体の中にジェイスを横たわらせて、口元や身体に必要なものを取り付ける。しっかりと封印し、慎重に様子を見ながらスイッチを入れていくと、カプセルの周囲がほんのりと明るくなった。さらに、カプセルの中に特殊な「羊水」が流れ込み、彼の身体を包み込んでいく。
「酷いな、これは確かに……長官が心配されるのも無理はない」
「本当は地球にある『科学アカデミア』っていうところへ行けばいいんだけれど……ジェイスは特殊な事情を抱えていることもあるし、これだけの怪我をしているから、今回はこの中で治療するしかないのよね。この新型宇宙船の中はちょっとした大病院並の施設は揃えてあるけれど、さすがに羊水だけはどうしようもなかったわ。緊急無人補給船で送ってもらったのよ」
「特殊な事情?」
「撃にはいつかわかると思って話をしていなかったけれど……『大暴走』を起こしたことがあるから、彼は」
「なんだよ、シェリー。その『大暴走』って」
少し戸惑った様子で、彼女は言葉を選んでいるようだった。
 と、何やら話しているふたりの耳に、ドアが開く音が聞こえた。入ってきたのはセイラだった。
「シェリー!」
「あ、セイラ。よかった……来てくれたのね」
「当たり前よ。ずっとジェイスのこと、探していたのになかなか連絡が取れなくて……シェリーが地球のそばにいることもびっくりしたけれど」
と、セイラはもうひとり、見知らぬ男が「新しいタイプの銀河連邦警察の制服」を着て、立っていることに気づいた。左胸には銀河連邦警察の意匠が入っているので所属しているのは間違いないだろう。だが、セイラは会ったことがない男だ。
 彼女は少しだけあとずさりするようなしぐさを見せて、シェリーと呼ばれた女性……バード星独特のスーツに身を包んでいる……に、声をかける。
「この方は?」
「紹介するわ。私のパートナーよ。ゲキ、十文字撃。スペースシェリフ・アカデミー候補生なの」
スペースシェリフ・アカデミーの候補生?それに、シェリーもまだ候補生としての訓練が終わっていないはずだ。そういう話しは聞いているけれど。
 シェリーはジェイスの「いとこ」にあたる。セイラとはスペースシェリフ・アカデミーの「同期生」で、彼女もよく知っている女性だが、この男は初めて見る。
 訝しげに相手を見ると、十文字撃と呼ばれた男はにこっと笑った。
「初めまして。シェリーから話はよく聞いていましたよ。セイラさん、でしたね」
「は、はい。でも、お名前が……」
「撃は地球人、日本人なのよ」
「日本人なの?」
精悍な顔つきをした……でも、どこか優しい雰囲気を持った撃に、セイラは一瞬だけ「誰か」を思い出す。
「ま、俺のことはあとでも話しができる。それよりもジェイス先輩の様子だよ」
目の前にあったカプセルを見る。全身傷だらけになったジェイスが眠っていた。
 よく見れば、全身の一部が「消えている」。
「これって……」
「ああ、たぶん、吹き飛ばされたんだろう。吹っ飛ばされた部分を「修復」するために、その部分を「転送」してる。かなり激しい損傷だ。まぁ、これくらいだったら二日も経てば治療は完了するよ」
バード星の医学がいかに進んでいるか、かつて、撃は自分自身で「身をもって体験」している。彼の言葉に、シェリーとセイラは頷いた。
「それから、さっきシェリーが言っていたんだが、過去に一度『大暴走』したことがあるって」
「そう。あの時は怪我じゃなかったんだけれど」
ジェイスが秘めている「未知の能力」が初めて「解放」された時のことをセイラが思い出す。このことは、シェリーも経緯を知っているようで、セイラの顔を見て頷いた。
「今回はその時とは全然違う。これ、外部からの攻撃だわ」
「……だろうな」
一体、誰がジェイスにこれほどの大怪我を負わせたのか?セイラが思い当たるのは、たったひとりだけ……そう、あの男、マクー帝国の騎士・スカーヴィズだけだ。
 まさか、とうとう本気を出してきたとか?ジェイスがいつか言っていたけれど、スカーヴィズは自分自身で手を下すということは今まで皆無だったと思う。もし、その彼が「本気」を出して来れば……あの威圧感は異常なくらいにすごかった。あれが「見かけ倒し」ではないことは、セイラは直観で見抜いている。
 そういえば、連絡が取れなくなった時、ジェイスはコンバットスーツを「蒸着」していたはずだ。だけど、さっき、ドルギランの「転送室」を確認した時には、コンバットスーツは戻ってきていなかった。それも探さなければならない。
「セイラ、ジェイスのコンバットスーツだったら、この宇宙船の中にあるわよ」
「え?」
シェリーの思いがけない言葉に、セイラは顔をあげた。
「俺たちが回収したんだ。メカニック系はきみの専門だから、俺たちが見るよりも詳しいことがわかるかも」
作品名:Act.7 「Big Deal」~Kizuna~ 作家名:じゅん