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のろいの結び目

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 自分の気持ちを明確に言語化出来るほど自分のことを分かっているつもりではなかったが、認めたくないほどにまざまざと思い知らされる。これは、ただの憧れではない。



「黄瀬、ついでに倉庫に行ってしまっておいてくれ」
「えー何で俺が…」

 更衣室を出ると、練習中にどこかに転がっていったのであろうボールを赤司っちに投げられた。頼んだよ、と言って颯爽と去っていく背中を見ながら、手の中のバスケットボールを見つめる。面倒くさい。たった一つだけのために、倉庫に行かなければならないなんて。うちの倉庫の扉は、最近立てつけが悪くなったようで開けづらいし閉めづらい。それになんだか触ると嫌な臭いがつくし、中はそれ以上にかび臭い空気が充満している。何となくみんなも嫌がって、準備や片づけは二軍でも押し付け合いのようになっていた。溜息がもれる。あーついてねえ。着替えたけどちょっとシュート練習でもしてから片づけよう。そう思い、肩にかけたバッグを隅に置いた。何度かゴールに向かいボールを打っていると、背後から声が聞こえた。鼓膜に馴染むこの響きは、間違いなくあの人だ。

「残ってシュート練なんざ、珍しいな」
「好きで残ってるんじゃないっス」

 外周でも走っていたのだろうか、汗を滴らせて青峰っちが体育館に入ってきた。ボールを投げると、お互い何も言わないでも不思議と1on1が始まる。ガランとした体育館で、ボールが床にぶつかる音と、リングが揺れる音が反響するように鳴っていた。制服はやはり動きづらい。腕まくりだけでは何の足しにもならないが、しないよりマシだろうと思ったのが悪かった。まくり上げた袖はどんどん下りてくるし、汗で張り付いたシャツが動きを鈍らせる。とはいえ、それは自分に都合のいい言い訳でもあった。相変わらず自分の目の前にいる人物はバケモノ並みに強い。先ほどまでおそらく身体を酷使していたであろう汗も引いている。手にボールが吸い付くというより、ボールが手に吸い付きにいっているのではないかと思えるほど、自分の手から奪われていった。敵わないなあ、ほんとに。

何十回ゴールの網を揺らしただろう、どちらが止めようというまでもなく1on1は終わった。床に座り込むと、冷えた温度がじわりと感じられる。荒い呼吸が交互に空気を揺らした。

「あーもーまた負けた!」
「ハンデはやっただろうが」

 一体どこにあったというんだ。全く信じられないような勝者の言葉を聞きながら、バッグからタオルを取り出す。すでに水分を吸っていて吸収力は落ちているものの、このままでいるのも気持ち悪い。

「で、なんで残ってたんだよ」
「赤司っちに片づけとけって言われたんっスよ」
「使いっぱしりかよ」

 だせえな。Tシャツの裾を無理矢理捲くるようにして汗を拭いながら、鼻で笑う。青峰っちのこういうちょっと人を小馬鹿にしたような笑いは、すこし腹が立つ。けど、不快ではないのはどうしてだろう。
さっさと片付けて帰るぞ、と言って青峰っちは倉庫に向かった。立ち上がって尻をはたいて後に続く。青峰っちは錆びた扉も気にしないで勢いよく開ける。途端にわっとした湿気が顔を覆うように襲いかかってきた。相変わらず好ましくない場所だ。

「おい、どこしまうんだ」
「あっちの奥っス」

 出来るだけ鼻で息をしないように跳び箱の向こう側を指差す。なんでわざわざ奥にしまうんだよ、という愚痴を呟きながら奥へ進む背中を見て、いたずら心が芽生える。こちらを見てないことを確認してから、扉を勢いよく閉めた。内側の取っ手はそれほど汚れていないようで、手に錆もつかなかった。

「あってめえ!!」

 扉の閉まる音に反応していち早くこちらに向かってくる。慌てた青峰っちの顔はなかなか傑作で、これはしばらくネタに出来るなと笑いがこみ上げた。

「閉じ込められたと思ったんスか?青峰っちもビビることあるんっスねー!」
「しょーもねーことしてんじゃねーよ」

 かたく握られた拳で額を小突かれる。ほんの思いつきではあったが、いいものが見れた。ニヤニヤと笑っていると更にふくらはぎを蹴られた。少しばかり反省する。

「とっとと開けろ」
「はいはいもー  ……あれ」

 取っ手に手をかけて引っ張るも、全く動かない。まさか、そんなネタのようなことが起きるのだろうか。しかし現に扉はびくともしない。

「何やってんだよ」
「……開かない、かも」

 いい加減にしろ、と押しのけられて青峰っちが扉に手をかける。ぎっぎっと鈍い音は立つものの、光は入ってこなかった。あーこれはこれは。

「閉じ込められたっスね」

 眉間にシワを寄せながら、二人でため息を吐いた。



作品名:のろいの結び目 作家名:やよ