こらぼでほすと 厳命6
沙・猪家夫夫が、寺に顔を出したのは翌日の夕方だ。白酒と黄酒の逸品を一本ずつ持ち込んだ。沙・猪家は、二本ずつ頂いた。各人一本ずつという計算だ。他は、とりあえず、トダカに連絡だけはして店のワインカーヴへ放り込んでおいた。平日のことなので、悟空が帰ってくるまでに八戒が食事の準備をして、夕食の席で、天蓬との話を説明する。
「桃は、さすがに正式な夫夫でないと問題があるそうです。どうします? 三蔵。一気にプロポーズに雪崩れ込みますか? 今なら、ニールも頷くでしょう。」
子猫たちが無事に生き残った。これで、心配事は消えた。再々始動があるとしても、現状から鑑みれば、それほど厳しい状況ではない。今がチャンスだ、と、けしかけているのだが、坊主は涼しい顔でスルーした。
「でも、そうなったら、あっちに帰らないとマズイんじゃね? 八戒。」
「いえ、そんなに慌てることはないですよ、悟空。キラくんたちが、プラントに移動するぐらいまでは、このままで大丈夫です。」
見た目の問題は、まだ数年は起こらない。外見が、ほとんど変化しない悟空が不審に思われるまでは、ここで暮らしていればいいことだ。それは、最初から、上司様たちと打ち合わせしてある。
「なあ、さんぞー。ママがいなくなると困るんだろ? ここんとこ、機嫌が悪いじゃん。それもママがいないからなんだからさ。さっさとプロポーズしておけよ。」
で、悟空からもけしかけられるが、それにも、けっっと舌打ちしただけだ。元来が性格も歪んだ坊主なので、他人の親切の押し付けなんてものに頷くはずもない。
「三蔵様はシャイだから、こっそりとしたいんだよな? 」
「死にてぇーか? カッパ。」
「だって、実際問題、おまえ、ママニャンが消えたら心底、困るだろ? 着替えの手配とか食事とか、黙っていても用意してくれる便利な家政夫は、もう手放せないんじゃねぇーの? 」
「いなけりゃ、元に戻るだけだ。大したことじゃねぇ。・・・あいつにはあいつの都合もあるし、こっちにもある。折り合いがつく代物じゃねぇーから自然消滅するんだろーよ。」
坊主と女房には、どちらにも相手以外の大切なものがある。それに関して何か起これば、夫夫のことはそっちのけで、そちらに関わることになる。坊主自身は、人間を辞めることについて、何の感慨もないから、そのうち受けるつもりはしているが、女房まで付き合わせるつもりはない。お互いに、それについては話し合った。だから、プロポーズなんてしない。いつか擦れ違うまでの時間を楽しむと結論している。
「内縁関係のままでいいんですか? 」
「おまえらも、内縁関係だろーが? 」
「うちは、お互いが人外ですからね。そういう問題は発生しません。あなたは、いずれ、神仙界へ入るから、所属が違ってしまうでしょ? 」
「その時まで、あれが生きてたら考える。それまでは、今のままでいい。」
グビーと缶ビールを一気に飲み干して、坊主が結論を告げると、この話は終わりだ。考えを改めさせるのは難しいので、この場は、ここで納める。
「わかりました。しばらくは竜丹で治療をさせてもらいます。それなら、寺にも戻れるはずです。ただし、悟空、毎日忘れずに確実に飲ませてください。一日でも忘れたら、どうなるかわかりません。」
「オッケー、俺がきっちりやる。リジェネも戻って来るだろうから、あいつにも言っておく。」
ママが寺に戻れると言われると、おサルさんは、ニッパリと笑った。すでに、おサルさんも、「ママがいないと寂しい病」を発症しているらしい。
「予定では年末には、どうにかなるそうです。」
「それはキラからも聞いてる。とりあえず、さくっと治してくれたら、俺は大歓迎だ。」
「僕も大歓迎です。これで、漢方薬地獄からも抜け出せるから、ニールに微妙な顔を向けられなくなるでしょう。」
ここ数年、飲み続けさせている漢方薬は、全て八戒の手製だ。あれが強烈な味なので、ニールは、微妙な顔で八戒に礼を言うので、八戒もイヤではあった。身体のためとはいえ、あのクスリを飲み続けるのは辛いと思うからだ。
「マズイもんなあ、あれ。」
「滋養強壮のクスリなんて、味は二の次ですからね。」
「あと、三ヶ月ぐらいだから我慢してもらう。」
「ええ、我慢してもらいましょう。」
「じゃあさ、終わったら春休みぐらいにカガリんとこへ遠征だなっっ。」
「そういう予定ですね。」
何があろうとダブルオーでトランザムバーストしてくれれば、ニールの細胞異常は完治する。それが終わったら、どこへでも行けるだろうし具合が悪くなることもなくなる。そう考えるだけで、悟空もウキウキした気分になる。
「よしっっ、メシ食って体力つけようっっ。」
