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こらぼでほすと 厳命7

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その様子に、ライルは微笑む。その普通の反応が嬉しいと思うのだから、しょうがない。
「ティエリアのことは嫌いじゃないぜ? ただ、ちょっと時間は欲しい。気持ちの整理がつけられてないだけだからさ。」
「・・・うん・・・ごめん。」
「兄さんが謝ることはない。あんたは、中立の立場でいてくれればいい。・・・いい子だったんだ。アニュって言うんだけどさ。」
「・・・そうか・・・どうやって知り合ったんだ? 」
「組織に居たんだ。」
「・・・ヴェーダの目か・・・」
「ん? 何? 」
「ヴェーダは生体端末を用途別に作ってるんだ。たぶん、その子はヴェーダの情報収集用で、当人も生体端末だって知らないタイプだったんだろう。」
 人間と同じように成長して老成していくイノベイドもいる。ティエリアのように、ヴェーダの活動用のものとは寿命が違う、と、ニールは説明する。そこで、ライルのほうは疑問が浮かんだ。いくら、マイスター組リーダーだとしても、イノベイドについての情報に詳しすぎる。現リーダーの刹那だって、イノベイドについては、ほとんど知らなかった。
「なんで、あんたが、そんなこと知ってんだよ? 」
「リジェネから、イノベイドについてのレクチャーを受けた。ティエリアたちには内緒な? お陰で、俺の体調についても理解できたからさ。」
「・・・なに、こそこそ情報収集してんだよっっ。」
「だって、俺の体調も、ほとんど情報が貰えなくて、わかんなかったからさ。そこいらを確認しただけだ。ついでに、リジェネたちのことも教えてもらったんだよ。・・・元々、イノベイドについては知ってたさ。マイスターだった時に調べてあった。おまえのセキュリティーレベルは、俺のより下げてあるんだよ。」
「カタロンには教えられないことが、山ほどあった? 」
「まあ、いろいろとな。」
 なんだかんだと言っても、ニールはアングラ生活の長い人間だ。情報のチェックは、ライルの比ではない。本来は、ニールのレベルでも調べられない情報も掴んでいた。イノベイドに関しては、その部分だ。ティエリアのことは、それで理解した。刹那たちが知らなかったのは無理もない。知っててよかったとは思っている。ティエリアが、ヴェーダとのリンクを強制的に断ち切られて、情緒不安定になったことはフォローできた。知らなければできなかったことだ。
「俺のことは? 」
「こっちに所属が変ってから調べてもらった。・・・・わざわざ、あっちでは調べなかった。」
 調べたところで、逢えるわけでもないし、余計な足跡をヴェーダに残すのも危険だからスルーしていた。自分が復帰できないと解って、代わりが必要だから、調べてもらった。実弟も、スポーツライフルをやっていたし、もしかしたら、代わりになるかもしれない、と、思いついた。ただ、予想外にマイスター向きの経歴を持っていたのには驚いた。
「まさか、カタロンにいるとは思わなくて、びっくりさせてもらった。」
「・・・うん、まあ、俺もいろいろとな。」
「・・・おまえがマイスターとして使えるとわかって、刹那に候補の一人として推薦したのは、俺だ。酷い兄貴だろ? 生存確率の低いマイスターなんてものを押し付けたんだからさ。」
 ごめん、と、ニールは苦笑する。それを拝んで、ライルは大きく息を吐いた。どこまでも、実兄は本音を隠す。
「カタロンより生存確率が上がるって思ったんだろ? 刹那から聞いたぜ? 」
 もちろん、なぜ、自分がマイスターとして勧誘を受けたのか、それも後から刹那から聞いている。カタロンにいるよりは、組織のほうが生存確率は高いから、誘い込め、と、刹那に命じていた。刹那も絶対に死なせない、と、覚悟してライルをマイスターに誘った。だから、アニュの一件で刹那は躊躇せずにライルを助けたのだ。ニールの大切なものを、これ以上に失くさせるわけにはいかない、と、刹那は言った。ライルに向けられている温かいものが、ニールの本音であると、刹那も理解しているのだろう。
「・・・うん・・・」
「あんたさ、俺には遠慮も気遣いも必要ないって気付いてくれないかな? 刹那にも、だけどさ。」
「ん? 」
「俺たち、あんたの身内でも一番近しい身内なんだ。俺も自分の好きなようにするし言いたいことも言う。だからあんたも、そうすればいい。・・・・俺に興味がないなら、放置しておけばいいんだ。一々、気を遣うな。」
 脈絡もなく、ライルがそう言うと、ニールは困った顔をする。何を言われているのかわからない、という表情だ。
「俺が退屈したら、適当に外出する。」
「・・ああ・・・」
「あんたに聞きたいことも聞く。全部答えろとは言わないけど、兎に角、知りたいことは聞いてみる。言いたくないなら拒否すればいい。俺も、そうするから。」
「・・・うん・・・・」
「アニュのことだって、本当は言わないほうがいいことなんだろうけどさ。でも、自分の惚れた相手のことを、あんたに教えたかったから言った。」
「・・うん・・・」
「だから、あんたも言いたいことがあるなら言え。」
 かなりの声でライルが言うと、ニールのほうは少し戸惑った。聞きたいことはあるのだが、聞いてもいいのか迷ったのだ。
「・・・ひとつだけ。」
 そして、ひとつだけ尋ねることにした。なぜ、カタロンに入ることになったか、だ。一流の大学を出て一流の商社勤めをして、順風満帆な生き方をしていたはずのライルが、なぜ反政府組織のエージェントなんてものをやっていたのか、それは気になっていた。
「政府に疑問を持ったのが最初。で、クラウスが、学生の頃から、情報統制されていない情報を調べていたから、政府が隠しているものが解ってきた。・・・・そこからは、真実を知りたくなった。商社に入ったのも、そこからなら世界の情報が掴めると思ったからだ。実際、商社っていうのは、情報が蓄積されていて、何かとクラウスにも流したよ。そんなことしてたら、いつの間にか、エージェントになってた。・・・まあ、そんなところだ。」
 そんな若い頃からか、と、ニールも息を吐き出す。就職に際して、すでに情報収集の目的を持っていたのだとしたら、見た目通りのマトモな生き方ではない。普通でよかったのに・・と、残念に思う。そうすれば、こんなところで双子が顔を合わすこともなかったのだ。
「疑問なんか持たずにいればよかったのに。」
「俺は、元来、性格歪んでんの。政府の言うことを素直に聞いてるなんてできねぇーよ。」
「そのままだったら今頃、昇進とかして重役席でふんぞり返ってたかもしれないのに。」
「そうかもしんねぇーけど、今の選択は間違ったとは思ってない。こうなったから、あんたと会えたんだし・・・あんたが俺のことを大切に考えてくれたことも理解できた。もし、俺がそうだったら、あんたのことを理解しないままだった。」
 大切なものを一瞬で奪われて、世界を憎んだニールのことを理解しないまま、おそらく死んだことも、はっきりしないままだったはずだ。そう考えれば、これはよかったと思う。誤解したままで終わるよりは、ずっとマシだ。
「・・・ライル・・・」
作品名:こらぼでほすと 厳命7 作家名:篠義