こらぼでほすと 厳命7
「死ぬなよ? 兄さん。あんたが理不尽な死に方で死ぬと、刹那は世界を憎むぜ? 俺も、世界を滅ぼしたくなる。あんたが地上で生きているから、俺たちは世界を憎まずにいられるんだ。」
「・・・それ・・・刹那にも以前、言われた。」
「ちっっ、二番煎じか。・・・まあ、そういうことさ。」
ライルがカタロンに入った理由は、そんなものだった。どんどん世界の歪みを理解して、是正できないものかと考えた結果だ。政府という器よりも世界三大国の思惑でだけ成立する世界なんてものは否定したかった。そんなものがあるから、テロは起きるのだ。もちろん、抗議のためにテロを引き起こしてしまったが、それすらもライルには納得のことだ。裁かれても構わない。理不尽に歪められた世界のことを、世界の人間に知ってもらいたいと思った。そのために罪のない人間も巻き添えになっても、その先で歪みが解消されるなら、犠牲として受け入れる。自分の家族は、そんな犠牲になったのだと理解はした。
滔々と、そんなことを話したら、ニールは少し悲しい顔をしたものの頷いた。やっぱり、双子なんだな、と、自嘲気味に呟く。やり方は違うが、双子それぞれがテロの起こらない世界を望んだ、ということに他ならない。
ふうと息を吐いて、ライルに目を向ける。そういう理由なら、ニールも納得できる。
「しばらくは死ねないよ。ラクスからも、「絶対に生きていろ。」って厳命されちまったしな。死なせてくれるつもりもないらしい。」
「いいじゃないか。」
「・・・本当は世界から贖罪を求められたら応じるつもりだったんだ。それだけのことをやった自覚もあるし・・・それが妥当だと思ったし・・・それで終われるって思ってたんだけどな。」
たかだかマイスター一人を処刑したところで、何も変わらない。それなら、その罪を身に沈めて生きていくほうが贖罪になる、と、トダカたちに諭された。本当に、この罪のほうが辛いのだと、ニールも感じている。間違ったとは思っていない。世界から紛争がなくなるために布石になることは望んだことだ。だが、何もできず、ただ静観するだけの生き方は、死ぬほうが楽だった。再始動が始まってからの時間は、ニールにとって厳しい罰だった。だが、以前のように無茶しようと思わなくなった。『吉祥富貴』に所属が代わって、たくさんの慕ってくれる相手や友人、知り合いができたからだ。
「・・・でも、死んだらラクスが泣くって言うんだよ。刹那は世界を滅ぼすって言うしさ・・・・そんなことさせたくないから生きてなくちゃいかんらしい。おまえまで、そう言うなら・・・もう生きてるしかないよな? 」
「当たり前だ。」
やれやれだなあ、と、ニールは苦笑する。与え続けて受け取らなかったニールは、『吉祥富貴』に所属が変って受け取ることも始めてしまった。だから、傷も増えるが、癒されるものもできた。今までのように一人で勝手に決めて勝手にすることはできななくなっている。
「死にたいのか? 兄さんは。」
「・・・どうだろう? これで終わりって言われても、しょうがないけど、残念だなって思ったよ。この間、唐突にダウンした時に、そう思った。その前の時は、これで終われるって満足してたんだけどな。」
宇宙空間に放り出された時は、刹那のことを考えた。答えがみつかっていればいいな、と、それだけは願ったが、それだけだ。こんな世界に生きていたいとは思わなかった。だのに、今は終わるのが残念だと思う。
「いい傾向じゃねぇーの? それ。」
「・・そうか? 」
「俺が悲しくなるとか思ってくれてるってことだろ? 」
「そういうことになるのかな? 」
「そうなんだよ。ってか、そう思ってくれよ。」
「・・・はいはい・・・」
「あんたさ、俺には適当だよな? 」
「だって、遠慮も気遣いもしなくていいんだろ? 俺、それほど感情の起伏が激しいタイプじゃないんだ。だから、実際は、そんなもんだよ。」
「それ、総称して外面がいいと言うわけ? 」
「さあ、どうなんだろうな? 別に意識して使い分けてるわけじゃないからさ。俺自身は、普通に対応してるつもりなんだ。」
「昔から、あんた、外面はよかったと思うぜ。俺の彼女は、大概、あんたを紹介すると、あんたのほうがいいって言いやがったもんな。」
「おいおい、それ、俺の所為か? 他人の家の芝生だろ? 」
「いーやっっ、あれは意図してやってたと、俺は断言するね。・・・あんたの彼女って俺には鞍替えしなかったじゃないか。」
「そんなこと、今更、言われてもな。おまえが好き勝手ばかりして彼女の意見を尊重してやらなかったからだろ? 俺の所為にすんな。」
「なんで、一々、言うこと聞いてやらなきゃいけないんだよ? そんなのおかしくね? 」
「たまには、相手の望むこともサービスしてやるのが長続きの秘訣だと思うんだけどなあ。」
「俺は、あんたほどサービス精神はない。」
「だから、長続きしなかったんだろ? 俺の所為じゃねぇーよ。」
ケホッとニールが喉を詰まらせた。ライルが、それを見てサイドテーブルに用意されているミネラルウォーターのペットボトルを渡す。一連の動きを自覚して、なんだ、全然、昔のままじゃないか、と、気付いた。話してはいけないことや過去のことを意識せずに言葉を吐き出すと、ニールも同じように返してくる。昔、一緒に暮らしていた頃のノリだ。
ニールも、それに気付いたのか、ペットボトルをサイドテーブルに置くと、くくくくく・・と、笑っている。
「なんだよ? 」
「いや、やっぱりライルは可愛いなって思ってさ。」
「はあ? 何? その感想。」
「喧嘩腰に励ましてくるところが、昔と変わらないなって。」
「励ましてなんかねぇーよっっ。」
「そうなのか? 俺は元気貰った気がするぜ? 」
「勝手に自己完結してるだけだろ? 」
「あはははは・・・・そうかもしんない。でも、ライルだ。・・・ありがとさん、大丈夫だ。」
「うっせぇ。」
「・・・もう、こんなふうに話せることはないと思ってた。」
「だから、自己完結するな。」
「俺、おまえに言えないことだらけだからさ。・・・それに過去のことも・・・正直、あのテロの後のことは覚えていないんだ。目の前に膜がかかったみたいになってて記憶が朧気で・・・」
「え? 」
「・・・気付いたら、家に一人だった。 おまえが学校に戻ったってことは理解できてたけど、どうして一人になってんだろ、って寂しかった。」
「は? あんたが学校に戻れって俺に命令したんだよ。」
「そうなのか? あははは・・・全然、覚えてないな。」
あの淡々と葬儀を過ごしていた実兄は、無意識のものだったらしい。何度も何度もライルを抱き締めて慰めていたのも覚えていない。たぶん、実兄のほうが慰めて欲しかっただろう。子供だったライルは、そんなこと気付かなかった。ニールがして欲しいことを、ライルにしてくれていたのだ。
「・・・・あ、ごめん。俺、気付かなかった。」
「そうか、それはそれでよかった。俺、ちゃんと対応できてたんなら。」
「・・・・もしかして・・・独りになったのが原因で家を出た? ・・・あの、なんとなく察しはついてるから・・・・」
作品名:こらぼでほすと 厳命7 作家名:篠義