「ぐぉーらっ、バカサル、それ以上に体力つけて、どーすんだ? その栄養は脳みそにつけろ。」
「バカっていうヤツがバカなんだぜ? バカガッパ。」
「んだとぉー。」
「はいはい、喧嘩は食事の後にしてください。先に食べ終わってください。卓袱台をひっくり返したら、三蔵に魔界天浄をぶち込まれますからね。」
サルとカッパの小競り合いを軽くいなして、八戒が食事を再開する。一応、天蓬たちの意見は伝えた。それを、どうするかは坊主の問題だ。そこまで親切のお節介をするつもりはない。
さらに、翌日、本宅のドクターのところに話を通すために来訪した。細胞の活性化ではなく、悪化を停滞させる効能があるということで説明する。これについては、質問も受け付けないつもりだったが、ドクターも、そこいらはスルーしてくれるつもりだ。
「つまり、こちらの細胞異常を停滞させるクスリの強力なものと考えればいいのかな? 八戒さん。」
「ええ、そういうことになります。ですから、化学療法のクスリは、使えなくなりますが、よろしいでしょうか? ドクター。」
普通なら、是非、研究させてくれ、と、言い出しかねない内容だが、ドクターも伊達に、『吉祥富貴』の専属医を長年務めているわけではない。特殊なもの、特に三蔵たちが絡んでいるものは、こちらでは使えないのだと理解してくれている。
「いいも、何も・・・すでに結果は見せてもらっているんだ。反対するつもりはない。ただし、うちの看護士たちには内密に頼むよ。興味を持たれると困るんでね。」
ニールの細胞異常を、ここまで押し留めていたのは、八戒が用意した漢方薬だ。その結果を目の当たりにしているのだから、ドクターも納得はしている。極力、このことは外部に漏らさないようにしたいとは考えている。そうでないと、八戒や三蔵に迷惑がかかる。
「承知しました。ロックオンが帰ったら、すぐに服用させます。」
「そうしてくれるかな。今のところは、どこも異常がないから問題はないだろう。再生槽から出て一週間やそこいらなら、いきなり悪化するとも思えない。」
今は完全に健常な状態だ。何かしら起こるとしたら、数週間は後になる。細胞異常は、突発的に引き起こされるものではない。ゆっくりと、その部分が壊れて、気付いたら崩壊しているといった進み具合だ。ロックオンが滞在している間ぐらいなら、そのまま化学療法の治療を続けてもいい。
「つまり、今後は、ニールくんの治療薬は、そちらで準備してくれるということでいいか? 」
「桃は、さすがに正式な夫夫でないと問題があるそうです。どうします? 三蔵。一気にプロポーズに雪崩れ込みますか? 今なら、ニールも頷くでしょう。」
子猫たちが無事に生き残った。これで、心配事は消えた。再々始動があるとしても、現状から鑑みれば、それほど厳しい状況ではない。今がチャンスだ、と、けしかけているのだが、坊主は涼しい顔でスルーした。
「でも、そうなったら、あっちに帰らないとマズイんじゃね? 八戒。」
「いえ、そんなに慌てることはないですよ、悟空。キラくんたちが、プラントに移動するぐらいまでは、このままで大丈夫です。」
見た目の問題は、まだ数年は起こらない。外見が、ほとんど変化しない悟空が不審に思われるまでは、ここで暮らしていればいいことだ。それは、最初から、上司様たちと打ち合わせしてある。
「なあ、さんぞー。ママがいなくなると困るんだろ? ここんとこ、機嫌が悪いじゃん。それもママがいないからなんだからさ。さっさとプロポーズしておけよ。」
で、悟空からもけしかけられるが、それにも、けっっと舌打ちしただけだ。元来が性格も歪んだ坊主なので、他人の親切の押し付けなんてものに頷くはずもない。
「三蔵様はシャイだから、こっそりとしたいんだよな? 」
「死にてぇーか? カッパ。」
「だって、実際問題、おまえ、ママニャンが消えたら心底、困るだろ? 着替えの手配とか食事とか、黙っていても用意してくれる便利な家政夫は、もう手放せないんじゃねぇーの? 」
「いなけりゃ、元に戻るだけだ。大したことじゃねぇ。・・・あいつにはあいつの都合もあるし、こっちにもある。折り合いがつく代物じゃねぇーから自然消滅するんだろーよ。」
坊主と女房には、どちらにも相手以外の大切なものがある。それに関して何か起これば、夫夫のことはそっちのけで、そちらに関わることになる。坊主自身は、人間を辞めることについて、何の感慨もないから、そのうち受けるつもりはしているが、女房まで付き合わせるつもりはない。お互いに、それについては話し合った。だから、プロポーズなんてしない。いつか擦れ違うまでの時間を楽しむと結論している。
「内縁関係のままでいいんですか? 」
「おまえらも、内縁関係だろーが? 」
「うちは、お互いが人外ですからね。そういう問題は発生しません。あなたは、いずれ、神仙界へ入るから、所属が違ってしまうでしょ? 」
「その時まで、あれが生きてたら考える。それまでは、今のままでいい。」
グビーと缶ビールを一気に飲み干して、坊主が結論を告げると、この話は終わりだ。考えを改めさせるのは難しいので、この場は、ここで納める。
「わかりました。しばらくは竜丹で治療をさせてもらいます。それなら、寺にも戻れるはずです。ただし、悟空、毎日忘れずに確実に飲ませてください。一日でも忘れたら、どうなるかわかりません。」
「オッケー、俺がきっちりやる。リジェネも戻って来るだろうから、あいつにも言っておく。」
ママが寺に戻れると言われると、おサルさんは、ニッパリと笑った。すでに、おサルさんも、「ママがいないと寂しい病」を発症しているらしい。
「予定では年末には、どうにかなるそうです。」
「それはキラからも聞いてる。とりあえず、さくっと治してくれたら、俺は大歓迎だ。」
「僕も大歓迎です。これで、漢方薬地獄からも抜け出せるから、ニールに微妙な顔を向けられなくなるでしょう。」
ここ数年、飲み続けさせている漢方薬は、全て八戒の手製だ。あれが強烈な味なので、ニールは、微妙な顔で八戒に礼を言うので、八戒もイヤではあった。身体のためとはいえ、あのクスリを飲み続けるのは辛いと思うからだ。
「マズイもんなあ、あれ。」
「滋養強壮のクスリなんて、味は二の次ですからね。」
「あと、三ヶ月ぐらいだから我慢してもらう。」
「ええ、我慢してもらいましょう。」
「じゃあさ、終わったら春休みぐらいにカガリんとこへ遠征だなっっ。」
「そういう予定ですね。」
何があろうとダブルオーでトランザムバーストしてくれれば、ニールの細胞異常は完治する。それが終わったら、どこへでも行けるだろうし具合が悪くなることもなくなる。そう考えるだけで、悟空もウキウキした気分になる。
「よしっっ、メシ食って体力つけようっっ。」
「ぐぉーらっ、バカサル、それ以上に体力つけて、どーすんだ? その栄養は脳みそにつけろ。」
「バカっていうヤツがバカなんだぜ? バカガッパ。」
「んだとぉー。」
「はいはい、喧嘩は食事の後にしてください。先に食べ終わってください。卓袱台をひっくり返したら、三蔵に魔界天浄をぶち込まれますからね。」
サルとカッパの小競り合いを軽くいなして、八戒が食事を再開する。一応、天蓬たちの意見は伝えた。それを、どうするかは坊主の問題だ。そこまで親切のお節介をするつもりはない。
さらに、翌日、本宅のドクターのところに話を通すために来訪した。細胞の活性化ではなく、悪化を停滞させる効能があるということで説明する。これについては、質問も受け付けないつもりだったが、ドクターも、そこいらはスルーしてくれるつもりだ。
「つまり、こちらの細胞異常を停滞させるクスリの強力なものと考えればいいのかな? 八戒さん。」
「ええ、そういうことになります。ですから、化学療法のクスリは、使えなくなりますが、よろしいでしょうか? ドクター。」
普通なら、是非、研究させてくれ、と、言い出しかねない内容だが、ドクターも伊達に、『吉祥富貴』の専属医を長年務めているわけではない。特殊なもの、特に三蔵たちが絡んでいるものは、こちらでは使えないのだと理解してくれている。
「いいも、何も・・・すでに結果は見せてもらっているんだ。反対するつもりはない。ただし、うちの看護士たちには内密に頼むよ。興味を持たれると困るんでね。」
ニールの細胞異常を、ここまで押し留めていたのは、八戒が用意した漢方薬だ。その結果を目の当たりにしているのだから、ドクターも納得はしている。極力、このことは外部に漏らさないようにしたいとは考えている。そうでないと、八戒や三蔵に迷惑がかかる。
「承知しました。ロックオンが帰ったら、すぐに服用させます。」
「そうしてくれるかな。今のところは、どこも異常がないから問題はないだろう。再生槽から出て一週間やそこいらなら、いきなり悪化するとも思えない。」
今は完全に健常な状態だ。何かしら起こるとしたら、数週間は後になる。細胞異常は、突発的に引き起こされるものではない。ゆっくりと、その部分が壊れて、気付いたら崩壊しているといった進み具合だ。ロックオンが滞在している間ぐらいなら、そのまま化学療法の治療を続けてもいい。
「つまり、今後は、ニールくんの治療薬は、そちらで準備してくれるということでいいか? 」
作品名:こらぼでほすと 厳命6 作家名:篠義